社会の情勢が激しく移り変わる中で、企業の“平均寿命” (創業からどのくらいの期間存続できるか)といったことが語られるようになりました。かつて30年と言われた“平均寿命”は、今や23.5年(東京商工リサーチ 2017年「業歴30年以上の『老舗』企業倒産」調査)、かなりの“短命”となりました。

 他方、少子高齢化に伴い、人手不足や後継者不足の問題も深刻化しています。これらのことから、次の世代に事業を引き継ぐことは、決して簡単ではないということが分かりますね。
 その一方で、日本には何代も事業を受け継いで存続している“長寿企業”が、世界に類を見ないほど数多く存在していいます。
 そこで2018年は、学生と一緒に、そうした“長寿企業”の事例研究に取り組んできました。本日はその中から、特に学生が注目した1つの事例をご紹介します。
 それは100年以上もの間、着物に関わる事業を続けていらっしゃる会社でした。
 皆さんもご存じの通り、戦後、日本では生活スタイルの西洋化が一気に進み、幅広い層に洋服が普及しました。昔は普段着としても着られていた着物ですが、日常で着る機会はほとんどなくなりました。着物は専ら礼装になり、金額も高額化して、簡単には手の出せない高級品、といったイメージが強くなりました。そうしたことから、次第に着物に対する知識が乏しくなり、今では、着るのもお手入れも面倒、といった印象を持っている人が少なくないと思います。着物離れが加速する中で、この会社だけでなく、着物業界全体が厳しい状況に立たされたようです。

 そこでこの会社では、多くの人に着物を着てもらうための“入り口”として、まず、着やすくて管理が簡単で、そして安価な素材を使った着物を提供する試みをされました。また、着物に関する知識のない人でも購入して着られるように、最低限必要なモノのみをセットにして販売したり、インターネットで簡単な着方を説明する工夫もされました。さらに、着物を楽しむ機会を提供するため、様々なイベントなども開催されています。
 ここで学生が注目したのは、この会社が新しいことにチャレンジしている、ということではなく、日本の伝統文化や伝統技術に敬意を払い、民族衣装としての着物を心から愛していて、その魅力を伝えていくために懸命な努力をしながら事業を承継されているということでした。

 激しく移り変わる時代の中で、伝統を守りながら事業を承継していくのはたやすいことではありませんが、こうした素晴らしい会社が日本にはたくさんあるのですね。

身近な経営情報あらかると

 本連載では、われわれ阪南大学経営情報学部の教員が日頃の研究成果をもとに、みなさんの暮らしに役立つちょっとした知識を提供していきたいと考えています。研究分野はさまざまですが、いずれの場合も社会に役立つことを最終目標としています。難しい理論はとりあえず脇に置いて、身近な視点から経営情報学部に興味を持ってもらえれば幸いです。

連載講座 「身近な経営情報あらかると」 過去記事はこちら