日本経済パッケージの魅力は、経済学の理論と実際の経済現象を結び付けられることです。経済学部で学んでいる人も、また、経済学部を卒業した人でも、「経済学の理論と実社会は違う」と感じる人は多くいます。その理由の一つは、大学時代に経済学の理論と実社会の現象を結び付けて考える練習をしなかったことかもしれません。
 例えば、経済学の基本の一つに、需要供給曲線の分析があります。需要供給曲線がなぜ動くのか、動くとどんな影響が出るのか、について、モデルを使って考えます。通常であれば、供給が増えると価格は下がり、需要が増えると価格は上がります。
 さて、生活必需品・食料など、価格が変動しても需要量があまり変動しない財のことを、需要の価格弾力性が低い財といいます。例えば、米など農産物は価格が高くなったから、買わないでいると、お腹がすくので、価格が高くなっても買う人が多いでしょう。逆に、食べられる量には限度があるので、価格が下がってもたくさん買うことは、ないでしょう。このような需要の価格弾力性が低い財の場合でも、供給が増えると価格は低下します。しかし、販売量はあまり増えません。なぜなら、たくさんあっても食べきれないからです。
 この場合の生産者の収入を考えてみましょう。供給量の増加に対し、価格の低下がより激しければ、生産者は作れば作るほど、つまり供給を増やせば増やすほど、収入が減ってしまいます。つまり、乱暴な言い方をすれば、農産物は作れば作るほど、収入が減ってしまう財といえるのです。
 これを国単位で置き換えてみるとどうでしょうか。歴史的にみると、イギリスは世界で最初に産業革命を成し遂げ、工業国になりました。綿工業といって、綿布や綿糸の大量生産に成功したのです。ちなみに、一般に工業製品は価格弾力性が高く、作れば作るほど、生産者の収入は増える財です。このイギリスに綿糸の原材料となる綿花を輸出した国がインドでした。綿花は天然素材で、農産物です。イギリスは綿製品を作れば作るほど、収入を増やし、インドは綿花を作れば作るほど、収入を減らす、というサイクルが成立します。そうすると、イギリスは豊かになりますが、インドは貧しくなります。もちろん政策も重要なわけですが、理論を使うと、このような財の特徴が、現在の国同士の貧富の差を生んだ一因と考えられるのです。
 農業といえば、現在、日本では農業で起業する人が増えています。作れば作るほど、収入を減らしてしまう農業で儲けるには、どうしたら良いでしょうか。価格の弾力性を高くすれば良いのです。言い換えれば、必需品でなくしてしまう、ということです。食べなければ生きていけないもの、ではなく、お金を出してでも食べたいものに転換するのです。最近、ブランド米やブランド牛という言葉をよく耳にすると思います。無農薬など育て方にこだわった米や肉質に特徴のある肉として、ブランド化に成功した事例が多くみられます。他にも、六次化といって、肉であれば、畜産からハムやソーセージといった製品加工、流通、販売までを管理運営する取り組みもあります。
 以上のように、理論を知っていれば、現代社会のことをよりよく理解できるだけでなく、今後どうすべきかについて示唆を与えてくれるのです。日本経済パッケージで、理論と現実の事例について、学び、皆さんの未来を考える練習をしていただきたいと思います。