歩く観光の可能性:フットパスと地域づくり-観光人類学

国際観光学部教授 塩路有子

 20世紀後半以降、地球規模での人の移動は、マスツーリズムとともに、世界各地で経済効果というプラスの影響と同時に、多くのマイナスの影響を及ぼしました。たとえば、自然環境の破壊や汚染、犯罪や売春の増加、貧富の差の拡大、病気の流行、伝統文化の喪失や変容です。現在のコロナ禍は、特に病気の流行という点で、私たちに人の移動のグローバル化を実感させるとともに、その恐ろしさも教えることになりました。
 国際観光学部の「観光人類学」という授業では、こうした観光のマイナス面を含めて、これまでのマスツーリズムを中心とした観光は、どのような仕組みによって起こり、それによって現地に何が起こり、現地の人々がどのような問題に直面しているかを学びます。その上で、学生には私たちがどのように行動するべきかを考えてもらいます。
 各教員が少人数制で担当する専門演習(ゼミ)では、それらの行動をゼミ活動で、具体的なところから実践しています。塩路ゼミでは、「フットパスとまちづくり」という視点から「歩く観光」によって「地域づくり」に取り組んでいます。「フットパス」(footpath)とは、英国発祥の「歩く小道、散歩道」のことです。歩くことで、ゆっくりと地域を知り、人々と交流し、産物を食す、そうして地域について学び、体験することが可能になります。それは、これまでのハイスピードで効率主義的な観光のあり方ではなく、むしろスローライフでマニュアルな観光のあり方です。しかし、歩く観光は、環境に優しく、飲食や宿泊によって地域経済の活性化も実現できます。なにより、地域をじっくり知ることができるため、地域の人々にとっても外から来た人々が自分の住む地域を理解してくれる嬉しい機会になります。塩路ゼミでは、それを学生たちが体験し、地域の人々に伝えることで地域づくりへのきっかけを掴んでもらう試みを続けています。
 人間のグローバルな移動である国際観光は、人々の間に交流を生み、異文化理解を促進し、ひいては国際平和に貢献することもできる活動です。しかし、それはハイスピードで、マスツーリズムで、効率的である必要はありません。コロナ禍の今だからこそ、歩く観光の可能性を見直す機会ではないかと考えています。
  • 兵庫県豊岡市但東町での活動

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