離島をフィールドワークする−観光実習I(国内)

移住政策を学ぶために、小豆島でフィールドワークを行いました

 国際観光学部では、2012年度から国内外で観光に関するフィールドワークを実施する授業が始まっています。今年度の「観光実習?(国内)」では、離島の人口減少に歯止めをかけ、移住者を増やしていくための取り組みを考えるというテーマに、6名が挑んでいます。
 今回は、まず行政が積極的に移住政策に取り組んでいる香川県小豆島に着目し、7月18日に小豆島を訪問しました。土庄町役場への聞き取り調査を行ったほか、移住者が経営しているカフェを訪問しました。今回のフィールドワークで得た成果については、実習に参加した学生が以下で報告します。今後は9月に沖縄県小浜島を訪問し、移住者への聞き取り調査も実施する予定です。(森重昌之)

当日のフィールドワークの様子

  • 町役場での聞き取り調査の様子

  • 町役場前にある世界一狭い海峡

  • エンジェルロードにて

  • まちなかにある手づくり地蔵

  • 移住者が経営するカフェ

参加学生のレポート

移住者受け入れのための政策と地域の現状を学んだ
国際観光学部4年 浦上絵梨香

 7月17〜18日に、香川県小豆島に移住者政策について聞き取り調査に行きました。私たちは、観光実習の授業で研究内容を決めるにあたり、移住者について興味を持ちました。そこで、移住者の受け入れの政策を多く行っている、土庄町役場に聞き取り調査をお願いすることにしました。
 小豆島は、小豆島町と土庄町の2つの町からなる島で、瀬戸内海で2番目に大きい島です。オリーブやゴマ油、手延べそうめんなどの産業が有名で、小説「二十四の瞳」の舞台になっており、最近では「八日目の蝉」、「実写版魔女の宅急便」の映画のロケ地にもなっています。また、橋やトンネルではつながっていないので、フェリーが小豆島までの交通手段になります。島内にある6つの港はそれぞれ高松や岡山、神戸、姫路などの主要都市とつながっています。私たちは17日夜に高松に到着し、18日朝に高松からフェリーで小豆島に向かいました。私たちの乗った高速艇「ひかり」は高松築港を出発し、30分ほどで土庄港に到着しました。高速艇は1日15便あり、他の港に着くフェリーなども合わせると、1日50便以上もあり、主要都市からのアクセスは便利です。高松へ通勤・通学している人や、反対に高松から小豆島へ通勤している人もいるそうです。
 土庄町の移住政策の中心になっているのは、「島暮らし体験ツアー」と「空き家バンク」です。島暮らし体験ツアーは、移住を考えている人へ向けた就労・移住の相談会、移住者との交流会、空き家バンクの見学、地場産品の見学・体験などのプログラムが1泊2日で組まれたものです。2013年度には2回開催され、6組6名が参加されたそうです。以前から島暮らし体験ツアーは開催されていたそうですが、より移住への関心を高めてもらうために、街中散策ツアーなど観光要素を取り除き、代わりにハローワークでの就労状況を知ることのできる時間を取り入れたそうです。空き家バンク制度は、空き家を持っている地元の方に空き家バンクに登録してもらい、町役場が移住を考えている人に空き家情報を提供します。また、実際に移住を体験したい人へ向けて、「島暮らし体験の家」という制度もあります。最短1週間から最長3か月まで、1日2,000円で利用できる制度です。他にも、東京や大阪での移住フェアや、就職フェアなどのイベントへの出展も行っています。
 土庄町役場では人口減少が続く中で、移住者の受け入れをすることで、人口減少に少しでも歯止めをかけることを目標にしています。実際に若干の波はあるものの、移住者はほぼ横ばい状態だそうです。地域は基本的に移住を受け入れる側の立場なので、いくら「移住者に来てもらいたい」と思っていても、移住先の候補としてあがらなければ、制度を充実させても移住してもらえないということがお話の中からわかりました。その中で、数少ないPR方法が島暮らし体験ツアーなどの制度で、小豆島はもともと島の知名度があるので、これらの制度をきっかけに移住者の増加をめざしているそうです。小豆島を含む香川県全体の有効求人倍数が高く、働く先は選ばなければ島内にあり、特定の職種につきたければ、高松へ通勤することも可能なので、移住先の働き口としては充分です。
 また、移住者の条件として、地域に積極的に参加してくれる人を募集していました。55の自治会がある小豆島では、祭りなどの地域行事が多く、地域のつながりが深く残る地域でした。お遍路さん文化があるので、接待の気質があり、地元住民から移住者へ行事参加のお誘いなど、移住者を受け入れやすい環境であることもわかりました。実際に私たちがお話を伺った土庄町役場の皆さんも、立ち寄った喫茶店で声をかけてくださった地元の方も、すごく親切で気さくにいろいろなお話をしてくださいました。都会への交通の便の良さ、働き口の多さ、地域の環境が小豆島の移住者が多い要因で、そのきっかけとして移住者受け入れの制度があることを聞き取り調査から感じることができました。

政策は移住の最強の武器にはならない
国際観光学部4年 笹田真璃

 7月17日、18日に、香川県小豆島にある土庄町役場へ聞き取り調査に行きました。小豆島では年々人口減少が進んでおり、2009年から2013年にかけての4年間で約1,000人減少しており、これは4年間で土庄町の人口の約6%が減少したことになります。この数字は全国各地と比較しても決して良い数字ではなく、人口減少率は県内市町でワースト1位です。これは土庄町が移住者の受け入れとして島暮らし体験ツアーなど、さまざまな取り組みを行った結果です。地方の過疎化が深刻化している現代において、土庄町ではどのような考えのもとこのような政策を行っているのか、現状はどうなのかについてお聞きしました。
 土庄町役場では、2008年から島暮らし体験ツアーを行っています。このツアーでは、現地のハローワークで実際に就労相談ができたり、すでに移住した方との交流があったりするなど、現地で住むことを現実的に考えることのできる内容になっています。移住者受け入れの政策は他に、空き家バンク制度があります。この制度は町内にある空き家所有者の了解のもと、移住希望者へ物件を提供する制度です。空き家を有効活用し、定住促進を目的に行われています。このような制度から見られる移住に対する前向きな姿勢は、移住者受け入れによって生まれるメリットがあるからだと企画課の須浪さまがおっしゃっていました。「人口が増え、お店が開業され、外の土地からの新しいものを取り入れることによって、地域活性化につながる」。私たちは実際に移住者を受け入れることによって地元住民とのトラブルが生じ、何か問題が生まれてデメリットの面もあるのではないかと考えていましたが、「考えつかない」という返答でした。その理由としては、昔から四国の霊場を巡るお遍路さんを受け入れる気質が地元で根付いており、移住者も受け入れられやすいのではないかと考えておられました。また、今回の聞き取り調査で一番印象に残っているのは「政策は移住の最強の武器にはならない」と断言しておられたところです。積極的に政策を行っておられるにもかかわらず、政策はあくまでPR効果だと考えておられたのです。
 今回小豆島へ行き、企画課の皆さまに聞き取り調査をさせていただきましたが、終始和やかなムードでした。小豆島の活性化のことを考えておられる企画課の皆さまは、とてもいきいきと仕事をしておられる印象を受けました。さらに、町の郵便局は「オリーブの島郵便局」という名前であったり、切手が張り付けられたようなデザインの郵便局があったり、とても明るい雰囲気でした。また、町を歩いていると、いたるところで高校生の手づくりお地蔵さんが置かれていました。こういったところから、小豆島では町役場や郵便局、学校など、地域の公共機関が町を明るくしているなと感じました。これは小豆島の魅力のひとつだと思います。このような地域の魅力が地元の人や移住を考えている人に伝われば、移住する人も増えるのではないかと思いました。

小豆島が移住地として選ばれる理由が明らかになった現地視察
国際観光学部4年 水野巧基

 今年度の観光実習では、移住者の受け入れを研究テーマに設定し、政策として受け入れ体制を整えている小豆島と、移住者が多くリゾート地でもある石垣諸島の小浜島にフィールドを設定しました。そこで、今回は7月19日に小豆島の土庄町役場にて聞き取り調査を実施しました。小豆島では移住者の受け入れに力を入れており、土庄町では空き家バンク制度や「島ぐらし体験ツアー」の実施など移住交流推進事業を実施しています。移住者受け入れ政策を実施した背景としては、人口が年間250人程度減少しており、少しでも減少傾向に歯止めをかけたいという理由があげられます。この移住交流推進事業の取り組みの成果もあり、土庄町は県内でも人口減少率が県内ワースト1位になっています。また、香川県内でも小豆島は移住者受け入れに対して早くから力を入れており、県のモデル事業にもなっています。移住者が小豆島を移住地に決めた理由は、行政では把握していないとのことでした。しかし、小豆島のネームバリューの高さと高松がフェリーで30分の距離にあり、交通の利便性が高く、立地条件が良く、自然が豊かな点があげられるのではないだろうかというお話をうかがいました。また、小豆島を含め、香川県は有効求人倍率が高く、雇用場所がある程度確保されている点も移住地に選ばれる理由ではないかと感じました。地域住民の移住者の反応としても、お遍路さんがあるので、もともと地域外の人たちの来訪や移住に抵抗がないということがわかりました。移住者の特徴としては、数年前までは年配の方が余生を過ごすことを目的に小豆島を選ぶ傾向があったそうですが、近年はメディアなどの影響で、全国的にも農業をすることを目的にした若者なども増えていることがわかりました。
 今回の調査を経て、移住者は政策や支援制度で移住地を決めているのではなく、自然環境や立地条件などで移住地を決めているのではないだろうかと感じました。次回は小浜島での移住者への聞き取り調査を実施しますが、政策や支援制度ではなく、移住にあたって自然環境や雇用状況、知り合いがいるかどうか、キーパーソンがいるかどうかなどの観点から移住における必要な条件を分析し、12月の日本観光研究学会での学生ポスターセッションに向けて研究を進めていきたいと感じました。今回の聞き取り調査を実施したことによって、今後の研究を進めるうえで必要な調査項目を把握することができたのが大きな成果だと考えています。
 また、小豆島を視察してポスターや会館、商店などで「オリーブ」や「うどん」に関連する言葉をつけており、小豆島や香川県は、観光イメージの統一にも力を入れていることがわかりました。この観光イメージの統一が、小豆島のネームバリューの高さにも影響、し移住先に選ばれるきっかけにもなっているのではないだろうかと考えさせられました。

政策よりも住みやすい環境が整っている小豆島
国際観光学部4年 坂本由貴

 観光実習の全体の研究目的として、「なぜ人は移住するのか」というテーマを調査し、その中でも移住者の政策を積極的に行っている地域と行っていない地域を比較して、どのような要素が必要であるかを明らかにする調査をしたいと考えました。そして、今回移住が成功している要因を調査目的として、移住者の受け入れの政策を積極的に行っている小豆島を訪れました。
 小豆島の中でも、土庄町は移住をしようと考えている人に向けて、実際に島暮らしを体験する「島ぐらし体験ツアー」を行い、ハローワーク職員や町役場職員と就労相談ができることや、空き家物件を見学する「空き家バンク事業」など、移住環境を体験することができるツアーがありました。そのような制度の効果で、小豆島に移住する人が多いのではないかと考えていました。そこで、私たちは土庄町役場の方々に協力していただき、聞き取り調査を行いました。
 島ぐらし体験ツアーは当初、「観光」の要素を取り入れた事業を行っていましたが、その後「観光」の要素を取り除いたそうです。新聞などでPRを行うことや就労情報をリアルタイムで相談できる環境、移住促進交付金を開始するなど、本気で移住を考えている人に向けて政策を行っていました。しかし、そのこと自体が移住者増加の要因ではないようです。むしろ、地域の自治会が積極的にイベントや清掃活動への参加を進めてくれる機会があり、「お遍路文化」に代表される、移住者を受け入れようとするおもてなしの良さがあるのではないかと思いました。
 実際に喫茶店へ入った際にも、「どこから来たのですか」と地元の人が声をかけてくださったほか、町役場の方々とも和やかに笑い合いながら聞き取り調査をすることができ、人の温かさを感じる場面が多くありました。他に小豆島が選ばれる理由としては、ネームバリューと海と山がある自然、都市部へ向かう交通機関の良さなどの立地条件が備わっていることから、住みやすい島として選ばれていることがわかりました。
 今回小豆島を実際に訪れ、聞き取り調査した結果、島であり、自然が豊富ながら、交通の便が良く、立地状態の良さと政策の効果が移住者の増加につながっていることがわかりました。そして、何より小豆島の人たちが受け入れるおもてなしの精神があるからこそ、移住しようと考えている人が入りやすくなり、土庄町の移住は成功しているのではないかと思いました。働ける場所、住みやすい街の立地条件も重要ですが、やはり人とのかかわりが重要なのではないかと改めて感じました。観光で訪れた人びとが小豆島に興味を持ってもらい、制度を知ってもらうことで、移住する人が増えていければよいと思います。私自身も自然がとても好きなので、何度も訪れ、自然と人柄の温かい小豆島の良さをもっと知り、広げていきたいと思います。

自治体と町民の連携による移住しやすい環境づくり
国際観光学部4年 白野紘平

 自治体が移住者を増やすためにどのような政策をすればいいのかを考えるために、移住についての政策を積極的に行っている小豆島土庄町役場の方に聞き取り調査を行いました。
 小豆島は、瀬戸内海で淡路島の次に大きな島で、オリーブ、醤油、素麺、佃煮などの名産品があることで知られています。昔、瀬戸内海に居た海賊から身を守るために迷路のように複雑につくられた道は、現在でも昔ながらの町並みとともに残っています。この他にもオリーブなどの栽培がされている「オリーブの丘」や、潮の満ち引きで道が現れたり消えたりする恋人たちの人気スポットがあります。このように小豆島には、観光名所も多く、毎年約8,000人を越える観光客が訪れています。
 しかし、小豆島は毎年人口が減少しており、高齢者を支える若い世代を中心に人材が不足していました。そこで、2007年から土庄町と小豆島町は「小豆島移住交流推進協議会」を結成し、香川県と連携して移住の受け入れを促進してきました。土庄町では、若い世代を確保し、高齢者社会を支えるとともに、人口増加と地域活性化を図ることを目的に、移住者受け入れのためのさまざまな政策が行われています。その中に「空き家バンク制度」と「島ぐらし体験の家」があります。「空き家バンク制度」とは、土庄町内の空き家の有効活用を通して、町民と町外の方との交流や定住促進を目的としています。土庄町だけでなく、全国の自治体で取り組まれています。一方、「島ぐらし体験の家」は2008年から開始されました。空き家バンク制度と同様に、町民と町外の方との交流や移住による地域活性化を目的としている移住交流滞在施設です。最短1週間〜最長3ヶ月までで1日2,000円から利用することができます。空き家バンクに比べ、全国でもあまりない政策であるため、移住を考える方の目を引くのではないかと考えました。これら2つの政策をもとに、小豆島は移住者の増加を図っていました。移住者の数は、2007年には14名だったのが、2013年には183名と大きく増加しています。これは、小豆島の自治体と町民とがうまく連携できていることを表した数字だと思いました。
 今回のフィールドワークで、自治体と町民が連携することにより、移住を考える方が抱える雇用や移住後の生活などの不安を交流により解消し、移住しやすい環境づくりをしていることがわかりました。しかし、移住者がどうような魅力を持って、移住したいと考えるようになったのかなどについて疑問が残っているので、今後の移住者への聞き取り調査で明らかにしていきたいです。

移住の取り組み活動でより良い地域おこし
国際観光学部4年 関伽緒里

 7月18〜19日にかけて観光実習?(国内)の授業の一環で、小豆島の移住者に関しての聞き取り調査を行いました。
 1日目は高速バスで高松まで移動し、1泊しました。次の日にフェリーに乗って小豆島の土庄町に行くために、高松琴平電鉄を利用してフェリー乗り場まで行きました。高松港から小豆島の土庄町までは30分ほどで着きます。フェリーでは、高松から小豆島に働きに出かける方も多く、通勤途中の人を多く見かけました。
 フェリーで小豆島に到着した後、土庄町役場まで徒歩で行きました。その道中に石に顔が描かれているお地蔵さんみたいな置物を何個も見かけました。これは、観光に来られた方が道に迷わないように目印として置かれているとのことで、1つ1つ描かれている顔は違いました。
 まず移住者を受け入れ始めた理由として、人口の減少に伴って働く場での人材の減少を抑えるため、地域おこしの一環として行い始めたそうです。2007年から移住政策を積極的に行い始め、2008年には空き家バンクという空き家の賃貸・売却を希望する人から申込みを受けた情報を、空き家の利用を希望する人に紹介する制度を行い始めました。同年には島ぐらし体験という1泊2日の移住体験ができるツアー制度も始まりました。年に2回ほど行われており、内容としては就労や移住の相談や移住者との交流会などを組み込んでいます。そして、島ぐらし体験を通して移住された方には、最短3年以上空き家バンクを通して住居することを条件に、最大20万円までの助成資金が受けられます。これは不動産を介して移り住んだ方には提供されない、島ぐらし体験独自の取り組みです。
 定住率、島ぐらし体験での移住者の人数などは、個人情報の問題などがあって把握できないとのことでした。しかし、任意のアンケート調査を通して、2013年度は土庄町だけで20世帯29人が移住しており、その中でも20〜30代の年齢層の方が多いということでした。その理由の1つとして、子どもを自然の中で育てたいという点があります。また、小豆島だけを見ると、交通の便は他の島に比べて発達していることもあり、住みやすいという一面もあります。そして、香川県全般での働き口はかなり多い方なので、それも理由の1つと考えられます。このことから、香川県に関しては年代問わず、移住者が多いことがわかりました。
 移住するにあたって土庄町役場の企画課は、明確な目的を持って移住すること、地域に溶け込むために自治会に入ること、自治会の活用費用をしっかりと支払うこと、積極的に活動に参加し、地元の方と交流できる人、ルールを守ることができる人をお願いしていました。
 この調査で、いかに地域で移住に対する取り組みをしているかによって、移住に関心を持っていただけるか、その土地の良さを引き出すか、安心して移住できるかが分かれてしまうこと、また移住する側も移住してきてもらう側も、お互いにとっての一番良い雰囲気をつくり出すことが大切だと感じました。