森重ゼミでは、観光を通して人びとがつながることで、地域を元気にする方法について考えています。2015年度は香川県小豆島をフィールドに、移住のきっかけを生み出す観光マップの作成に取り組んできました。
 2つの町からなる小豆島は、香川県内でも人口減少率が高い地域であり、移住の促進を通じた人口や地域活力の維持が求められています。先行研究によると、観光旅行での訪問をきっかけに移住を考える人が多いことから、小豆島を訪れた観光客に移住を考えてもらうための観光マップを作成することにしました。
 まず、小豆島の地勢や人口、観光資源などの現状や課題を把握した上で、2015年9月7日から5日間現地調査を実施しました。現地調査では、アクティビティ、景観、特産物のテーマごとに、グループに分かれて効率的に調査を進めました。地域に長く住み続ける移住者の視点から見た魅力的な観光資源を調査するとともに、土庄町役場や小豆島町役場、小豆島観光協会、移住者が経営する店舗、移住者の活動グループ、観光客などに聞き取り調査も行いました。その結果、地域活性化に向けて、たんに移住者を増やすだけでなく、できるだけ長く定着できるような工夫も必要であることが明らかになりました。
 現地調査で得た成果をもとに、観光マップのコンセプトや掲載する資源などを整理し、2015年11月29日に高崎経済大学で開かれた第30回日本観光研究学会全国大会学生ポスターセッションで発表を行いました。ここでは観光研究者からさまざまなご意見やアドバイスをいただき、観光マップの方向性などを見直す機会になりました。さらに、2016年1月には学内での発表会で成果を伝える機会があり、観光マップを多面的に捉えるためのご意見をいただきました。
 こうした検討の結果、「のんびり島旅しませんか」と題する観光マップの作成に至りました。このマップには観光客が繰り返し訪れたいと思ったり、暮らしや生活をイメージしたりできるよう、小豆島の魅力が伝わる資源や地域住民が勧める資源、移住者と交流できる場所などを掲載しています。今後、2016年3月28日に再度小豆島を訪問し、土庄町役場、小豆島町役場、小豆島観光協会の方々にこのマップを提案する予定です。そこでさらにご意見をいただくとともに、不足している資源調査を実施した上で、観光マップを改善し、完成させることにしています。

参加学生一覧

川口華月沙、吉田知奈、李龍珠、温莎莎、絹田祐介、久保田萌子、合田絵里奈、榊原知恵、佐藤研、高橋和、長谷川真保、藤田亜希、劉俊峰、木村愛美

学生の感想

国際観光学部 佐藤 研

 私たちは小豆島の移住促進について研究しました。小豆島の地域住民や移住者、町役場、観光協会に聞き取り調査を行い、どのような思いで移住されたのか、小豆島のどのような魅力にひかれたのかなどを明らかにしました。当初、単純に移住者を増やすことを目的に進めていましたが、聞き取り調査を続けるうちに、移住が定住につながらないこともあることに気づきました。そこで、当初のコンセプトを変更し、観光で訪れた方にまず移住のきっかけをつくるための観光マップを提案することにしました。研究の途中でコンセプトを変更することになり、新たなコンセプトをどのように打ち出していくかという点で、とても苦労しました。そこで、ゼミ生それぞれの役割を明確にすることで、効率よく観光マップをつくり上げました。今回のキャリアゼミ活動を通して、ゼミ生1人ひとりが役割を分担しながら、1つのものをまとめ上げる苦労と大切さを学ぶことができました。

教員のコメント

国際観光学部 森重 昌之 准教授

 ゼミ活動では、ゼミ生自身が地域の課題を見つけ、観光を活用して解決の糸口を探る論理的思考を身につけることを重視しています。今年度はゼミ生全員で話し合った結果、香川県小豆島をフィールドに選び、「移住者を増やすことが地域にプラスになる」と考えて調査を進めてきました。しかし、現地での聞き取り調査を通して、「たんに移住者が増えればよいというわけではない」ことに気づきました。その結果、観光マップの作成のコンセプトが揺らぎ、なかなか方向性が定まらない時期もありました。しかし、今まで問題が一方的に与えられる教育しか受けてこなかったゼミ生にとって、「そもそも問題をどのように認識すればよいか」について考える良い機会になったのではないかと思います。現地での聞き取り調査にご協力いただき、こうした学びの機会を与えてくださった小豆島の町役場や観光協会の方々、移住者も含めた地域の皆さまに、心より御礼申し上げます。