知識を組み立てて感動させる観光をめざす-観光歴史学

国際観光学部教授 來村多加史

 阪南大学のすべての学生が受けられる日本史・東洋史・世界遺産の科目を担当する一方、国際観光学部では、「観光歴史学」や「観光資源解説方法論」など、観光学を支える知識や技能を伝授する授業を担当しています。私はプロのガイドとして観光業の現場でも働いていますが、観光業界が主軸とする観光は、対象によって大きく二つに分かれます。「自然観光」と「文化観光」です。たとえば、海や山の景色を楽しむのが自然観光、人が創った建造物や作品を楽しむのが文化観光です。
 そして、どちらにも必要とされるのが「感動」です。自然や人工物を見て、「美しい」「素晴らしい」と思わなければ、わざわざ高いお金を払ってまで旅に出かける意味はありません。日常生活では得られない感動を求めて、人は旅に出かけるのです。その意味で、観光は映画やコンサートやテーマパークなどとよく似ています。
 自然観光は「見て楽しむ観光」ですので、ちかごろではネット検索で調べて、個人で楽しむ人が増えています。たとえば、桜を楽しめる場所にゆき、自分で眺めて楽しめばよいのです。そこに説明は不要です。おいしいものを食べたり、温泉につかったり、楽しい体験をするのも、同様です。あまり深い知識はいりません。
 大学教育が担うべき観光は「文化観光」の分野であると、私は思っています。こちらは「知って楽しむ」観光ですので、相当に奥が深い。逆に、その分野の発展には、大学での知識や経験が活かせます。私の担当科目である「観光歴史学」はその一部を担っています。それは「観光の歴史」を教える授業ではなく、「観光のための歴史学」を教える授業です。
 わかりやすく説明するため、1枚の写真を用意しました。奈良の東大寺で寺の壁を学生に説明している私です。土で作った壁ですが、等間隔に昔の瓦をはさんでいます。そこに奈良時代の瓦が含まれているのです。1300年前のモノがこんな身近に並んでいるのです。そのことを説明すると、たいていの人は驚きの声をあげます。それほど大きな感動ではありませんが、1日のうちに小さな感動を重ねてゆくと、旅の終わりには、かなりの充実感をもっていただけます。「ああ、今日は案内してもらってよかった」と、本心からそう言っていただけるのです。ただ、考えてみてください。どうして私は「奈良時代の瓦」であることがわかるのでしょうか。そこが知識と経験のなせるワザなのです。
 新型コロナウイルスの影響で観光業は大打撃を受けています。これを建て直すのは、観光業にたずさわる人々の、それぞれの懸命な努力しかありませんが、観光学にたずさわる私たちができることは何でしょうか。それは、こういう小さな知識をうまく組み立て、大きな感動を引き出すワザであると、私は信じています。そう信じながら、観光に役立つ知識をできるだけたくさん学生に伝授するのが、私の使命であるとも思っています。
  • 東大寺真言院の練塀を学生に説明する様子

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