西洋(経済学部教授)の論文“Income distribution, technical change, and economic growth: A two-sector Kalecki-Kaldor approach”が、産業構造変化と経済動学を専門的に扱う国際誌であるStructural Change and Economic Dynamics,Vol.60,March 2022,pp. 418-432に掲載されました。
 ここ数年、私は異質な生産物(例えば、投資に使われる財と消費に使われる財サービス)を生産する多部門モデルを組み立て、経済成長と所得分配の相互関連を理論的・実証的に分析することに取り掛かってきました。その成果の一部は既に、別の研究論文でも発表しました。しかし、この研究は、生産技術の変化・進歩(生産要素の生産性上昇率の組み合わせの変化)が資本蓄積に先立って起こるなど、現実的にはあまり見られない問題を抱えていました。研究会や学会でこの研究を報告するたび、わたしはこの手の批判に直面し、問題を解決するための方法を考えてきました。生産技術の変化は、多くの場合、新しい生産設備の設置や組織の変化に伴って起こるものであり、この点を組み込んで経済現象を理解することが必要であったわけです。
 経済全体での生産技術の変化が資本設備に体化されて起こることを早い時期から指摘した経済学者の一人にニコラス・カルドアがいます。カルドアは、経済成長と所得分配、均衡経済学の批判、内生的貨幣供給、さらには累積的因果連関と輸出主導型成長など幅広い問題を説得的に論じたことで有名です。
 今回わたしの論文は、カルドアの技術進歩関数に着想を得、技術変化と資本蓄積が並行して起こる一般的現象を二部門モデルに組み込み、そのもとでの経済成長の決定要因と安定条件を導いたものです。これによって、経済成長は、技術進歩を規定するパラメータによって完全に決まってしまうことを理論的に明らかにし、なぜこれらのパラメータの役割が支配的になるのかを説明しました。
 これまでのケインズ、カレツキ的な経済成長モデルでは、有効需要や賃金、利潤といった所得分配の変化が経済成長の原動力となることが示されてきました。これはマクロ経済学や政治経済学の授業で学生の皆さんも学ぶことです。しかしながら、ケインズ、カレツキ的な経済成長の考え方を基礎においたとしても、最終的に経済成長を実現するのは有効需要ではなく、技術進歩であることは衝撃的な結果です。