経営学部の千島智伸教授は、韓国外国語大学韓日政策研究センターとの共同フォーラムにおいて、「ヤルタ2.0時代の国際秩序変化と韓日経済安全保障協力」をテーマに研究報告を行いました。

以下、研究報告の要旨

近年、世界では米中Techno-nationalismの激化やロシア・ウクライナ戦争、中東情勢の不安定化などを背景に、国際社会のルールや企業の経営環境が大きく変化しています。特に半導体やAI、次世代電池等に欠かせない重要な原材料や部品をどのように確保するかが各国共通の課題となっており、いわゆる「サプライチェーンの再編と経済安全保障の関係」が注目されています。

これまでの日韓産業協力は、日本が得意とする素材・部品・製造装置と、韓国が得意とする量産技術や製品化、世界市場への展開を組み合わせることで発展してきました。しかし近年は、中国による重要鉱物の輸出管理強化などの影響により、企業が従来から対応しているプロセスではサプライチェーンコストの影響で難しい局面を迎える場面が増えています。

スマートフォンや電気自動車、風力発電設備などに使用されるレアアース・レアメタルは、多くの産業に欠かせない資源ですが、日本がレアアース原料の分離・精製や材料化を担い、韓国がそれを活用した中間製品や新事業の開発を担うなど、工程ごとに役割を分担しながら新たな産業を創出する協力モデルの利点やリスクを説明しました。また、製品のリサイクルや将来的な代替材料の開発を含む協力方法について、現在一部の企業が既に取り組んでいるプロセスなど紹介しました。

レアメタルは、リチウムやコバルト、ニッケルなど、電子機器やエネルギー関連の技術に用いられる様々な非鉄金属を指し、レアアースは、ランタン、セリウム、ネオジムなど、特定の17の元素からなるグループを指し、強力な磁石や発光材料に使われることが多く、レアメタルには、レアアースのすべての元素が含まれます。
  • (引用)レアメタル・レアアース(リサイクル優先5鉱種)の現状, 2014年 経済産業省 非鉄金属課資料4より

AI半導体や次世代電池などの先端分野では、企業同士が技術や設計情報を共有することは容易ではありません。企業は新規事業に対して基本的に強い動機がないと保守的にもなります。
たとえば、 AI半導体は、「電力効率」や「熱制御」に関する評価・検証領域が問題になっているため、性能評価の方法や安全性の確認手順、データセンター全体の構造条件など時間の掛かるパラメーターの設定を(単独では得られない知識を)共同で整備することに魅力を感じる企業は存在します。実際に、5G通信の分野は企業が製品開発で競争しながらも、性能評価や試験方法については国際標準を共同で整備してきた例も存在します。同様に、AI半導体においても電力効率や熱制御などの評価方法を共有することで、企業は市場で競争しながらも、開発の効率性で協調する方向は見えてきます。

昨年(2025年)、日韓両国は国交正常化から60周年を迎え、これまで歴史認識や外交摩擦がしばしば両国関係の障壁となってきました。その中でも、経済・技術・人的交流の分野においては協力の蓄積が進み、2024年日韓水素アンモニア等協力対話、2025年日韓鉱物資源協力実務協議、2026年サプライチェーン協力覚書締結へと進んでいます。

今回の研究は「競争か協力か」という従来の考え方を超え、工程ごとの協力、時間軸を踏まえた協力、そして知識が循環する新しい産業協力の実現性を示したものです。
そのため、日本と韓国の2国間関係に限定されるものではなく、むしろ、両国が長年にわたり構築してきた産業補完関係や高度な技術基盤を活用しながら、新しい協力モデルの可能性を検討した点が重要だといえます。

その意味で、多様な国・企業・研究機関が参加する広域的なエコシステムへ展開できる可能性と持続可能な協力のあり方を模索するための研究として位置付けられています。

韓国外国語大学 韓日政策研究センター 主催「第2回 韓日経済安全保障協力フォーラム
( 両国の大学・企業の参加者 )