【松ゼミWalker vol.161】 新今宮TIC便り─西成警察署との協働パトロール─(4回生 山中彩帆里)

 これまで松村ゼミでは,新今宮TIC報告をずっとアップしてきました。ところが,色々な事情があって,ゼミで話し合った結果,今後は毎回毎回の運営報告は行わず,何か変化や発展などがあったら,松ゼミWalker枠で「新今宮TIC便り」として紹介して行こう,ということになりました。今回の松ゼミWalkerがその第一弾で,新今宮TICや新今宮地区をめぐる最新事情を報告したいと思います。

なぜ新今宮TICの利用者は減りつつあるのか

 さて,ここ数年,新今宮TICの利用者は,減りつつあります。創設初期の2010年頃の利用者記録ノートを見ると,特に夏休みなどの長期休暇中は,1日30名近い利用者のある日がたびたびあります。ところが,最近は,利用者が10名を超える日は珍しいのが現状です。
 その一方で,新今宮TICへ視察や見学,関西各地の観光振興での協働や相談で来訪される方は,年々増え続けています。最近では新今宮TICの利用者よりも来訪者や見学者の方が多い日もあります。
 写真は,「観光実習導入」の授業で新今宮地区に来訪した国際観光学部の学生たち。新今宮TICはこうした視察やフィールドワークの拠点として活用されます。
 では,なぜ新今宮TICの利用者が減ったのか…。新今宮TICの利用者は8割が外国人なので,新今宮に外国人が来なくなったのか。それは間違いです。新今宮地区で宿泊する外国人旅行者は,東日本大震災の影響で2011年は一時的に減ったのですが,むしろ年々順調に増加し続けています。2013年は年間のべ12.2万泊だったそうで,この数字から計算すると,平均して毎日300名を超える外国人が,新今宮TICの近くに滞在していることになります。
 新今宮TICの利用者が減っている最大の原因は,何なのか。松村ゼミで議論したところ,「新今宮TICや地域のホテルが頑張ったから」という結論になりました。

 これまで松村ゼミでは,2012年の『新世界・西成 食べ歩きMAP(英語版・中国語版)』(【松ゼミWalker vol.88】「新世界・西成 食べ歩きMAP」が完成!!)や,2013年の『大阪・新今宮ガイドブック(日本語版・英語版)』(【松ゼミWalker vol.117】『大阪・新今宮ガイドブック』完成!!)など,新今宮地区に滞在する旅行者のニーズにあった観光資料を作り,新今宮地区のホテルと連携して配布して来ました。
 新今宮に滞在する旅行者は,何か困ったことがあるから,新今宮TICへ来られます。松村ゼミには,どのような旅行者がいつ来られ,何に困り,何を尋ね,それに私たちスタッフがどう対応したのか,という膨大な利用者記録が残っています。松村ゼミが作成協力してきたマップやガイドブックは,そうした旅行者が「何に困り,何を尋ねたのか」というデータに基づいて,観光情報を厳選しているので,まさに「その情報が欲しい」というものが掲載されています。
 つまり,結果として,旅行者たちのニーズから作成された観光資料が,ホテルで無料配布されているので,わざわざ新今宮TICまで来なくても,何とかなる状況になっている訳です。
 もうひとつ,新今宮地区で外国人旅行者を受け入れているホテルの外国人対応能力が,ここ数年で画期的に高まったことも,新今宮TICの利用者が減っている原因だと,松村ゼミでは分析しています。ホテルのスタッフはずいぶん若返り,英語だけでなく,中国語やタイ語をしゃべるスタッフもいます。フロントで配布する外国語の観光資料も充実してきました。現在,たいていの外国人旅行者の旅のニーズには,ホテルのフロントで十分対応できる状況にあるので,旅行者はわざわざ新今宮TICまで足を運ばなくなりました。
 新今宮TICの利用者が減りつつあるなか,2013年秋くらいから,松村ゼミでは,これまでの運営方法を刷新し,新たな活動の展開も考えるべき時期に来ている,と色々と悩みながら検討も始めています。近年,西成ジャズや大衆演劇など,地域のライブエンターテイメントを応援しているのも,南海電鉄の高架に巨大な壁画を描こうとしているのも,こうした事情から発想した結果です。

西成警察署と新今宮TICとの合同パトロール

 そうした状況のもと,西成警察署と新今宮TICとの官学協働での合同パトロールが,9月20日(土)から始まりました。西成警察署は2014年6月末,大阪府簡易宿所生活衛生同業組合やOIG委員会と協力して,外国人旅行者が犯罪に巻き込まれないよう,安全に滞在してもらおうとの趣旨から,新今宮地区のホテルを巡回してチラシを巻く防犯キャンペーン活動を行いました。
 このキャンペーン活動がとても好評だったので,1回限りのイベントで終わらせることなく,継続的な取り組みにつなげられないのか,夏休み期間中に,警察と地域との間で話し合いが進みました。その結果,西成警察署の警察官と新今宮TICの学生スタッフが協働で,9月末から10月末まで試験的に,新今宮地区で外国人旅行者が多く宿泊するホテルを巡る合同パトロールを行うことになりました。警察官は「何かお困りのことはありませんか」と,学生スタッフは「地図やパンフレットは足りていますか」などと声をかけます。

 第1回目の合同パトロールは9月20日(土)でした。それから毎週土曜日限定で,11時頃に新今宮TICで警察官と学生スタッフが集合して,4,5名が「防犯」の腕章をつけ,1時間弱ほどで太子1丁目のホテルを中心に回りました。
 土曜日の午前だけの活動ですが,学生スタッフでは特に,2回生の竹中さおりさんや,3回生の南亮輔君が活躍しました。回を重ねるごとに,警察官も学生スタッフも,巡回先のホテルのスタッフも慣れてきて,お互いの情報交換が進むようになりました。
 10月25日(土)の合同パトロールが,当初予定していた6回シリーズの最終回だったので,松村先生も新今宮TICへ集合され参加されました。
 今後の地域の安全・安心をめぐる産官学連携の展開については,試験的に行った合同パトロールの成果や効果をじっくりと検証して,それを発展継続させるのか,次の新たな取り組みを始めるのか,みんなで話し合うことになっているそうです。

 さて,最近の松村ゼミでは,西成警察署との合同パトロールとも絡んで,海外の観光都市の観光警察(Tourist Police)のことが何度か話題になりました。
 インバウンド観光の先進国のなかには,旅行者が旅先で犯罪やトラブルに巻き込まれないよう,旅行者の安全や安心の確保を専門的に担う警察組織がある国や都市があります。古くからあり有名なのは,タイのバンコクやギリシャのアテネの観光警察で,最近では韓国のソウルやロシアのモスクワでも,観光警察が創設されたそうです。
 観光立国を目指す日本でも,観光警察の創設は当然検討されるべき課題です。しかしながら,全国レベルで見ると,外国人観光客が全く来ない地域もあるでしょうから,なかなか全国一律に検討すべき課題にはならないでしょう。そんななかで,多くの外国人旅行者が宿泊している新今宮地区の存在はとても重要で,ここで色々な取り組みを試すことが,全国の先駆けとなるのではないか,と松村ゼミでは期待しています。