2021.8.16

異文化理解の重要性について

1.はじめに

 阪南大学経済学部で、グローバル・ビジネス論(a・b)、ベトナムインターンシップ、等を担当している三木です。今回は「異文化理解」について書きたいと思います。

2.異文化理解の重要性

 定量的に示せないのですが、日系企業が海外事業展開に失敗するケースのかなりの部分が「異文化理解(不足)」によるものではないかと思っています。更に、その根本原因は「異文化に対応できる人材の不足」だと思います。私がまだ某大手電機メーカーにいた時もそのような場面を何度も見ていますし、今の職業になっていろいろな業界をウォッチするようになってからもやはりそのように感じます。
 ですので、私が担当する「グローバル・ビジネス論」の授業では、異文化コミュニケーションスキルの向上にかなりの時間を使います。初めは学生たち皆ただ単に唖然と驚くだけですが、半年も教えていると段々頭が柔らかくなってきて、最後には「実は日本の常識が必ずしも海外では常識ではない、むしろ海外では非常識であることが多い」ということに気付き始めます。ここまでくればシメたもので、学生たちは自分で勝手にいろいろなことを考え始めます。
 海外でビジネスをする上で「異文化理解の壁」を越えることは、ビジネスそのものと同様に重要な「成功のための鍵」となる、と思っています。

3.事例:「怪獣から誰を救うか」

 これは日本人と中国人の「合理性の違い」が良く分かる実例です。しかし残念ながら出典が良くわかりません。インターネットで調べてみても似たような内容が出てきません。出典がわからないので、少し内容をアレンジして掲載します。また、ここで言う「中国人」とは概ね30歳以上の人と思ってください。

(事例)
 あるケースに遭遇した時のご自身の対応を、3つの選択肢から直感で選んで下さい。心理テストではないので考えすぎないようにして下さい。
 『自分の目の前に、人を食べる怪獣と母親、妻、娘がいます(女性の方は父親、夫、息子と読み替えて下さい)。全員助けたいのですが怪獣の動きが早く、1人だけしか助けられません。あなたなら誰を助けますか? 理由も含めて考えて下さい』

 「究極の選択」を迫られる場面です。概ねの傾向ですが、日本人の場合「娘」と回答する人が多いです(8割程度)。その理由は「母親は残された寿命が短い、妻は血がつながっていない(元々他人)。娘には将来があるし、血もつながっているし。最も弱い者を助けるのは当たり前」という考え方です。残された寿命年数という定量的内容と、血のつながりがあるかどうかという判断基準から導き出された、非常に合理的な考え方だと思います。外部の研修や授業でアンケートを取った時も、8割の方が娘と回答しました。
 一方、中国人(概ね30歳以上)は「母親」と回答する人が多いです。その理由は「妻はまた探せばよい。娘はまた作ればよい。母親は世の中に1人しかいない」というものです。なるほど、同意できるかどうかは別にして、合理的と言えば十分合理的です。
 このように、同じ問題に直面した時に、日本人が考える合理的な発想と中国人のそれは、全く異なります。もちろん全てのケースで考えが異なるわけではないのですが、私達の常識で「中国人もきっとこう考えるだろう」と思い込むのは大変危険だということが、これでご理解いただけると思います。異文化理解の難しさと重要性を表すいい例だと思います。
 しかし最近の若者は少し傾向が変わってきているようです。特に、生まれた時からそれなりに裕福な家庭で育っている「90后」(1990年以降の生まれ)や00后(2000年以降の生まれ)は、目上を敬うという考え方が少し希薄になってきているようで、母親を選択する比率が下がってきていると感じます。「国が異なることによる異文化ギャップ」以外に「世代間の異文化ギャップ」も考えなければいけないため「異文化理解の壁」は更に高くなります。