6月25日、阪南大学 経営学部「デジタルエコノミー論」では、製薬企業で渉外部門に所属されている島﨑優子様を講師としてお迎えし、「製薬業界における患者中心のエコシステムアプローチ」をテーマに特別講義を実施しました。

講義の前半では、「薬はどのように作られるのか」について、疾患の理解や創薬ターゲットの設定、臨床試験・非臨床試験とは、承認後の安全性確認とデータの活用に至るまで、一連の流れを丁寧に紹介していただきました。薬は研究室で発見されてすぐに患者へ届くものではなく、安全性と有効性を何段階にもわたって確認しながら、長い時間と多額の費用をかけて開発されます。その過程では多くの候補が開発中止となるため、意思決定の質とスピードをどのように高めるかが、製薬業界における大きな課題となっています。こうした課題に対し、創薬の各段階にAIやデジタル技術が導入が進んでいて、特にAIは候補物質の設計や選定、毒性予測、膨大なゲノム・臨床・論文データの解析などを支援し、創薬プロセスの短縮や成功確率の改善に貢献する可能性を持っているという紹介を頂きました。
  • 外資系製薬企業 渉外部 部長 島﨑 優子 様

AI・Digitalが製薬業界に与える影響

また、製薬企業が単独で技術や治療法を開発するのではなく、IT企業、AIスタートアップ、大学、病院などと連携し、オープンイノベーションに取り組んでいることも紹介されました。これは、製薬企業が「薬を作り、販売する企業」から、さまざまな主体と連携しながら、患者に適した治療や支援を提供する「治療ソリューション企業」へと変化していることを意味します。講義の中で印象的な視点として示されたのが、AIで得た「速さ」は、患者の声、医療現場での実装、規制に対する信頼性が揃って初めて価値になるという考え方です。AIによって薬の候補を早く発見したり、データを高速で分析したりできたとしても、その成果が医療現場で適切に使われ、患者が安心して利用できなければ、社会的価値にはつながりません。技術の性能だけでなく、それを患者に届ける仕組みや、医療者の判断、制度や安全性の確認までを一体として考える必要があります。

「患者さんのことを一番よく分かっているのは、患者さん」

体調に異変を感じても、何科を受診すべきか分からない、受診の必要性を正しく判断できない、適切な専門医や医療機関にたどり着けないといった問題は、私たちの日常生活の中でも起こり得ます。特に希少疾患や難病では、患者数が少なく、専門医や疾患情報へのアクセスが限られるため、適切な診断まで長い時間を要する場合があります。
こうした「生活者と適切な医療のマッチング不全」に対して、AIやデジタル技術を活用し、早期発見・早期受診・早期診断につなげるサービスも登場しています。講義では、症状に関する質問への回答や医学情報のデータベースを活用して、考えられる疾患や適切な受診先を案内するデジタルヘルスサービスの事例が紹介されました。

講義の後半では、「患者さんのことを一番よく分かっているのは、患者さんである」という、患者中心の考え方について学びました。
患者が抱える課題は、検査結果や病名だけでは把握できません。日常生活の困難、治療による負担、仕事や学業との両立、妊娠・出産への不安、将来実現したい生活や「なりたい自分」など、患者本人にしか分からない経験や希望があります。患者の経験知や生活上の課題を、医療者、製薬企業、規制当局、一般社会が共有し、それぞれの意思決定につなげることが「患者中心」のエコシステムとご説明頂いたことが印象に残る時間となりました。