2023.1.18

「ソーシャルビジネス」外部招聘講師による特別講義実施報告(2022.12.14)

流通学部 流通学科 片渕卓志

国内外の「ソーシャルビジネス」について知り、理解を深める講義の中で、今回は日本における「社会的企業」の先駆的事例を知る機会として「ビッグイシュー日本版」編集部の松岡理絵さんに特別講義をお願いしました。

『ビッグイシュー』は雑誌の名前です。1991年に英国・ロンドンで、そして2003年に日本で創刊した、ホームレス(路上生活者)状態の人の自立を応援することを目的とした雑誌であす。英国ではその認知度が高く、国内雑誌販売数で上位3位に入るほど、人気雑誌として定着して今日に至ります。日本では、1冊450円のうち230円が販売者の収入になるという仕組みです。19年間で累計942万冊を販売し、14億8940万円を販売者に提供してきたその事業について、まず説明して頂きました。それからホームレス状態の人の就労を困難にしているもの(壁)、ホームレス状態にある人の自己肯定感を高めるために『ビッグイシュー』が取り組んでいることなどをお話していただきました。

学生たちにとっては、大阪の街で見かけたことのある身近な事業でもあり、今回の講義を通して「販売者それぞれに事情や背景があることがわかった」、助けてくれる友人や家族がいない、あるいは今は健康でも病気になる可能性は誰でもがあり得、また仕事においても「失職」する可能性が常にあるため、「誰でもホームレスになる可能性がある、その中でビッグイシューがセーフティネットの一つとなっていることを知った」という感想がありました。「ソーシャルビジネス」が私たちの社会の中でどのように機能しているのかを具体的に考えられる時間となりました。さっそくインターンに行きたいという学生が出るなど興味を持ってもらうことができました。他の授業とは一風変わった形でのビジネス、社会問題を解決するためのビジネスのアイデアが面白いという感想が多くあり、また他学部の受講生も多く、エッジの聞いたよい授業科目として学生の刺激となっているようです。

【学生の感想】

流通学部 2年

営業職で支店長代理まで上り詰めた方が親の介護のために離職し、その後ホームレス状態になったというお話を聞き、他人事ではなくいつ自分に起こってもおかしくないことだと思いました。またビッグイシューという仕組みが、そのような方たちを助けているという点に素晴らしさを感じると同時に、行政がもっとしっかりしていればとも思いました。今回学んだことを忘れずに、自分にもできることを考えていきたいと思います。

流通学部 2年

今回の講義で初めてビッグイシューという企業を知りました。その活動を通して、多くの人が生きていく希望を見出せるものであると感じました。知れば知るほど、何事もまず行動することが大切であるということを教えてもらった気がします。これからは少しでも興味のある活動があれば、まず協力してみることから始めてみようと思います。

国際コミュニケーション学部 4年

今回の講義で学んだことはたくさんありました。誰もが排除されない、すべての人が生きやすい社会、特に若い世代が希望をもって生きられる社会を作るのに役立った情報発信という方針に感激しました。また、ホームレスという言葉はよく聞きますが、その人自身を表す言葉ではなく、「状態」を表す言葉であることを初めて知りました。基本理念の「セルフヘルプ」についても、自分で考え、決めることが自己肯定感につながるという点になるほどと思いました。
表紙は英国王室のウィリアム王子(現在は皇太子)、路上で自ら雑誌を掲げる姿も

教員のコメント:

 ビッグイシュー創刊の地であるイギリスでは、週刊で発行され(日本では隔週)、販売部数や販売者数が日本より多いとのことだが、「それはなぜか」という質問が学生からありました。松岡講師によれば、「一つは、長い歴史的・文化的に形成されてきた土壌として、イギリスには『チャリティの精神』が根付いていることが要因の一つ」だろうとのことです。

 また、19年前、日本版の創刊にあたり成功するかどうかについて、100人が100人「絶対に失敗する」と言われたそうです。なぜなら「活字は読まれない」「情報はタダの時代」「路上で買う文化はない」というのがその理由であったが、例えば、かつてどこでも見かけた雑誌『関西Walker』は、かつて3か月間で約56,000部を販売する規模のメジャーな雑誌であったにもかかわらず(数字は2015年、日本雑誌協会調べ)、現在定期刊行を休止した状態にある。そうした出版不況の中にあり、ビッグイシューも販売部数を減らしているが、現段階では健闘しているとのことでした。

 事業環境がこの間、両雑誌にどのような影響を与えたのか、一方は配管、他方の『ビッグイシュー』1は継続している。これをどのように説明できるかを経営学の問いとしてみるととても面白い答えが出てくると感じます。平たく言ってみれば、社員十数人の『ビッグイシュー』が3年に及ぶコロナ社会のなかでもしぶとく隔週で雑誌を作りつづけているのに対し、社員5,000人をかかえ、毎月1万部以上は最低売れていた『関西Walker』を制作する㈱KADOKAWA(むかしの角川書店)は、なぜ同誌を休刊せざるを得なかったのか、という点です。調べて考えて見ましょう。