8月26日、韓国対外経済政策研究院(KIEP)が主催した「日韓両国の半導体産業における連携方案を探る研究シンポジウム 」に参加し、両国の大学・研究機関が主にAI半導体の日韓協力の方案と課題やインパクトについて研究発表・意見交換が行われました。

KIEP ( Korea Institute for International Economic Policy) は1990年に国立経済研究所として創設され、国際経済と韓国経済との関係する分野で先導的な役割を担い、政府に対して重要な国際経済政策問題について答申する情報シンクタンクと位置付けられています。過去、日本のエレクトロニクス企業は「ガラパゴス化」に嵌り、世界市場の潮流に乗り遅れた苦い経験がありますが、その反省から産学官連携や国際協力による研究開発エコシステムの構築は不可欠であり、相当の工夫が必要とされています。1社単独・自前主義ではなく、オープンな協力関係の中に経営効率が発揮できるのではないか、という視点です。
 


韓国 対外経済政策研究院(
KIEP)主催「韓日半導体産業 連携フォーラム


AI半導体が切り拓く未来 — 学習・推論・エッジの三本柱と日本の挑戦とは? —

近年、社会や産業を支える基盤技術として急速に注目されているのがAI半導体です。
半導体には多様な種類がありますが、その中でもAI半導体は「学習用」「推論用」「エッジ用」の3つに区分され、それぞれ機能が異なるため役割や用途が多様になります。

学習用 — 大規模AIを支える頭脳 —
生成AIや大規模言語モデル(LLM※)が登場する裏側では、膨大なデータを処理する「学習用半導体」が欠かせません。数百億~数兆パラメータに及ぶ学習を高速かつ効率的に行うため、GPUや専用チップが駆使され、AIの進化を加速させています。
※ large language model

推論用 — 学んだ知識を社会に活かす —
学習済みモデルを実際に社会で利用する段階では「推論用半導体」が中心となります。クラウド上のAIサービスや企業の基幹システムに組み込まれ、音声認識、画像解析、自然言語処理など、私たちの生活やビジネスを支えています。

エッジ用 — 現場で即時に応答する頭脳 —
自動運転車、スマートフォン、IoTデバイスなど、現場でリアルタイムに判断が求められるシーンでは「エッジ用半導体」が活躍します。低消費電力かつ高効率で動作することが求められ、センサーや機械制御と密接に結びついています。


これら3分野すべてに共通するのは、微細化と積層化技術の進展が性能向上と省電力化のカギを握るという点です。半導体の線幅をナノメートル単位で縮小し、複数の層を立体的に積み重ねることで、より高性能かつ効率的なAI半導体が実現可能になります。

日本は、この分野で再び世界に挑むアクションを起こしています。2022年8月にRapidus株式会社が設立され、日本の未来産業を支える切り札として国内外からの注目を集め、世界最先端とされる2nm世代の超微細ロジック半導体の開発・製造・販売を目指しています。

1.日本半導体の状況・国内

 

2.学術・研究の状況

— わが国の半導体回路研究は ‘Outputのスピードアップ’ が課題 —

 (引用) VLSI Symposium委員会による2024年 半導体回路研究論文 投稿件数と採択件数表を元に作成
 
日本は ’採択率が高く’ 、一方で ’論文の提出件数が最も少ない’ 状況です。
韓国は ’採択件数’ が比較的多いものの、’採択率は米国・EUに次ぐ水準’ と改善の余地があるため、量と質の面で両国が研究過程を補完する可能性が考えられます。

3. 半導体産業・両国の現状比較

区分
韓国
日本
特徴 量産効果を基盤とするコスト競争伝統的なサプライチェーン体制 素材・装置分野では韓国を支える側面も。日本が輸出規制すれば韓国は影響を受ける

TSMCとSONYは強い協力関係
※ TSMCは生産数量条件が厳しい
Issue 経済は中国、安保は米国という二重外交の調整コスト
サムスンはロジック半導体でTSMCを追いかける立場
「日米台」のサプライチェーン再編
※ サプライチェーン多元化

Rapidusやキオクシアは、安全保障的連携の中核に置かれている
※ 政府による次世代半導体復権の要

AI半導体の多国間協力に関する研究シンポジウムに参加した千島准教授のコメント

世界的に地政学リスクが高まる中、サプライチェーンの分断と経済安全保障の再定義が進んでいます。そのような状況において、日韓の戦略的連携は、東アジアの安定と新たな産業基盤の形成において工夫をすれば相当の改善効果が期待できると見ています。

AI半導体は次世代のイノベーションを支える中核技術で、自動運転や生成AI、スマートシティなど多分野に波及効果をもたらす存在です。日本ではRapidusが2nm世代の先端ロジック半導体開発を加速させ、ソニーがCMOSイメージセンサー分野で世界的地位を確立してきました。一方、韓国ではサムスン電子がメモリ・ロジック両面での研究開発を推進し、SKハイニクスが先端メモリ半導体において国際競争力を持っています。こうした企業群の存在は、両国が技術的特性を補完し合い、共同研究や生産拠点の協力を進める上で大きな資産となります。

しかし、補完しあう研究や開発協力については現在も一定の距離感と懸念が存在します。AI半導体の研究と応用で協力することは容易なことではありませんが、協力する範囲や対象を限定したり、脱炭素社会に向けたグリーン技術や量子暗号通信といった地域格差是正と世界の持続的発展に必要な未来志向の手段 = エコシステムを議論する方向であれば、意味のある研究が期待できます。