本学部教員が伝えたい観光をシリーズで紹介します

 コロナ禍で世界中の観光を取り巻く環境が一変しました。観光客は急減し、観光関連産業は深刻な影響を受け、観光地の姿も大きく変わりました。いま、私たちが考えなければならないことはたくさんあります。それは決して、インバウンド一辺倒の観光を取り戻すことではありません。
 阪南大学国際観光学部は、西日本の4年制大学として初めて「観光」を冠する学科として開設された観光学のパイオニアであり、知の拠点です。そこで、コロナ禍において、各教員が授業を通して学生に何を伝えていくのか、これからの観光をどのように読み解き、捉え直すのかについて、シリーズで紹介していきます。
 第1回となる今回は、和泉大樹准教授のメッセージを紹介します。

観光振興における地域のミュージアムの可能性−ミュージアム論

国際観光学部准教授 和泉大樹

 近年、ミュージアム(博物館)を観光振興に積極的に活用しようとする機運の高まりが見られますが、このことは、2003年の小泉内閣時における観光立国懇談会をスタートに、2006年の観光立国推進基本法の成立や2008年の観光庁設置、アクションプログラムの策定・実践など、所謂、観光立国をめざす政府戦略的な一連の展開が背景にあります。
 この潮流におけるミュージアムへのまなざしは、ミュージアムを「観光者を集客する施設」として捉えていると考えられますが、私は、もう1つ、「観光振興を創造する施設」という捉え方がある、とりわけ地域のミュージアムはそうではないかと考えています。
 地域のミュージアムには、「資料の収集・保管・展示・調査研究」という目的のもとに、地域の歴史・文化などに関する実物資料や情報が集まってきます。また、学芸員と呼ばれる専門的職員は、豊富な専門知識に加えて、教育や地域へのまなざしを有しています。例えば、地域に点在する文化財などの観光資源化を思考する上で、これらのエッセンスは不可欠なものであると考えられます。そして、ミュージアムが将来の世代のためにさまざまな記憶を守り、伝える機能・役割があることを忘れてはなりません。つまり、経済振興に偏重的にならないような立場で、ときには協力的に、ときには批判的に、観光振興の創造へコミットすることが可能な施設だと評価することができます。
 今後、これまで以上に、持続可能な地域目線の「やさしい観光振興」が求められると考えられますが、「集客」だけではなく「創造」という観点からもミュージアムにスポットを照射すべきであると考えています。