離島をフィールドワークする(1)−観光実習Ⅰ(国内)

島根県隠岐の知夫里島で現地調査を実施しました

 国際観光学部には、実際に国内外の現地に出かけ、現場を視察したり、関係者の聞き取り調査をしたりする「観光実習」という授業があります。今年度の「観光実習I(国内)」は3、4年生の計10名が受講しており、メンバーで話し合った結果、島根県隠岐諸島にある知夫里(ちぶり)島を調査対象地に選びました。
 知夫里島は人口600人足らずの一島一村で、隠岐諸島の中では本土に最も近い島です。しかし、面積が13.70平方キロメートルと広くないこともあり、訪れる観光客の多くが日帰りです。そこで、知夫里島の魅力を探ることで、観光客の滞在時間を少しでも延ばす方法として、魅力的な観光マップを作成することを目標にしました。メンバーは「ジオパーク」をテーマに調査するチームと、「歴史」について調べるチームに分かれ、9月12日(土)から6日間、現地調査を実施しました。
 今回は、「ジオパーク」をテーマに調査した5名が、現地調査の様子やそこで学んだことについて報告します。(森重昌之)

フィールドワークの様子

  • 知夫村役場での聞き取り調査の様子

  • 観光名所の1つ・赤壁

  • 見ごろを迎えたトウテイラン

  • 知夫里島・赤ハゲ山から見た島前のカルデラ地形

参加学生のレポート

ミステリアスな知夫里島
 国際観光学部3年 竹中さおり

 知夫里島は人口600人未満で、高齢化率が48%の一島一村の村です。知夫里島と言えば、大半は「赤ハゲ山」や「赤壁」といった観光名所にまず着目すると思います。私自身もその中の1人でした。しかし、今回のフィールドワークで、隠岐の島にある隠岐自然館・ジオパークセンターに立ち寄る機会があり、そこで隠岐の不思議な生態系を知り、興味を持ちました。
 隠岐は起源が異なる植物が、同じエリア内で観察できます。独自の植物相は、大陸系・北方系(高山系)・南方系・固有種の大きく4つのタイプに分けられます。例えば、北海道に生息する「ハマナス」、沖縄や朝鮮半島に分布する「ナゴラン」、その上、「ユキグニミツバツツジ」という、その名の通り多雪地域の山間部に多い北方系の樹木で、氷河期の生き残りの植物が知夫村では観察することができます。また、大陸系の「ダルマギク」が隠岐諸島で観察できることなどから、大陸と陸続きになっていた証明にもなり、植物から歴史を学ぶことができます。
 さらに、隠岐の固有種である、キク科の「オキノアザミ」、「オキノアブラギク」、ゴマノハグサ科の「トウテイラン」といった植物も数多く観ることができます。至るところに変わった植物が咲いているため、無意識にカメラを手にし、写真に収めていました。
 知夫村の観光案内所でいただいたパンフレットには、図鑑にも記載されていないという植物の情報が載っていて、知夫村に行った人でしか知り得ないことがありました。
 一方、人口の約4倍の2,500匹が生息すると言われているタヌキですが、村内を歩いていても、あまり見かけることがなく、不思議に思っていました。村役場の方が「タヌキは夜行性だから、昼間はあまり出てこないが、夜になるとそこら中に出てくるよ。うんざりするくらい」と教えてくださいました。都会で生活していると、もちろん野生のタヌキと遭遇する機会はなく、私は今までタヌキを見たことがありませんでした。そのため、赤ハゲ山の展望台に向かう際、偶然タヌキを数匹見ることができ、私も含めた他の学生も大興奮していました。
 住民が何とも思っていない、ごく普通のことが、観光客や初めて島に来た人にとっては、珍しい非日常的なことで、価値のあることだと感じました。住民の方と話すと、「よくこんな何もないところに来たね。ありがとう」という言葉をよく耳にしました。しかし、私は決して「何もない島」だとは一度も思いませんでした。確かに、慣れ親しんだコンビニエンスストアやアミューズメント施設はありませんが、それがまた良いのだと思います。金子みすゞの詩の一節にある「みんな違って、みんないい」と言う言葉は、まさにこういうことなのだと実感しました。今後も「価値があるもの」を住民や観光客が認識し、引き続き保護していくことが今後の課題だと思いました。

世界ジオパーク認定に対する村民の意識
 国際観光学部4年 平山あかね

 9月12日から17日まで、観光実習Iの授業で、島根県隠岐・島前の知夫里島に現地調査を行ってきました。島後から島前に行くフェリーの都合により、13日から4日間、知夫里島に滞在していましたが、最終日の16日夕方には島後に到着しなければならなかったので、実質的に3日間の調査期間でした。今回、事前に隠岐の歴史チームと知夫里島の世界ジオパークチームの2つに分かれました。私は世界ジオパークのチームで、知夫里島で世界ジオパークに認定された資源や自然を使って謎解きマップをつくり、少しでも滞在時間を延ばすことを目的にしています。
 今回、知夫里島での住民の方々に聞き取り調査も行いました。知夫里島は知夫村の1村で、人口は約600人の小さな島です。そのため、「ほとんどの住民同士は顔見知りである」と住民の方がおっしゃっていました。私たちが調査を行っている時や休憩している時、昼食をとっている時など、住民の方が話かけてくださるなど、気さくな方が多いと感じました。実際にお話を聞いていると、たまに知夫村出身の方ではなく、移住して来られた方もおられました。
 知夫里島での調査2日目に、知夫村役場の方から、村民の憩いの場となっている「陽だまり」という喫茶店を教えていただきました。そこに行くと、とてもアットホームな雰囲気で、そこで休憩をされていた地元の方にお話をたくさんうかがいました。元村議会議員をしておられた高田武さまも来店されており、小中学生が合わせて30人前後に減ってしまったことや、島内に公共交通機関がなく、住民の移動手段が不便であること、家族の若い人が自動車で商店に買いに来ていること、朝にバスが2回走っているので、それを利用していることなど、詳しくお話をうかがことができました。
 3日目も、住民ヒアリングをするため、島内の集落を歩き、「陽だまり」にも行きました。商店をされている住民の方にお話をうかがうと、「観光客が来ることはとても歓迎している」、「冬になると天候が厳しいので、住民も帰ってこない」、「冬の時期は観光客も厳しいのではないか」という話がうかがうことができました。「陽だまり」では、この日も住民の方から話を聞くことができ、「世界ジオパークに認定されたことについて、どう思っているのか」と尋ねたところ、「うれしいが、あまり実感がない」、「世界ジオパークに認定されたことは知っているが、詳しいことはよく知らない」、「世界ジオパークに認定されて何か特別なことをしているのか、していないのか、よく知らない」など、知夫里島の住民にあまり情報が共有されていないことがわかりました。
 今回の住民の方々への聞き取り調査で、村内での情報共有がされていないこと、世界ジオパークに認定されたことに関してあまり関心はなく、赤壁や赤はげ山の景色のすばらしさに対して関心をお持ちになっていることがわかりました。そして、気さくに話しかけてくださる住民の方が多くおられたので、地域住民と交流ができ、滞在時間を延ばすことができるような謎解きマップをつくる案が膨らみました。

実際に訪れることで気づいた知夫里島の魅力
 国際観光学部4年 福崎美帆

 9月12日から9月17日まで、観光実習Iの授業の一環として島根県知夫里島を訪れ、観光資源の調査を行いました。知夫里島は一島一村の島であり、隠岐諸島の島々の中で最も本土から近い場所に位置しています。島の周囲は12.7kmで、自動車があれば1時間で一周できるほどの小さな島です。人口は500人程度で、複数の集落が存在しています。知夫里島は高速船が停泊しないため、知夫里島を訪問するには、フェリーに乗船するか、別の島まで高速船や連絡船に乗り、その後内航船に乗り換える必要があります。最近は海外映画のロケが行われるなど、海外からの注目度が上がっており、外国人観光客も来島しています。
 フィールドワークでは、知夫村観光振興課の方々へ聞き取り調査を依頼し、知夫村の観光資源や今後の観光事業の展望などについてお聞きしました。現在の観光客は団体客よりも個人客が圧倒的に多く、来島目的のほとんどは釣りだそうです。また、宿泊施設の数が少ないため、あまり団体客を受け入れることができないともおっしゃっていました。最も宿泊客を受け入れることができる「ホテル知夫の里」も定員が40名のため、知夫里島を観光した後、島前の他の島々で宿泊をしているのが現状です。午前中に赤ハゲ山や赤壁といった観光地を周遊し、他の島へ移動するというのが、定番の観光コースだということがわかりました。
 今後は知夫里島全体を自然公園のようにしたいと考えているとうかがいました。現在、力を入れている取り組みとして、木佐根海岸や島津島の周辺をシーカヤックで周遊できるしくみを考えておられ、モニターツアーを実施していると教えてくださいました。知夫里島の周辺は高台に登って海を見下ろしても、水が透き通っていることがわかるほど、水が澄んでいます。話を聞くだけで人気のアクティビティになるのではないかと感じました。また、釣りや観光以外では、サイクリングを目的に来島する方が多いことに着目し、サイクリングロードをつくることも企画されているそうです。知夫里島は公共交通機関がなく、移動方法はレンタカーかタクシー、徒歩のみです。レンタサイクルができるようになれば、若者も来島しやすくなるのではないかと感じました。その他の企画として、自動車移動よりも徒歩移動の方が島の魅力を理解していただけると考え、サイクリングコースと並行してハイキングコースや遊歩道をつくり、ノルディックウォークのように歩いて島を回るようにする計画もあるそうです。今回、私たちはレンタカーで移動することが多かったのですが、集落を歩くと、道行く人々が次々と話しかけて下さり、会話に花が咲きました。また、歩くことによって私たちも島民の方々の顔を覚えることができ、打ち解けることができました。知夫里島の魅力は自然だけではなく、気さくな島民の方々との触れ合いにもあると考えます。
 今回の聞き取り調査で、知夫里島の観光を盛り上げるために、さまざまな企画を立てておられることがわかりました。とても自然豊かな島で、自宅周辺ではなかなか見ることができなくなった、ミツバチが花の蜜を集める光景や蜘蛛の巣ばかりの林道をたくさん見かけました。こうした自然を守りながら、観光地として発展するにはどのような方法があるか、今後も調査を続けたいと思います。

知夫里島の豊かな観光資源と人の温かさに触れた
 国際観光学部4年 上垣彩夏

 隠岐の島・西郷にて1泊した後、9月13日〜16日の4日間は3つのグループに分かれ、調査を行いました。私たちは知夫里島のジオパーク調査グループとして、すべての日程を知夫里島で過ごし、資源調査や村役場での聞き取り、現地住民への聞き取りを行いました。
 調査が始まる前、来居港からログハウスまで歩いている際、最初に出迎えてくれたのが河井の湧水のお地蔵さまでした。この水は煮沸してから飲むものらしいのですが、マップに記載されていた観光資源に初めて出会った喜びで、そのまま飲んでしまいました。私たちは知夫里島の観光資源を紹介する際に、クイズを解きながら巡るマップを作成することを目的としていたので、1日目は既存の観光マップに記載されている観光資源を訪れました。謎解きの材料になるようなものはないか、注意深く観察しながら調査を行いました。タブの木では、「枝が人の顔のように見えることが謎解きに使えるのではないか」という発見がありました。
 そして、島一番の観光名所である赤壁では、メンバー全員が大興奮するほどの見事な絶景と、柵などがなく、一歩足を踏み外したら落下してしまう断崖絶壁に圧倒されました。村役場でお聞きしたところ、迫力を演出するためにあえて柵などは設けないとのことでした。過去に牛が何頭か落下してしまったことがあるそうですが、観光客でそのようなことは一度もないそうです。
 赤ハゲ山展望所は知夫里島の最高峰であり、島前のカルデラの地形を360度大パノラマで一望することができます。無料で利用できる望遠鏡があり、他の島々を観察することもできます。望遠鏡で見ることができる景色の中で、なにか謎解きに利用できるのではないかと考えました。
 お松の碑は一見ただの石碑のようでしたが、それにも物語が存在し、それを知っているのと知らないのでは楽しみ方がまったく違ってきます。また、「ジャーマキ」という縄がいたるところに設置してあるという情報を村役場の方からうかがうなど、知夫里島には既存のマップに記載されておらず、地元の方しか知らない島の魅力が多くあるということがわかりました。
 一方、道を歩いていると、すれ違う方が挨拶をしてくださったり、「クルマで送ってあげようか」と優しい声をかけてくださったりするなど、地元の方の気遣いに心温まりました。「自然が綺麗なところは人の心も美しいのだ」と改めて実感した4日間となりました。
 これから今回のフィールドワークで得た情報と体験をもとに、知夫里島の観光資源を巡る謎解きマップの作成に移りたいと思います。お忙しい中を聞き取り調査にご協力いただいた村役場の方、地元住民の方、そして引率してくださった森重先生に感謝いたします。

時代によって姿を変えた隠岐諸島
 国際観光学部3年 合田絵里奈

 今年度の観光実習の授業では、観光資源を活用して新しい観光客誘致の方法を考えることを研究テーマとして設定し、島根県の隠岐諸島に属している知夫里島を研究対象に学んでいます。
 2013年9月に、知夫里島を含めた有人島4島と180余りの無人島が世界ジオパークとして認定されました。ジオパークの「ジオ」とは、大地や地球という意味で、直訳すると大地の公園や地球の公園になります。地域ならではの大地や自然、風景、生物、歴史、文化などを守りながら、それぞれの関係を学び楽しみ、地球を丸ごと考えることができます。
 知夫里島は、ジオパークに登録されている有人島4島の中で最も人口が少なく、隠岐諸島に観光客が訪れても、知夫里島以外の3島しか訪れないというのが現状だそうです。そこで、私たちは参加体験型の謎解きマップを作成することで、少しでも多くの方に知夫里島を訪れていただけるように、また滞在時間を伸ばしていただけるようなしくみづくりをすることが、交流人口を増やし、地域活性化につながるのではないだろうかと考えました。
 9月12日から17日まで知夫里島で現地調査を実施しました。まず、隠岐ジオパークについて、知夫里島ではありませんが、隠岐の島・西郷にある隠岐自然館を訪れ、隠岐諸島がどのようにして成り立ったのか学びました。隠岐世界ジオパークの特徴は、さまざまな形態の変化が起こり、大陸から島に移り変わったことによって、大地の成り立ちから独自の生態系や文化となっていることです。隠岐ならではの鳥や魚、虫や石などの展示、知夫里島にある赤壁はなぜ赤いのかなども詳しく学べます。また、スタッフに解説していただきながら館内を周ることができるので、より詳しく隠岐世界ジオパークについて知ることができます。隠岐自然館で学んだことを参加体験型の謎解きマップにどのように工夫して載せるのか、どのようにすればおもしろそう、行ってみたいと思っていただき、手に取っていただけるのかを考えていくことが、今後の議論していく内容の1つになると思います。
 今回、現地調査を実施することで、インターネットなどの情報ツールからでは伝わらない隠岐世界ジオパークの魅力を知ることができました。知夫里島には、赤壁や赤ハゲ山といったすばらしい観光資源があるにもかかわらず、あまり隠岐諸島に訪れる人には伝わっていないと思います。そういった問題点も見つめ直していくことも重要な課題であると思います。