視角中国系列講座

 中国美術学院視角中国研究院の招聘を受け、2019年6月11日(火)と13日(木)に中国美術学院で「汉晋时期流行的人物传与历史叙述(漢晋期における人物伝の流行と歴史叙述)」というテーマで講座を開講した。
 両日の講座は、司会の中国美術学院芸術人文学院の王霖氏をはじめ、約40名の教員、大学院生が参加し、講座2時間、質疑応答30分の約2時間半にわたって行われた。
 2~4世紀の中国では『史記』や『漢書』といった王朝史にくわえ、個人の事績を叙述した人物の伝記(人物伝)が多く編纂された時代であった。本講座では主に当時の行政区である郡国名を書名に冠した「耆旧伝」「先賢伝」や個人名や氏を冠した「家伝」の流行とその時代的な背景を取り上げた。
 書画を専門とする中国美術学院の教員や大学院生からは同時期に流行した人物画との関連から多くの質問や意見が提出され、人物伝の流行と人物画の流行という当該時代の歴史的特質をうかがううえで重要なふたつの視点から有意義な意見交換を行うとともに、多くの啓発を受けることができた。

中国美術学院

 中国美術学院は、著名な観光地である西湖の湖畔(浙江省杭州市)に立地している。本学は中国を代表する美術の総合大学であり、風光明媚な西湖に面した校舎は非常に洗練されており、校舎全体が観光地の一部かと見まがうほどだ。
  • 中国美術学院正門

  •   校内風景

現地調査

 王冬亮氏の案内で、西湖湖畔の西冷印社、中国印学博物館や浙江美術院を訪れ書画、印璽の解説を受けた。また、郊外の石屋洞、水楽洞、煙霞洞という石刻群を実見調査する機会を得た。
  • 西湖

  • 煙霞洞

雑感

 今回、交流した教員、大学院生のほとんどが、すでにまったく現金を持ち歩かない姿を目の当たりにした。急速かつ広範にキャッシュレスの波が押し寄せており、店舗はもちろんのこと、露天、行商にいたるまで、QRコードが用意されているなど、頻繁に中国を訪れるものでも戸惑うことが多くなってきている。交通事情でもQR決済による配車サービスが従来のタクシーと並んで主流となっており、WeChat PayやAlipayといったスマフォ決済アプリが使用できない外国人訪問者にとっては悩ましいところだ。中国発の銅・銀に続く貨幣革命の波は日本にとっても他人事ではない。急速な変化に対応する力の涵養が必要になろう。
 そのほか、これはかなり以前からの状況ではあるが、街の書店に日本書籍の翻訳書が数多く並んでいる。東野圭吾、村上春樹といった人気作家はもちろんのこと、そのジャンルは『古事記』や『源氏物語』といった古典にまで及ぶ。日本の書店にも多くの中国関連書籍が並ぶが、中国の現代文学作品は数えるほどである。日本でも読者の関心の裾野が広がっていくことを期待したい。
  • 夏目漱石『吾輩は猫である』

  • 日本の古典、小説が並ぶ書棚