ほぼ1年をかけて取り組んできた卒業研究の成果を発表しました

 2月4日(金)、森重ゼミ2~4年生の34名が出席し、第9回森重ゼミ・卒業研究発表会を開催しました。卒業研究は学生自らがテーマを設定し、現状把握から社会的課題を見出し、調査・分析・考察を通して結論を導くという論理的思考を実践する場であり、大学4年間の学びの集大成といえます。そして、この卒業研究発表会を通して、自身が考えたことを的確に人に伝えるプレゼンテーションの能力の醸成もめざしています。4年生は毎年慣れない2万字以上の論文執筆に苦労するのですが、今年度も何度も加筆修正を繰り返し、卒業研究に取り組んできました。
 今回の卒業研究発表会では、4年生10名がさまざまなテーマで発表、質疑応答を行った後、3年生が和歌山県湯浅町で実施したゼミ研究の成果「Z世代が切り拓く湯浅の魅力」を発表しました。4年生は昨年度、高知県大月町で予定していたフィールドワークがコロナ禍で実施できず、今年度もなかなか思うように現地調査ができず、卒業研究が進めづらかったと思いますが、例年に遜色ない研究成果を発表していました。
 以下で、卒業研究を提出したゼミ生の研究テーマおよび要旨を紹介します。(森重昌之)

当日の様子

  • 開会挨拶の様子

  • 卒業研究発表の様子

  • 卒業研究発表の様子

  • 卒業研究発表の様子

  • 卒業研究発表の様子

  • 3年生のゼミ研究成果発表の様子

  • 質疑応答の様子

  • 質疑応答の様子

  • 卒研発表会後の集合写真

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卒業研究のテーマおよび要旨

ペットの殺処分を減らすためには(No.109)
 国際観光学部4年 和田朱里

 本研究では、虐待やペットビジネスで処分される犬猫をどのようにして減らしていくかを明らかにすることを目的とした。まず現状を知るために、①動物虐待の現状と法令、②日本の犬猫の殺処分件数、③殺処分に繋がる原因、④殺処分の現状、⑤殺処分の方法、⑥海外と日本の保護施設の差・ペットショップの存在、⑦虐待行為の心理、⑧殺処分ゼロへの取り組みと効果、⑨世間の認知度の9項目に分けて現状を把握した。これらの現状から、ペットの命に対する意識の低い飼い主の身勝手な行動と虐待しない環境づくりの2点が課題としてあげられた。これらの課題の解決策を見出すために、インスタグラムを利用し、計105名の10代から30代の男女にアンケート調査を行った。アンケート調査の結果と殺処分ゼロを実現しているドイツの事例をもとに、解決策として、①ペットショップでの犬猫の販売時に将来の犬猫が想像できるよう親犬親猫の写真を提示することや、飼い主にふさわしくない人への販売を防止するためのチェックシートの導入、②飼い主に命を扱う責任感を持続させるための教育、③殺処分の認知度や引き取りの現状を知るためアンケート調査から、現状を知るためのSNSや動物テレビ番組の活用、④ペットと触れ合いたい時のみ触れ合える飼い主を体験できるホテルの設置を提案した。

コロナ禍後のオンラインツアーの可能性-琴平バス株式会社を事例として(No.110)
 国際観光学部4年 大津皆裕

 新型コロナウイルス感染症の影響によって外出や移動が制約されたため、人の移動が激減し、緊急事態宣言下では旅行需要は壊滅的状況となった。そのような中、コロナ禍で観光の新しいツールとしてオンラインツアーが開始され、琴平バス株式会社は世界で初めてオンラインバスツアーを展開した。本研究では、オンラインツアーの現状や取り組みを明らかにし、コロナ禍後のオンラインツアーの可能性について検討することを目的とした。現状分析において、香川県の概要とオンラインツアーの概要、琴平バスのオンラインツアーの取り組みやリアルのバスツアーとの違いについて分析した。合わせて、オンラインツアーの知名度や関心度を知るためにアンケート調査を実施した。また、60歳以上の方を対象に聞き取り調査も行った。その結果、①オフラインでは楽しめないものに魅力を感じること、②高齢者にとってパソコンやスマートフォンを利用するにはハードルが高いこと、③知名度がかなり低く、本来のオンラインツアーの魅力が伝わっていないことが明らかとなった。そこで、コロナ禍後のオンラインツアーの可能性として、 ①なかなか入ることが難しい場所のツアーを増やすなど、オンラインならではの魅力づくりを行うこと、②高齢者にとって参加しやすい環境をつくること、③オンラインツアーのPRの推進によってオンラインツアーの知名度を高めることが必要であることを明らかにした。

和歌山電鐵貴志川線の存続に向けて(No.111)
 国際観光学部4年 福田龍之介

 和歌山電鐵貴志川線は存続に向けてキシカイセイプロジェクトをはじめ、さまざまな施策を実施しているが、これらによって路線の存続が可能かどうか検討することを目的とした。まず、貴志川線の年間利用者数を調査し、利用者数が前年度と比べて突出して増加もしくは減少していた年度に実施されたイベントや企画、災害などを調査し、利用者数増減の原因を明らかにした。そして、現在進行中の施策について調査し、現在の施策では継続した利用者数の確保は困難である点を課題とした。そこで、他のアニメ聖地やラッピング電車の運行効果によって利用者が増加した事例を調査し、地域住民とファンの協力したイベントの実施、ラッピング電車と地域魅力の同時発信、その地域でしかできない特典の付与が成功要因であると分析した。その結果から貴志川線の存続に向けて、地域とファンが触れ合える場、地域とファンが協力したイベントの実施、たま・ニタマ駅長限定品の継続販売、周辺観光地との連携の強化を提案した。

挙式件数の増加に向けた結婚式の価値の創出(No.112)
 国際観光学部4年 河合唯

 昨今、挙式件数は減少傾向にある。そこで、本研究では挙式件数を増加させる方策やLGBT婚について検討し、結婚式に価値を見出せていないこと、またLGBT婚が浸透していないことを課題にあげ、それらを解決することを目的とした。調査では、結婚式を挙げた新郎新婦の口コミの調査や聞き取り調査を実施するとともに、企業の取り組みなどを調査した。その結果、結婚式に対する価値は結婚式を挙げる前に感じている人や後から感じている人がいて、さまざまな価値が結婚式にあることがわかった。また、LGBT婚の取り組みについても、企業側は「rainbow wedding」と名づけ、他の企業と協力しながら研修などを行っていることがわかった。そこで、結婚式の価値を見出すために、結婚式を挙げた人が感じた価値を身近なSNSで共有することや、結婚式と観光の両方を楽しんでもらうためのプランを作成することを提案した。また、LGBT婚を広めるために、LGBT婚が一般の結婚式と変わらないことを周知する雑誌を作成し、書店に置くことを提案した。

京都市のアフターコロナに向けたオーバーツーリズムの解決策(No.113)
 国際観光学部4年 松山岳史

 現在、新型コロナウイルス感染症が蔓延し、世界中で観光客数が落ち込んだ状態にある。京都市でもオーバーツーリズムに直面していたが、コロナ禍で一時的に解消された。これを機に、コロナ禍前に直面していた問題を解消する必要がある。そこで、本研究は京都市を事例に、アフターコロナに向けた解決策を検討することを目的とする。まず、コロナ禍前の市民、観光客それぞれの視点での満足度、残念度など、京都市の観光の弊害を調べた。その結果、市民視点の課題では、市バスの混雑により市民がバスに乗車できない問題があった。また、観光客視点では、観光客が大勢訪れることでその地の良さがなくなり、日本人観光客が減少するという問題があった。これらの課題を解決するため、鎌倉や白川郷、パリでの解決策を調査した。さらに、外国人観光客のアフターコロナでの訪日意向と情報収集の方法についても調べた。その結果、京都市のオーバーツーリズムの解決に向けて、市民優先のしくみづくり、交通機関のエリア分けによる観光に便利なしくみづくり、完全予約制による混雑緩和を提案した。

なぜ人は古着の街に訪れるのか-オンラインショップが盛んな現代において(No.114)
 国際観光学部4年 河崎隼人

 現在、日本に限らず、世界中でンラインショップが隆盛している。しかし、筆者も含め、実際にアメリカ村や下北沢、高円寺などの古着の街を訪れ、購入する人も少なくない。そこで、オンラインショップがここまで盛んになる中で、なぜ古着の街にさまざまな人びとが訪れ、観光地として成り立っているのか、人びとが何を求めて訪れているのか明らかにすることを本研究の目的にした。まず、古着の概念や観光地としての古着の街を調べるための文献調査を行った上で、古着の街を訪れる人や店舗のオーナー、オンラインショップの利用者に対して聞き取り調査を実施し、来訪目的などを調査した。その結果、古着の街への来訪には店員との会話や新たな店舗、古着の発見などの楽しみ方をより多くの人に理解してもらうことが必要であることを指摘した。さらに、古着の街で働くスタッフや街を往来する人びとのスタイリングを参考にするといった「現地でしか体感できない愉しみ」を増やすことが求められていることを明らかにした。

デジタル技術の普及によるアナログ価値の見直し(No.115)
 国際観光学部4年 白野佑一

 近年のデジタル技術の発達によって我々の生活も便利になった、デジタル化されたものを身の回りで探してみると意外に多く存在する。例えば、スマートフォンは電話やカメラなどの機能だけでなく、ポケットサイズの端末1つでさまざまな情報を得ることができる。しかし、デジタル技術の普及とともに、アナログが持つ「自分で行動し、考える力」が失われつつあると感じた。そこで本研究は、アナログとデジタルのメリットとデメリットを比較するとともに、デジタル化による影響を明らかにした。その上で、世の中のどのようなモノがデジタル化されたのか聞き取り調査を行い、リスト化した。そして、リストから共通点を探し出し、アナログの魅力、とりわけ「自分で行動し、考える力」の重要さを後世にも残していく方法を検討した。その結果、便利な社会だからこそあえて手間をかけ、自分でしくみを理解するというアナログの魅力に触れるきっかけになれる場所が必要と考え、「アナログの街」の創出を提案した。

父母ヶ浜の魅力の維持と観光客の分散の可能性(No.116)
 国際観光学部4年 伊藤綜一郎

 本研究では、2017年から観光客が急増した父母ケ浜を事例に、父母ケ浜の魅力を維持しつつ、周辺の観光地に観光客を分散させることを目的とした。はじめに、先行研究を整理し、既存の研究では父母ケ浜でのごみの問題と観光客の分散に言及した研究は見られないことを指摘した。次に、三豊市の現状と父母ケ浜の現状、周辺の観光客の状況を整理した。そして、父母ケ浜で起こっている問題に似た事例として、北海道の四季彩の丘と京都の事例を取り上げた。その結果、観光客の行動を禁止させるのではなく、父母ケ浜の歴史や現在行われている活動を観光客に伝えることで観光客の自制を促すことを提案した。また、観光客自らが周辺の観光地の写真などを投稿することで、他の観光客が旅行前に情報を得ることができ、周辺の観光地へ分散する可能性を示した。

地域住民にも観光客にも利用される水産施設づくり-和歌山県御坊市のはし長を事例に(No.117)
 国際観光学部4年 有地美慧

 和歌山県御坊市にある株式会社はし長は魚屋であるが、野菜販売や喫茶店など新たな取り組みを始めている。近年、はし長の近隣にある海岸にサーファーが訪れるようになっている。このことから、本研究では地域の交流人口を増やし、地域住民に誇りと愛着を持ってもらうきっかけとなるよう、はし長が地域住民にも観光客にもよく利用される施設になるにはどうすればよいか検討することを目的とした。そこで、先進事例として白浜町にある「とれとれパーク」を取り上げ、文献調査とアンケート調査、現地調査から、とれとれパークの集客の成功要因や事業拡大のきっかけを分析した。その上で、はし長の利用促進に向け、①低廉なコストで宣伝すること、②1か所で多様な楽しみを提供すること、③季節によって異なるイベントを開催すること、④老若男女が楽しめるサービスをすることを提案した。

飛行機はなぜ「飛び恥」と言われるのか(No.118)
 国際観光学部4年 岩﨑陽向

 本研究は、飛行機がなぜ「飛び恥」と言われるのかについて明らかにすることを目的とした。まず、先行研究を整理し、温室効果ガスの排出を避けることから生まれた用語である「飛び恥」に関する研究が少ないことを指摘した。次に、航空産業や各航空会社の取り組みの現状を整理した。その結果、飛行機から排出される排気ガスは全体の2%にすぎないにもかかわらず、「飛び恥」と言われていることがわかった。そこで、「飛び恥」とはどのようなことを指すのかを明らかにすることが「飛び恥」の正しい理解につながると考え、「飛び恥」に関するさまざまな記事を調査した。調査の結果、「飛び恥」=「飛行機が環境に悪い」という認識は共通していたが、「飛び恥」が具体的に何を指しているかは飛行機に乗る行為や人びと、運動など、記事によってさまざまであった。このことから、利用する区間や鉄道との競合の有無や利用目的、ビジネスジェットなどの機材から、「飛び恥」といえるかどうか判断すべきであることを示した。