教員研修の背景

 奈良県立高田高等学校(乾修司校長)は、「総合的な探究の時間」の本格的な実施に向けて、生徒の探究力の向上及び探究的な学習の内容や授業のあり方等について、これまでの「探究」で培った取組をさらに深化させ充実したものとすることを目的とした教員研修を計画されました。私はその講師のご依頼を受け、令和4年2月21日の教員研修において講演を行いました。

教員研修の概要

 高田高校では、これまで第1学年で総合的な学習の時間として「探究」を3単位で実施し、「やまと学」「海外事情」「環境」「福祉と共生」「芸術・文化」「教育基礎」の7つの分野を生徒が選択する探究的な学びは、奈良県内でも先進的な事例として広く知られています。新学習指導要領に基づき、総合的な探究の時間に対応した新たな「探究」の実施を目指し、今回の教員研修が設定されました。
 今回の研修では、事前に実施した教員アンケートの分析を基にして、「探究的な学び」について学習指導要領の目標や内容、探究のプロセスを示しながら説明するとともに、他校の事例として県立国際高校の「グローバル探究」を紹介することで、新たな探究学習を内容面と方法面から具体的に認識していただくとともに、評価の観点まで言及することで、高田高校の新たな「探究」に生かすことを模索していただくことを目指し、以下の4つの目的を設けました。
 1.アンケートから高田高校の「探究的な学び」を明らかにする。
 2.「探究的な学び」について、その目的・内容・方法・評価から理解を深める。
 3.県立国際高校の事例を分析する。
 4.「探究的な学び」や「他校の事例」から、高田高校の探究的な学習のあり方を考察する。
 特に、1については、高田高校で「探究」に関わる先生方とそうでない先生方の認識の違いや、高田高校が目指す育てたい生徒像について、先生方の見解を分析しました。アンケートのデータについては、田中教頭先生にまとめていただけたことで、より詳細な分析が可能となりました。
2と3は、これまで他校で教員研修やカリキュラムアドバイザーとして培った経験と具体的な事例を基に、1のアンケート分析に則して、高田高校の先生方に必要と考えられる点を中心に解説しました。
 4の考察では先生方からのご意見やご質問をうかがいながら、高田高校の探究的な学習のあり方についてお話をしました。ICTの活用に関わって情報をご担当の先生や、「探究」を統括される先生、カリキュラム編成の観点から教務で時間割を担当されている先生から、率直なご意見やご質問をいただき、先生方の課題意識が高いことを再確認しました。また、この教員研修は会議室の座席に余裕がなくなるほどであったので、おそらく全ての先生方のご参加があったのだと思います。このように、熱心な先生方にお話ができたことは大変有難い機会だったと考えています。
 この教員研修により、高田高校の「探究」に求められる探究的な学びのあり方について、先生方は、様々な観点からお考えを深められたと考えます。それは、以下の事後アンケートへの記述からうかがうことができます。全てのご質問にお答えできないことが残念ですが、一部を抜粋してコメントします。
 
 ・高田で6年間「探究(環境)」を担当しました。まず「割とがんばっていたんじゃないかな」と感じました。次に「見直しの時期がきているな」と思いました。ICTの活用、1学期の段階で、メモ力等を培わせるなど、リニューアルすべき点がたくさんあると考えました。
 ・高田高校は今まで各教科担当の先生に探究をまかせていた、つまり個人商店化していました。高田高校の特色を生かして生徒を育てるためにはまずこの課題を乗りこえることが大切だと思いました。

 これらのご意見のように、これまでの高田高校の「探究」の成果と課題を整理することは大切だと思います。特に、「頑張れていた点」を成果として具体的に示して継承し、個々の先生方に負うシステムになった課題を改善できることが、今後の「探究」に求められると思います。

 ・研修の中で、「人間力」という高田高校の教育の回答に対して「モヤッ」と発言されていました。でも最後に探究において教師が必要な資質として「寄り添う力」と発言されていました。「寄り添う力」って「人間力」と同じだと考えますが、そうではないということですか。
 ・生徒に対して「寄り添うことが大切」というお話がありましたが、もう少し具体的にどうすることなのか、助言やアドバイス的なことはどんな方法があるのでしょうか。

 ご指摘ありがとうございます。良いご意見だと思います。そして、「モヤッ」という言葉を多用したこと、ご容赦ください。私の言う「モヤッ」は、この場合具体的にイメージできないことを意味します。つまり、「人間力」は幅広い理解ができるので、人によって解釈が異なると思うのです。ご指摘の通り、「寄り添う力」は「人間力」と共通しますが、より具体的ではあると考えます。教員の「寄り添う力」は言い換えれば「ファシリテート力」です。教員が生徒を引っ張って探究させる(指導する)のではなく、自分のペースで探究する生徒に教員が伴走する(寄り添う)イメージです。

 ・探究だけにかかわらず、インプットとアウトプットとの繰り返しは大事だと改めて感じました。すべてにおいて目標をはっきりさせていきたいです。それが良い教育につながると実感しました。
 ・探究を進めていく上でプロセスを大事にするというところが印象に残りました。ゴールに行くことが目的になりがちですが、その過程をいかに大事にしていくかという部分を私自身も大切にしたいなと感じました。

 先ほどの「寄り添う力」とも共通しますが、生徒が探究した結果(ゴール)だけでなく、プロセスに注目する(ファシリテートする)ことが、探究的な学びでは大切ですね。そして、お二人のご指摘にあるよう、目標の設定と評価が重要になります。目標は、生徒のどんな力を育むかになります。その力が具体的に何で、生徒がどのようにしてその力を獲得していったのかを評価できると良いと思います。

 ・教師が何をどんな風に具体的目標と方策を考えるのかで育っていく力が変わってくるのかと思うと、何となく、ではなくもっと真剣に自分自身を学び考えていく力が必要だなと思いました。

 教員自身が「学び考えていく力が必要」とのご指摘は、大変重要です。生徒をどうするか考える根本は、教員がどうするかを考えることから始まると私は思うからです。私が高等学校現場で示唆を受けた尊敬する校長先生は、「学び続ける教員」であることを求められていました。当然と言えばそれまでですが、新たな「探究」の実現に向け、高田高校の先生方も自分自身が学び、考えることから始めていかれることを期待します。そして、上記のようなご意見をいただけたことは、すでに先生方が学びのプロセスに入っておられると感じます。高田高校の「探究」がより良いものとなるよう、今後も応援していきたいと考えています。