西洋(経済学部教授)の論文「日本経済における金融不安定性と負債比率の決定要因」が『季刊 経済理論』,2021年,第57巻,第4号,pp. 7-33に掲載されました。

 2007年から2008年にかけての世界金融危機において,資本主義経済の金融的不安定をいち早く体系的に指摘したハイマン・ミンスキーの議論が注目されました。資本主義経済は比較的安定した成長の中で,金融的な不安定性(資産バブルや過剰な借り入れ等)が芽生え始め,それがやがて顕在化して経済危機が訪れる,という仮説を提示しました。

 ミンスキーの金融不安定性仮説はとりわけ民間非金融企業部門の財務構造に焦点をおき,ヘッジ金融,投機的金融,ポンジ金融の順に金融の不安定性が増していくことを論じています。この仮説が果たして現実的に正しいかどうかを,以前わたしは,Nishi (2019) “An empirical contribution to Minsky's financial fragility: Evidence from non-financial sectors in Japan,” Cambridge Journal of Economics. 2019, Vol.43, No.3, pp. 585–622.で検証しました。しかし,以前の研究では金融不安定性仮説のコアである負債比率の動態についてじゅうぶんに考察しきれませんでした。

 そこで,今回の研究では,業種と企業規模を細かく分けて,負債比率の長期的な動態と金融不安定性との関連,及び景気循環とこれらの関連を明らかにしました。過去20年にかけて,日本の民間非金融企業部門の負債比率は全般的に低下傾向にあり,同時に金融不安定性ではなく金融安定化に向かっていることを明らかにしました。またミンスキーの仮説が主張するほど,景気の拡張局面において負債比率の上昇が進んできたわけではないことも示しています。ただし,コロナショック以前の期間を研究対象としていますので,2020年以降,このトレンドが果たしてどのように変わってくるのか,改めて慎重に検証する必要もあります。

 また同誌にはShiozawa, Yoshinori; Morioka, Masashi; Taniguchi, Kazuhisa, Microfoundations of Evolutionary Economics, Springer, 2019への書評も寄稿しています(pp. 98-101)。経済学にはさまざまな考え方がありますが,なかでも主流になっている新古典派経済学では,合理性を持つ経済主体の行動からなる分権的市場経済システムがいかにして効率的資源配分(うまく需要と供給が釣り合うか)と経済厚生の最大化(みんなの満足や儲けが大きくなるか)を実現するのか,ということを分析します。他方で,塩澤・谷口・森岡のアプローチはこれとはまったく異なり,古典派経済学,進化経済学,複雑系経済学を総合的に一つのパラダイムとしてまとめ上げ,新しい経済理論を提起しています。書評ではその成果と課題について論じています。

 『季刊 経済理論』は,阪南大学図書館でも閲覧可能です。