ビジネス経済学パッケージでは、2年生から4年生までの「専門演習」での学習と研究の成果を共有する機会として、学生による研究の発表会を実施しております。本年度は1月18日から20日に開催し、2年生から4年生まで合計44件の研究報告がありました。発表会は学年ごとに分かれて行いましたが、それぞれの会に参加していた学生と教員の投票によって最優秀賞と優秀賞各1名ずつを決定して表彰いたしました。今年度表彰されたのは、以下の6名になります。
4年生:最優秀賞 井上暁泰  優秀賞 北田有輝
3年生:最優秀賞 神原智幸  優秀賞 岡﨑司
2年生:最優秀賞 池田悠未  優秀賞 中谷柊治
 すべての研究内容をここでご紹介することはできませんので、4年生の報告の一部をごく簡単にご紹介できればと思います。
 
 我々は、人とより仲良くなろうとする際に、しばしば相手を食事等に誘います。ですが、その誘い自体が断られてしまうことも、また、しばしばあります。仲良くなるためには、誘ってからどうするかももちろん重要ですが、誘う段階でまずハードルを超える必要があるわけです。井上さんは、行動経済学で知られる人間行動のパターンからこうした際の誘い方として優れていると考えられる方法を列挙し、それらを実験しました。そして、その結果を比較をすることで、それらの効果の有無や優劣、相手との関係性(たとえば異性・同性など)等によるその効果の違いを検証しました。例年、人間関係に関する研究は学生の皆さんの関心をよく集めますが、井上さんはご自身が3年生の頃からの研究を継続したこともあって広範であり、また、分析やプレゼンテーションの技術面もしっかりしていて、4年生の最優秀賞を受賞しました。
 なお、4年生の研究で同様に人間関係の構築に注目したものとしては、松井さんの研究がありました。人とより仲良くなろうとする際、相手への助力等、何らかの申し出をすることも我々がしばしば取る行動です。しかし、それが断られてしまうことも、やはり、しばしばあります。松井さんは、その申し出がより受け入れられやすくなるような方法を実験するとともに、それらの方法を用いたとき、成功後の相手の好感度に差が見られるのかも検証しました。たとえば、まだそれほど親しくない人に助力を申し出ても、遠慮などで断られてしまうことがあるわけです。助力を受け入れてもらいやすくするだけなら「その助力はたいした苦労ではない」と思わせるような申し出方をしても良さそうですが、ただ、そうすると相手の感謝も目減りしてしまう可能性が考えられます。そのような悪影響が実際に現れるかを視野に様々な方法の是非を検証したのが、松井さんの研究でした。
 他方、今年は、我々の社会が直面している問題を反映し、感染症対策に関連したテーマの研究も多々見られました。4年生の優秀賞を受賞した北田さんの研究は、各地の感染状況の伝え方の改善の可能性を検証したものです。報道では日々の感染者数が都道府県単位で伝えられることが多いようですが、これは情報の受け手へのインパクトという点で望ましいのでしょうか。たとえば「今日、世界中で〇〇人の感染者が出た」と言われても情報が粗すぎて切迫感に欠けるかもしれませんが、逆に、あまり細かい単位で伝えられても自分に影響する範囲の情報を得るのが難しくなります。ということは、おそらく両者の間のどこかに、人々の行動にもっとも影響しやすい粒度があるはずです。そうした観点で考えたとき、よく用いられている都道府県単位というのは改善の余地はないのでしょうか。北田さんは、そうした情報の粒度やグラフ等の表現方法を組み合わせ、どのような伝え方がより強いインパクトを読み手に与えるかを検証しました。
 感染症に関連した研究はたくさんありましたので、ここでは4年生に絞ってご紹介させていただきたいと思います。同じ情報でも伝え方によって影響が変わるか、という点に注目したのが、松川さん、西本さん、小山さん、それぞれの研究です。彼らの実験で共通して扱われたのは、ワクチンの接種状況でした。それをどのようなフレームで伝えるか、たとえば接種済みと未接種どちらの人の割合を伝えるかで生じる違いなどを検証したのが、松川さんや西本さんの研究でした。また、西本さんの研究では、ワクチンの効果等の伝え方による違いも検証されました。小山さんも接種状況を伝えることによって生じる行動の違いを検証したのですが、小山さんは全体ではなく身近な友人の接種状況を伝えた場合の効果を検証しました。また、小山さんは、接種のデメリットの伝え方についても検証しました。
 感染拡大抑制のためには外出を控えることも提唱されていましたが、なかなかそれが守られない、ということも言われていました。石田さんの研究では、個々の外出状況が記録や収集、公開された場合には人々の行動にどのように反映するかを仮想質問で調査しました。この調査によれば、外出状況の情報を収集するだけで公開する場合と変わらないくらい人々の外出が抑制される、という結果が得られました。
 
 その他には、たとえば石渡さんの研究では、美容整形への姿勢に対する周りの人々への同調性等について、人の属性による違いを検証しました。また、他者に行動が知られることの影響を授業への出席率の改善に当てはめた白子さんの研究などもありました。また、小泉さんは、不正行為の発覚のしやすさがそれへの手を染めやすさに影響を与える条件を検証しました。
 以上の研究は主に他者とのかかわりから来る行動の傾向に焦点がありますが、逆に個人的な面に主な焦点を当てた研究も多数ありました。携帯の料金プランの複雑さ・シンプルさが選択に与える影響を検証した木村さんの研究、利益や負担の時間的な構造が与える影響を利益や負担のタイプで分けて比較・検証した相原さんの研究、禁煙を達成しやすく/しにくくする条件を検証した新田さんの研究などです。また、買い物で無駄遣いをしてしまう条件を、主に買い手側の条件から検証した神社さんや、逆に主に売り手側の施策から検証した中北さんの研究では、個人的/社会的、両方の側面からの影響の検証がありました。また、ここではまとめきれなかった研究にも、興味深いものがたくさんありました。
 彼らの研究指導に携わる教員として、今後も大学で勉強を続ける学生にも、また、卒業して就職先や大学院に進む学生にも、研究室での活動などを通して培った能力を今後の人生に活かしていただけることを願っております。
 なお、表彰された研究報告を行った学生には、副賞として図書カードを贈呈いたしました。彼らの今後の研鑽に活かされることを願っております。この副賞の贈呈は、阪南大学学会2021年度学部教育研究活動助成事業補助を受けて実施いたしました。ご支援を頂けたことに心より感謝いたします。