国際観光学部学生広報誌「ラ・れっとる 第24号」 学生たちが城崎温泉で若旦那・若女将の密着体験

若旦那・若女将密着体験プロジェクト

 8月24日の「読売新聞」に国際観光学部の学生が大きく取り上げられました。「学生就業体験・城崎温泉にて」と題して活躍ぶりを紹介されたのは、2回生の井上佑太(いのうえゆうた)君です。城崎温泉の三木屋にお世話になった井上君たちが旅館修行に励み、その働きぶりが注目されたのです。
 井上君も含めて国際観光学部の学生12名が参加したこのプログラムは、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部と日本学生観光連盟のコラボ事業である「若旦那・若女将密着体験プロジェクト」です。第6回目を迎える今年の体験場所は城崎温泉でした。プロジェクトの狙いは「将来の旅館業を担う事に成り得る人材育成の入り口となり、世界に誇れる旅館ブランドの構築」にあります。はたして参加した学生が狙い通りの人材に成長したのでしょうか。
 このたびは、参加した国際観光学部の学生のうち、1回生の窪悠里(くぼゆうり)さん、2回生の井上佑太君、3回生の米原佑貴(よねはらゆうき)君の3人を取材し、体験談を聞かせていただきました。就業体験の苦労話や成果を紹介しましょう。(松枝湧也)

※この広報活動は、阪南大学給付奨学金制度によって運営しています。

仕事を覚えるだけではない体験

松枝:窪悠里さんが城崎温泉でのインターンシップに参加されたのは、何か特別な思い入れがあったのですか。
:城崎は今回が初めてですが、温泉街の幻想的で温かみのある雰囲気が大好きなんです。
松枝:温泉にはよく行かれるのですか。
:はい、何度か。
松枝:それが参加されたきっかけですか。
:「温泉街の雰囲気を満喫したい」という思いだけではなく、「伝統的な旅館の仕事を体験してみたい」「伝統を守り続ける温泉街の人々と交流をしたい」という思いもありました。

松枝:窪さんの実習先は陶芸体験や貸切風呂で知られる喜楽さんでしたね。そこでどのような体験をされたのですか。
:仲居さんのお仕事を手伝いしました。お出迎えやお見送り、配膳やかたづけ、布団の出し入れなどです。
松枝:まさしく旅館の仕事ですね。それで得たものは?
:お出迎えするときも、お料理をお出しするときも、まずはお客様のご都合をうかがい、笑顔になっていただける方法を考えるよう指導されました。
松枝:おもてなしの精神ですね。
:そうです。お客様一人ひとりのことを考え、先のことまで見据えて動くことの大切さを学びました。
松枝:そのような体験は初めてだったのでしょう。緊張されませんでしたか。
:旅館の方々はもちろん、ともに体験をする他大学の学生たちとも初対面でしたので、初日は緊張しましたね。ただ、その日の夜、西村屋ホテル招月庭さんで行われたウェルカムパーティーがよかったです。
松枝:よかったとは?
:関東から来たたくさんの学生と交流できたことです。おかげで、2日目からの体験は仲間たちとうまくコミュニケーションが取れ、最終日に行なうグループ別プレゼンテーションも、いいムードで準備できました。
松枝:そういう副産物もあったのですね。
:そうです。旅館の仕事を学べたことはもちろん、他大学の学生と交友の輪を広げることができたことも、貴重な体験でした。
松枝:それでは、体験を生かして、これからも頑張ってください。ありがとうございました。

人を呼ぶ極意を学びました

松田:井上佑太君、「読売新聞」掲載の快挙、おめでとうございます。
井上:ありがとうございます。でも、たまたま私がインタビューを受けただけで、グループの仲間たちの努力やスタッフの皆様のご尽力の賜物です。
松田:それではさっそく、城崎温泉でのインターンシップに参加したきっかけをお聞かせ下さい。
井上:出身地は福井県の美浜町です。ご存知かも知れませんが、民宿が多く、宿泊施設が町民の生活と密接に関わっています。
松田:美しい砂浜で有名な町ですね。
井上:そのとおりですが、それだけでは人は呼べません。伝統的な観光地である城崎温泉の、集客の秘訣を探れば、町づくりをめざす私にとって、ヒントになるのではないかと思い、応募しました。
松田:たしかに。で、城崎温泉のどちらで就業体験をされたのですか。
井上:お世話になった旅館は創業300年を数える三木屋さんです。志賀直哉の『城の崎にて』を生んだ老舗旅館です。
松田:それはまた、由緒ある旅館で修行をされましたね!私も知っていますが、いかにも日本的で落ち着いた旅館ですよね。
井上:これまで、恥ずかしいことに、ホテルと旅館の違いがわかりませんでした。その違いがわかったこともインターンシップの成果です。
松田:違いとは?具体的に。
井上:三木屋さんはお客様一人ひとりと接することができるように、部屋数を少なく抑え、ゆったりとした空間を作っています。
松田:泊まる所を提供するだけの宿泊場ではないということですね。
井上:そうです。名前をお聞きしなくても靴をお出しできるのは、そういう方針があるためです。ありとあらゆる場面で「おもてなし」の心を感じました。
松田:ホスピタリティが細部まで浸透しているのですね。ところで、インターンシップに来ていた他の学生はどうでした。
井上:関西の学生だけではなく、関東の学生も多く参加していました。さまざまな場面で交流を持てました。それも成果です。
松田:全国的な取り組みなのですね。
井上:刺激を受けますね。インターンシップの最終日には、グループごとにプレゼンテーションをする時間が設けられました。「城崎の町づくりの提案」「旅館で働くことの魅力」など、体験を報告し合いました。
松田:それで、井上君のグループはどういう提案をされたのですか?
井上:新たな夏のイベントです。城崎温泉ならではの景色と浴衣歩きの風情を生かし、夏の閑散期にも多くの方が楽しめるようなイベントを提案しました。グループのみんなと真剣に話し合った結果のアイディアです。町づくりは色々な難しさがありますが、それだけにやりがいを感じますね。
松田:これからも学内や学外で活躍されることを期待しています。ありがとうございました。

「しましょうか」ではなく「します」

松田:米原佑貴さんがプロジェクトに参加された動機をお聞かせください。
米原:来年から就職活動が本格的に始まりますので、めざしているサービス業の体験がしたい。そう思ったからです。
松田:体験は城崎温泉のどちらで?
米原:ウェルカムパーティーが開催された西村屋ホテル招月庭です。
松田:温泉街の奥にある老舗のホテルですね。
米原:森に包まれた素晴らしい環境にあります。
松田:そこでの業務は?
米原:ドアマンです。お客様の荷物を運んだり、エントランスの掃除をしたり。
松田:ホテルの最初と最後の印象を決める大事な役目ですね。大丈夫でしたか。
米原:しっかりとした従業員の方に指導していただきましたので、何とかこなせました。
松田:どういう指導を?
米原:お客様に声をかけるときは、荷物を「お持ちしましょうか」ではなく、「お持ちします」であるとか。
松田:どう違うのですか。
米原:「お持ちしましょうか」と聞けば、遠慮をされるお客さんがいます。気を遣わせないとの配慮です。また、どんな小さなお荷物でも、そうお声掛けするよう指導されました。
松田:なるほど、そういう心遣いが必要なんですね。ところで、玄関の掃除はどうでした。
米原:正直に言いますと、接客とは離れた仕事ですので、最初は違和感がありました。ただ、掃除をしていますと、不思議とお客様を迎える気持ちが強くなってゆきます。最終日には自ら買って出るほどになりました。
松田:積極性が身についたということですね。
米原:真剣に働いている従業員の方々を見ると、刺激を受けます。手が空いたときに一息つくのではなく、「次にやるべきことはないか」と仕事を探しておられます。仕事に対する意識が、私たち学生とは、まったく違うのです。
松田:それが実社会のレベルなんですね。

米原:はい、プロと学生の違いを、身をもって体験できたこと。それだけでも成果でした。また、いい思い出づくりを手助けすることが旅館やホテルの役目であることも実感できました。就職先を考える際に、まずはそれぞれの業種の役目を把握しなければならない。そう教えられましたね。
松田:インターンシップでそこまで意識が変わるとは、素晴らしいですね。ありがとうございました。

インタビュー後記

 大学生は夏休みをどう過ごすのか。受験をひかえた高校生のみなさんには、気になるところです。この記事が参考になれば幸いです。実はインタビューをした私たちも、城崎温泉でのインターンシップに参加したメンバーです。私(松田)がお世話になったのは、温泉街の真ん中にある純和風の泉都旅館。そこでフロント業務や部屋の掃除を体験しました。フロント業務はたくさんのことをお客様にお伝えしなければなりません。緊張のため笑顔を忘れることもしばしば。でも、「日常から離れた環境でゆっくりと日々の疲れを癒したい」と思う方々のために、片時もホスピタリティ精神を忘れることはできません。学内にいては学べない実体験ができます。最終日のプレゼンテーションでは、「旅館をメインにした旅行プラン」を提案しましたが、数々のダメ出し。プロの意見にぐんと成長させていただきました。また機会があれば参加したい。それがインターンシップを受けた私たち全員の気持ちです。お世話になった方々に、ここで改めて感謝の意を表します。ありがとうございました。(松田祥佳)