解釈可能なパラメーターによる機械学習モデルを作成
~高分子材料開発におけるAI適用を促進~

総合情報学部松田教授は群⾺⼤学⼤学院理⼯学府 分⼦科学部⾨ 覚知亮平准教授と物質・⽣命理⼯学領域 松原希宝さん(博⼠後期課程2年)ならびに、福岡⼯業⼤学情報⼯学部・統計数理研究所 ⾼橋啓准教授、国⽴研究開発法⼈量⼦科学技術研究開発機構(QST)⾼崎量⼦技術基盤研究所の瀬古典明プロジェクトリーダー、植⽊悠⼆上席研究員らの研究グループとの共同研究により、化学者にとってイメージしやすい材料の性質による機械学習モデルを作成し、量⼦ビームグラフト重合の反応性予測に成功しました。これにより、⽣活必需品の主な素材となっている⾼分⼦材料の開発スピードが増すとともに、無駄のない開発が進められ省資源での材料創製が可能となります。本研究成果は、Wiley-VCH が出版するChemPlusChem誌にて発表し、評価の⾼い研究内容として、Front CoverおよびCover Profileに採択されました(図1)。
  • 図1.採択されたカバーイメージおよびプロファイル

1.本件のポイント

  • 化学者にとってイメージしやすい材料の性質を使った機械学習モデルを構築
  • 構築した機械学習モデルによる量子ビームグラフト重合の反応性予測に成功
  • 高分子を作る、固相-液相の異相系反応の予測に道筋を示せた

2.研究内容

接着剤や高吸水性樹脂などは、主として高分子と呼ばれる材料で構成されており、今や生活には欠かせない重要な必需品として活用されています。これらの様々な機能を有する高分子材料は、いくつかの方法で作ることができます。様々な方法がある中、量子ビームを活用するグラフト重合は、平膜や繊維、織布、不織布などの既存の汎用素材に対して、その形状や物性を維持したまま簡便に新しい機能 (吸着・吸水機能など) を付与できる優れた手法で、これまでにもいくつかの商品化がなされてきました。しかしながら、量子ビームグラフト重合技術は素材中のラジカルと呼ばれる反応活性種と、溶液中の機能性モノマーとの固相-液相の異相系反応であり、複雑な反応メカニズムになります。このため、様々な機能性材料を創製するためには各反応系における統一した条件を決定することができず、実験的な暗中模索が余儀なくされ、開発までに多くの時間を要していました。また、反応溶液中におけるビニルモノマーの拡散過程や材料への浸潤といった様々な影響因子が影響するため、事実上反応を予測することはできないとされていました。このような中、昨今では機械学習を活用し、材料合成の反応性を予測する試みが行われております。実際に、量子ビームを使った反応予測に機械学習を適用した研究も進められており、重要な研究課題の一つとなっています。 今回、本研究グループでは、化学者にとってイメージしやすい材料の性質を活用し、分かりやすい機械学習モデルを構築することが重要であると考え、シミュレーションにより算出した材料の性質を利用した機械学習モデルの構築を試みました。この結果、化学者にとってイメージしやすい材料の性質を使った機械学習モデルを作ることに成功しました。これにより、これまでにワンバイワンでの試行が余儀なくされてきた異相系の反応である量子ビームグラフト重合の予測が可能になり、生活必需品の主な素材である機能性高分子材料の開発スピードが速まるだけでなく、原料の省資源化を図ることが可能になります。また、本モデルは、これまで量子ビームによる加工が困難であったカーボンニュートラルな材料へのスムーズな展開を秘めており、資源循環や実験に依存した労働集約的な材料開発へと貢献することが期待されます(図2)。
  • 図2. 本研究の内容

本研究は、阪南大学総合情報学部 松田健教授ならびに福岡工業大学情報工学部 高橋啓准教授、さらに国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)高崎量子応用研究所の瀬古典明プロジェクトリーダー、植木 悠二上席研究員らの研究グループとの共同研究によるものであり、2022年度統計数理研究所公募型共同利用 一般研究2(課題番号: 2022-ISMCRP-2027) を通じて行われたものです。さらに、本研究は「Sメンブレン」プロジェクト(代表:上原宏樹教授)の一環として行われたものです。群馬大学研究・産学連携推進機構では、今後の本学における新たな強み・特色として高い可能性を有するプロジェクトを「重点支援プロジェクト」に指定しており、研究拠点の形成を目指した「推進研究(G2)」の一つとして、超高性能・高機能な膜材料を創製する「スーパー・メンブレン」プロジェクト(略称:「Sメンブレン」プロジェクト)を推進しています。なお、筆頭著者である松原希宝さんはJST 次世代研究者挑戦的研究プログラム「グンマ創発的博士人材インダクションプログラム」 (Grant No. JPMJSP2146) の助成を通して本研究活動に従事しています。

3.論文の掲載先

雑誌名:ChemPlusChem
刊行日:2024年4月18日
タイトル:GFN-xTB-Based Computations Provide Comprehensive Insights into Emulsion Radiation-Induced Graft Polymerization
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Cover Profile