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 コンピュータ業界にとどまらず、近年の最もホットな社会的トピックは、人工知能(AI:Artificial Intelligence) と言えるでしょう。そして、その中核的な技術が機械学習 (Machine Learning) です。

 「アレクサ」や「Ok, Google」と呼びかけるだけでアシスタントシステムが動くのはご存知かと思いますが、他にもユーザーごとに興味のありそうな商品を提案したり、人工知能技術によって付加価値をつけられたサービスが続々と登場しています。もちろん、経営の意思決定をするにあたって人工知能の判断を参考にすることも多くなっているようです。少し前には「ビッグデータ」という言葉が話題になっていたのですが、最近はあまり強調されなくなりました。しかし、この大量のデータの活用先の1つとして機械学習が注目されているというのが現状です。

 人工知能と聞くと、新たな技術と感じている人が多いかもしれませんが、実は人工知能はこれまでに世界的に注目を集めた時期がありました。いわゆる第一次人工知能ブーム、第ニ次人工知能ブームです。

 まず、人工知能誕生となったきっかけは、1956年にアメリカのニューハンプシャー州にあるダートマス大学にて開催されたダートマス会議で、ジョン・マッカーシーやマービン・ミンスキーが人工知能に関する提案書を発表したことが発端で、そこで初めて「人工知能」という名称が用いられたといわれています。ジョン氏の提案書の内容は、「機械学習の実現」というものでした。機械学習の実現とは、人間が行っている学習能力と同じ機能をコンピュータで実現しようというアプローチです。しかし、チェスや将棋などの簡単な問題は解けても、病気にかかったときにどのように治療法すればよいか、というような現実的な問題は解決できませんでした。問題に対する「知識」と「判断力」が不十分でした。実は既にこの頃には現在の人工知能・機械学習ブームの根幹技術である、脳の模倣という観点からのニューラルネットワークの研究もいくつかあったのですが、当時の計算機パワーには限りがあり現実的な問題は解けずにいました。こうして第一次人工知能ブームは幕を閉じました。

 その後、第一次人工知能ブームでの知識と判断力の欠如という反省や経験を生かし「エキスパートシステム」が研究開発され、1980年代に再び第二次人工知能ブームが起こりました。エキスパートシステムとは、人間の知的部分の判断能力や意思決定力をプログラムとして組み入れたシステムです。そこに知識を加えると、人間の頭脳に近づくのではないかというアプローチで、例えば医療の分野でいうと「患者のあらゆる症例に対して対応する治療法をデータとしてコンピュータに取り込むことで、この病気にはこの治療法ということが導
きだせる」という考え方で、実際に、症例を限定した MYCIN というエキスバートシステムが開発されました。

 しかし、ある程度の知識と判断力は持てたものの、所謂「常識」をコンピュータに持たせることは難しかったのです。極端な例ですが「風邪をひいて熱が出ている」という症状に対して、知識と判断力だけの解決法だと「鎮痛解熱剤を飲ませる」のような方法の他に「殺す」という方法が選ばれる可能性があります。何故なら人は死ぬと気温と同じになる、つまり体温は下がるというわけです。これも確かに答えの1つではありますが「常識」的にはそもそも熱を下げる目的は命を守ることが前提なので殺すことはありえないわけです。このような常識を理解することがコンピュータにはとても難しく「フレーム問題」といわれて当時の研究者を苦しめました。またこの第二次ブームの時にもニューラルネットによる機械学習的なアプローチも引続き研究されていましたが、やはり大規模な問題を解決するには至りませんでした。こうして、当時の技術では問題解決がなかなかうまくいかず、第二次人工知能ブームも終わりを迎えました。

 そして今が第三次人工知能ブームです。その立役者はニューラルネットの発展形であるディープラーニング(Deep Learning, 深層学習)です。実は機械学習とニューラルネットは本来別のものです。機械学習はデータから規則を自動で見出して分類や予測に利用する手法一般のことで、ニューラルネットは前に述べてあるように人工知能というものを達成するために人間の脳を模倣してモデル化する技術です。元々は別のアプローチなのですが、現在ではニューラルネットワークがデータから規則を見出してうまく予測することも可能となり、機械学習を行なうための一手法としてニューラルネットワークがとらえられます。実際、脳科学の発展にあわせてディープラーニングが登場したことによりニューラルネットワークは復権しました。

 解析しようとするデータに対して専門家でなければ行えなかった特徴抽出を、ディープラーニングが自動で行なえるようになっていますが、なぜディープラーニングは特徴抽出ができるのかはまだ明らかになっていません。とはいえその特徴抽出能力は非常に優秀です。将棋のプロ棋士が機械学習を導入したソフトに負けるようになったときも囲碁はまだまだプロ棋士に追いつけないとされていましたが、ディープラーニングを導入した囲碁ソフトが最近プロ棋士を負かしたのは大きなニュースになりました。
  • https://www.engadget.com/2016/03/12/watch-alphago-vs-lee-sedol-round-3-live-right-now/より引用

 ディープラーニングの計算は非常に大量の計算機資源を使って行われており、力任せ (Brute Force) の手法でしかないという批判もあります。しかし、たくさんの計算機を使うことは計算時間の短縮という本質ではない問題であり、囲碁の戦局の判断ができるようになったということ自体がディープラーニング研究の大きな成果であることは間違いありません。個々の目的に応じて専門家が計算機に学習させるのではなく、ディープラーニングという手法が実現したことは大きな意義があります。

 今後、ディープラーニングさえ使ってしまえば、人間はいらないということにもなりかねません。多くのビジネスの分野では、人件費を削減するために自動化を行おうとするでしょうし、無人コンビニなどは既に実験が始まっています。技術的特異点 (Singularity) と呼ばれる、人工知能が完全に人間の能力を追い越してしまう時点についての議論もされています。しかし個人的には、人間の尊厳の問題に関して人工知能達成という目標への過大な期待とが複雑に絡みあっているような気がしています。ディープラーニングは確かに成果を挙げていますが、計算機を動かすために電力を大量に消費しないといけないわけで、人間の脳はずっと小さいにもかかわらず囲碁も将棋も画像認識も音声認識もしていますし、エネルギー効率の観点からも、まだディープラーニングは脳の汎用性に対しては全くかなわないです。

 ディープラーニングは確かに大きな進歩ですが、脳を模倣しようとするという点では、まだ始まったところじゃないかと思っています。人工知能の研究は長く続けられてきましたが、まだまだ過渡期です。脳の活動のさらなる研究、その知見を応用した人工知能研究、機械学習などの数学的な手法の研究などが有機的に協調発展していけば、理想形である「人工知能」が達成できるのではないかと考えています。

身近な経営情報あらかると

 本連載では、われわれ阪南大学経営情報学部の教員が日頃の研究成果をもとに、みなさんの暮らしに役立つちょっとした知識を提供していきたいと考えています。研究分野はさまざまですが、いずれの場合も社会に役立つことを最終目標としています。難しい理論はとりあえず脇に置いて、身近な視点から経営情報学部に興味を持ってもらえれば幸いです。

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