情報化社会の象徴の1つであるパソコン。このパソコンを買いに家電量販店に行ってみたとしましょう。そこであなたは、各企業がスペックに優れた高性能パソコンから、最低限の機能を備えた低価格のものまで、さまざまな種類のパソコンを提供していることに気づくはずです。しかし、なぜ企業は特徴の異なるパソコンをいくつも用意する必要があるのでしょうか。
 これには、買い手である私たちの製品評価の方法が多様であるということが関わっています。私たちは買い物をするとき、実は常に「価格は高くても自分が納得できる品質の製品を買いたい」と思っているわけではありません。ときには「値段が安ければいい」と考え、品質を度外視して低価格品を買うこともあるでしょう。そしてここで重要なのは、同じ製品を評価する場合でも、人によってその方法が異なるという点です。
 パソコンの話に戻って考えてみましょう。第1の消費者の例としてパソコンにこだわりのある人を想定してみます。このタイプの消費者は自分の求める機能については妥協したくないと考える傾向が強そうです。そのため、その機能面でもっとも優れたパソコンを高く評価します。そしてパソコンに対してこだわりがあり、妥協したくないという意識が強いために「価格が高いからこのパソコンはあきらめる」といった判断は一般的にあまりしたがりません。むしろ、「価格は高いが自分が重視している機能は素晴らしい、総合的に考えればこのパソコンは自分に合っている」と評価をします。つまり、このような消費者は高機能であるという長所と高価格であるという短所を理解した上で製品を包括的に評価し、自身にもっとも適したパソコンを識別しようと努力するのです。結果としては、高価格でも高機能のパソコンが多くの場合高く評価されるでしょう。
 第2の消費者の例としてパソコン初心者を想定してみましょう。初心者は「機能は高ければ高いほどよい」「高価格は受け入れる」と考える先ほどの消費者とは異なる判断をしそうです。まず機能については、初心者は「自分が求める水準が満たされていればよい」と考えることがよくあります。機能が優れているのは魅力的ですが、もっとも機能が優れているパソコンにこだわる理由がないのです。また価格についても、自分が設定している上限額の範囲内でパソコンを評価しようとする傾向が顕著です。つまりこのタイプの消費者は、価格は高いが機能が素晴らしいパソコンを包括的に評価するのではなく、「価格が自分の設定している上限を上回っているから」といった理由で、たとえ機能が優れていたとしても購買対象から除外するのです。以上から、このタイプの消費者には価格は抑え気味で中程度の機能のパソコンが高く評価されそうだとまとめられます。
 第3の消費者の例として、とにかく低価格を好む人を挙げてみます(あらゆる製品カテゴリーで低価格を好む消費者は存在します)。このような消費者は第1の消費者が好む高価格でも高機能のパソコン、第2の消費者が好む価格は抑え気味で中程度の機能のパソコンのどちらも高く評価しないでしょう。なぜなら、このタイプの消費者は機能が高くてもそこには注意を払わず、価格のみを判断材料にしているためです。この点を考慮すると、第3の消費者に高く評価されるのは最低限の機能で低価格を追求したパソコンになるでしょう。
 高価格でも高機能のパソコンを好む消費者、価格は抑え気味で中程度の機能のパソコンを好む消費者、最低限の機能で低価格のパソコンを好む消費者、このような消費者全員に高く評価されるパソコンを提供することはできません。評価の際に重視されるポイントが消費者間で大きく異なるためです。したがって企業としては、消費者の製品評価の方法を踏まえ、各評価方法に適したパソコンをそれぞれ提供することが製品販売における重要な課題となるのです。つまり、さまざまなスペックのパソコンが同時に提供されているのは、私たち消費者の多様な製品評価に対応しようとする企業のマーケティング戦略の1つの表れだと解釈できるのです。

身近な経営情報あらかると

 本連載では、われわれ阪南大学経営情報学部の教員が日頃の研究成果をもとに、みなさんの暮らしに役立つちょっとした知識を提供していきたいと考えています。研究分野はさまざまですが、いずれの場合も社会に役立つことを最終目標としています。難しい理論はとりあえず脇に置いて、身近な視点から経営情報学部に興味を持ってもらえれば幸いです。

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