1.突然ですが・・・日本で一番長い会社の名前は?

 突然ですが、みなさんは日本で一番長い会社名を持つ会社を知っていますか?
 私の調べたところによると・・・「株式会社あなたの幸せが私の幸せ世の為人の為人類幸福繋がり創造即ち我らの使命なり今まさに変革の時ここに熱き魂と愛と情鉄の勇気と利他の精神を持つ者が結集せり日々感謝喜び笑顔繋がりを確かな一歩とし地球の永続を約束する公益の志溢れる我らの足跡に歴史の花が咲くいざゆかん浪漫輝く航海へ」という会社だそうです。その文字数は「株式会社」も含めて137文字!です。この会社の社長さんによると、「経営理念をそのまま社名にしてみた」とのことです(『日経MJ(流通新聞)』2017年10月16日を参照)。
 この講座では、この会社ほどではありませんが、長い会社名を持つ会社に注目します。とりわけ、「2社以上の会社が法的な手続きを経て1つになる合併(Merger:M)」と「ある会社が別の会社の株式を買うことで自分の会社の仲間にする買収(Acquisition:A)」する(これらをまとめてM&Aと呼びます)ことでできた、長い会社名を持つ会社の経営について考えてみたいと思います。

2.語句の説明

 この講座で最も大事な言葉はM&Aです。この言葉については、先ほど解説しました。要は、2社以上の会社が何らかの形で1つになる。あるいは、同じ仲間(グループ)になることを指します。

図1 M&Aのイメージ
(1)合併

(2)買収

 次に重要な言葉は会社という言葉です。会社のことは企業とも呼ばれますが、この講座では、会社という言い方で統一してお話を進めますね。ちなみに会社とは「お金儲けを目的に、何らかの活動(=ビジネス)を行う、人やお金などの集まり」のことです。また経営とは、さしあたり「何らかの方法を駆使して、他社よりもうまくお金儲けすること」であると理解してください。何らかの方法を考えることを、経営学では主に経営戦略と呼びます。つまり経営戦略は、「会社の長期方針」だと理解してください。
 会社は、企業の長期方針である経営戦略を考え経営を行います。その経営戦略が正しいかどうかの結果が利益で測定されるのです。今回お話する、M&Aも会社が採用する経営戦略の1つであるといえます。

3.有名な会社の昔の名前は?

 次の図をご覧ください。これは、日本で一番規模の大きな、「三菱UFJ銀行」ができるまでを示したものです。

図2 三菱UFJ銀行の歩み

 さらに図2を計算式で書いてみると以下の通りです。1つの銀行が出来るまでに、途方もない時間と数多くの合併が行われていることがわかりますね。
① 第百国立銀行(1878)+川崎銀行(1880)=川崎第百銀行(1927)(A)

② 三菱為換店(1880)=三菱銀行(1919)(B)
  川崎第百銀行(1927)(A)=第百銀行(1936)(C)

③ 三菱銀行(1919)(B)+第百銀行(1936)(C)
  =千代田銀行(1948)(D)
  第三十四国立銀行(1878)=三十四銀行(1897)(E)
  第百四十八国立銀行(1876)=山口銀行(1898)(F)
  第十三国立銀行(1877)=鴻池銀行(1897)(G)

④ 横浜正金銀行(1880)=東京銀行(1946)(H)
  千代田銀行(1948)(D)=三菱銀行(1953)(I)
  三十四銀行(1897)(E)+山口銀行(1898)(F)
  +鴻池銀行(1897)(G)=三和銀行(1933)(J)
  愛知銀行(1896)+名古屋銀行(1882)+伊藤銀行(1881)
  =東海銀行(1941)(L)

⑤ 東京銀行(1946)(H)+三菱銀行(1953)(I)
  =三菱東京銀行(1996)(M)
  三和銀行(1933)(J)+東海銀行(1941)(L)
  =UFJ銀行(2002)(N)

⑥ 三菱東京銀行(1996)(M)+UFJ銀行(2002)(N)
  =東京三菱UFJ銀行(2006)(O)

⑦ 東京三菱UFJ銀行(2006)(O)=三菱UFJ銀行(2018)(P)

4.どうして、2つ以上の会社が1つになっていくの?

 M&Aの効果については、色々な研究がありますが、一般的には「1社でいるよりも、2社が合体した方が、利益がたくさん出る可能性がある」からです。
 例えば、今回お話している、三菱UFJ銀行を考えてみます。まず、同じエリア(駅前など)に2つの支店があった場合、そこで働く人やお店、機械などそれぞれに費用がかかります。これを1つにまとめることができます。また、少し難しい話ですが、ATMなどのコンピュータシステムも1つにまとめることができるので、それにかかる費用も大きく節約できます。
 次に、M&Aによって売り上げなどが合計で高まり「規模が大きく」なります。規模が大きくなると次のようなメリットが出てきます。①規模の経済性が働く、②範囲の経済性が働く、③お客さんや他の会社といった多くの人からの信用が高まる、です。

 まず①は、売り上げなどが大きくなるということはそれだけ、お店の規模や数、さらには、そこで働く人も多くいるということです。銀行の場合は、取扱い金額が莫大になるということです。このため、大きな企業への融資や、海外への進出などがしやすくなり、さらに大きな利益を確保する可能性が高まります。②は、銀行以外の仕事にも進出することができるようになります。例えば、証券業などへの進出ができるようになります。③は、銀行の支店やATMが町中に多くあることや、CM、さらには、皆さん自身がこの銀行の口座をもつことなどで、三菱UFJ銀行のことを良く知るようになり、その結果、この銀行を好意的に見ることができることを指します。その結果、みんながこの銀行を利用するようになる。さらには、ここで働きたくなるといった良い影響が出る可能性があります。このようにM&Aには良い面がたくさんあります。
 ただし、M&Aには良い面だけではないことも指摘しておきます。例えば、売り上げや店舗数など規模は大きくなったものの、実態は何も変わらず利益率があがらないことがある。また、新しい会社になったものの、そこで働く人の考え方が違っており仲良くできないこともあります(これを一般に企業文化の違いと呼びます)。

5.まとめ

 今回は、1つの銀行を取り上げてお話をしました。結論は以下の通りです。
 ①実は、M&Aはかなり昔から数多く行われている。
 ②M&Aには、規模の経済性、範囲の経済性、信用力の向上といったメリットがある。
 ③しかし、規模だけが大きくなるだけで、思ったような効果が出ないこともあること。
 阪南大学経営情報学部では、会社の行動を丁寧に見ながら、なぜ、この会社はたくさん利益を出しているのか。または、この会社は利益を出せないのか、について、経営学の諸理論を駆使しながら、理解することを目指します。理論と実態を融合させ、本当の会社行動を見抜く力をつけられるようにカリキュラムが構成されています。
 この講座では、皆さんからのご希望・ご声援があれば、引き続き会社と経営学の関連についてお話して行く予定です。是非とも、応援の程お願いします。

身近な経営情報あらかると

 本連載では、われわれ阪南大学経営情報学部の教員が日頃の研究成果をもとに、みなさんの暮らしに役立つちょっとした知識を提供していきたいと考えています。研究分野はさまざまですが、いずれの場合も社会に役立つことを最終目標としています。難しい理論はとりあえず脇に置いて、身近な視点から経営情報学部に興味を持ってもらえれば幸いです。

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