教養総合講座a (社会人としての教養講座1)

 6月25日、7月2日の二回にわたって、石井洋二郎先生(東京大学名誉教授)をお招きし、教養総合講座aでご講義いただきました。

 第1回目は、「 いま、なぜリベラルアーツか—VUCAの時代を生き抜くために」と題した講義です。リベラルアーツとは何か、古代ギリシアから歴史をさかのぼってこの概念が解説され、それを「人間を種々の制約から解き放って自由にするための知識や技能」として特徴づけられました。とくに、「知識、経験、思考、視野」の各限界や制約を解放し、より広く深く他者や世界と関係を結べるようにする意義と具体例を学びました。また、『大人になるためのリベラルアーツ: 思考演習12題』石井洋二郎(著)、 藤垣裕子(著)、東京大学出版会、2016年でも取り上げられたいくつかの問が紹介され、これをもとに受講生は、次回の討論に向けてウォーミング・アップしました。

 第2回目は、「科学技術は人間を幸福にするか」という問をめぐって討論します。大学は人と接し議論をする場、つまり、広く深く他者と関係を築く場ともいえます。受講生からはそれぞれの立場と独自の理由から活発な意見が提起され、トピックスは、具体的にAI、原子力発電、芸術(人間の創造性)まで幅広く広がりました。とくに「AIは人間労働を代替するか」という問については、授業に合流された田上博司先生(阪南大学前学長)からAIを使って作曲までできることを、ご自身が創られたCDを例に紹介されました。この問についてChatGPTにも答えてもらい、参加された真田桂子先生(総合情報学部教授)も交えて、ChatGPTの答えをみながどう評価するか、人間にしかできないこととは何だろうか、議論しました。
 石井先生は、ウィットはもちろん、ユーモアを交えながら講義され、受講生は、教養の歴史とその現代的な意義に、耳を傾け、学び、そして討論において自分の意見やその理由を表現しました。学部横断的な参加者の間の討論は、受講生にとって新鮮な経験であったようです。

受講生からは

 ・ 普段考えないような(科学技術といった)問題を、熟考することの必要性に気付いた良い機会になった。
 ・ 自分の意見を主体的に考えて表明したり、他者の意見や価値観を聞けたりして楽しかった。
 ・ 立場や意見の違いを理解し、議論することの大切さを学ぶことができた。

といった感想が聞けました。
 阪南大学は、学生を、幅広い教養を持つ国際的なビジネスパーソンとして成長させることを使命に掲げています。教養総合講座a(社会人としての教養講座1)は、社会に出る前の3、4年次生を対象とした「後期教養教育」として、自分の軸となる専門を学び、他の分野との関係で専門を見つめなおすことをコンセプトに設立されました。その年にふさわしいテーマを選びながら、これから社会人になっていく学生が、生涯にわたって問い、学ぶ姿勢を身に着けることも目標にしています。今年度前期は「現代の技術と教養」をテーマに、7名の講師が講義を提供しています。
(文責:経済学部教員 西  洋)

石井 洋二郎先生から

 私はこれまで複数の大学で「リベラルアーツ」の授業を担当し、色々なテーマをとりあげて学生さんたちと討論してきましたが、今回も皆さんが真剣に考えてそれぞれ個性的な意見を出してくれたので、私も大いに楽しめましたし、勉強にもなりました。教員が知識を一方的に授ける講義形式の授業ももちろん大事ですが、知識は頭の中に溜めておいただけでは何にもなりません。先行き不透明なこれからの時代を生きぬくためには、具体的な問題に直面したとき、獲得した知識を引き出しから取り出して、実際に活用する力が何より求められます。そのためには教員や他の学生たちと対話し、議論して、他の人たちがどんなことを考えているのかを知ることがとても重要です。皆さんが社会に出てからぶつかるであろうさまざまな困難に打ち勝って豊かな人生を送るために、ぜひこうした機会を最大限に活かして有意義な大学生活を送っていただきたいと思います。
(石井 洋二郎)