目標のために突き進む大切さ

だんだん気温も上がり、過ごしやすい季節がやって参りましたね。皆さんは、長期休暇をどのようにお過ごしでしょうか。旅行にアルバイトに忙しい日々を送っていることかと思います。さて、今回の記事内容は、神戸元町にてbarをオープンし、12周年目を迎えた菅原淳さん(国際観光学科1期生・吉兼ゼミ)に、経営の極意を教わりました。「経営」というと、私たち学生からは、遠い存在として捉えてしまいますが、菅原さんのお話からは、経営者だけではなく、夢や目標がある人にとって、参考になる話を伺うことができました。いつか自分の会社・お店を作りたいと思い描く学生にも是非読んでいただきたいと思います。 (川畑亜紀)

経営につながったきっかけ

川畑:12周年、おめでとうございます。
菅原:ありがとうございます。
川畑:飲食店の経営は、1年以内でつぶれてしまう店が大半だと聞きます。
菅原:そうですね。2年前の情報ではありますが、神戸でbarとよばれるお店は、700件以上あり、競争の激しい都市です。
川畑:barを開業しようと思ったきっかけは何ですか。
菅原:学生時代から、ラジオ番組のパーソナリティーをしていたのですが、その時の出会いがきっかけです。そのときはbarの経営にこだわっていたわけではないのですが。
川畑:詳しく伺わせてください。
菅原:あるラジオパーソナリティのおかげで、僕はラジオ業界に入ることができました。その方は、見ず知らずの僕の、「ラジオDJになりたい」と書いた手紙を読み、実際に返事を返してくれて、僕の話を聞いてくださったのです。どこの誰なのかわからない僕の話を。
川畑:そのパーソナリティーのおかげであこがれていたラジオ業界に入れたのですね。
菅原:人と人とのつながりを大切にされている方で。Barのコンセプトでもある「人のあつまる空間」をつくりたいという思いは、この時が原点ですね。
川畑:はじめはbarでなくてもよかったのですね。
菅原:人が集まって、楽しめる空間を作りたかったので。僕とお客さん、お客様同士、スタッフとお客様…のように、人の輪をつくりたいと。そのための場所なら、カフェでもなんでもよいと考えていました。barを開業しようと思いはじめたのは25、6歳のころです。
川畑:なぜ、神戸でbarを開こうと?
菅原:もともと、barに足を運ぶことがすきで、神戸のbarにも通っていたのです。
実家は兵庫県加古川市で、いちばん近い都会が神戸だったので、なじみ深くて、神戸に決めました。

目標をかなえるためには計画と戦略を

川畑:準備はどのようなことからスタートしたのですか。
菅原:まずは、資金集めです。小さなbarであっても、700~800万円は最低限でも必要です。1つのお店を作るのに、1,000万円が目安とされています。
川畑:大きな額ですね。
菅原:はい。そこで、とある大手企業に転職することに。資金集めのためとはいえ、仕事は手を抜かずに勤めました。
川畑:資金集めの期間は決めていたのですか。
菅原:3年以内に、決めていた資金を貯め、退社をすると決めていました。実際は、3年間弱の会社勤めをして、28歳後半にこのbarをオープンさせました。
川畑:ということは、会社に勤めつつ、お店の準備も。
菅原:お店の準備は、平日は会社に勤め、週末にお酒の勉強を独学でおこなっていました。
よく驚かれるのですが、barで働いていた経験はないのです。
川畑:独学ですか。当時はまだインターネットも普及していないですよね。
菅原:情報を得るには、「まずは自分で試してみて、分からないところを聞く」ですね。
川畑:資金集めのために働きつつ、barに通いつつ、ですか。
菅原:はい。毎日通うことはできないので、良く行くbarのマスターに相談し、わからないことを聞くことを繰り返しました。
川畑:弟子入りはしなかったのですね。
菅原:そうですね。一般的には、barで働き、経験を積んでから独立するのですが…。
barはマスターのカラーが色濃くでるもので、そこが魅力だと思っています。だからこそ、自分独特のスタイルを前面に出したいと思って、独学に決めました。
川畑:そうなのですね。その学びの姿勢を見習わなければ。
菅原:酒屋さんにも相談しました。自分でお酒を買って、簡単なカクテルからはじめて、オリジナルのメニューを考える際にも、酒屋の店長に相談に乗っていただいていました。
いまでもその酒屋さんにはお世話になっています。

自分の思いを形にする作業は、苦労より“楽しい”

川畑:お店をオープンするに当たって、苦労はありましたか。
菅原:苦に感じることはなかったですね。0から進めるわけですから、楽しいです。
お店のオープンのためにやらなければならないことが山積みで、ひとつひとつこなしていくと、思い描いていた形がどんどん出来上がってくるので。
川畑:自分の思い描くものが現実になるわけですものね。とはいえ、私たち学生からしたら、自分で経営することに、想像できないところも多いというか。
菅原:物件が決まりさえすれば、あとはあっという間ですよ。リノベーションや、お店の告知など、するべきことをリスト化して、オープンまでの日程を逆算してスケジュールを立てるので。思っているよりもシンプルな作業です。
川畑:やることを紙に書いて、見えるようにして進めることが大事なのですね。
菅原:はい。
川畑:Coffret(コフレ)というお店のネーミングは、どのように決めたのですか。
菅原:女性になじみやすいbarにしたかったので響きの良い名前にしょうと。
川畑:お店の口コミにも書いてありましたね。女性ひとりでも、気軽に立ち寄れる雰囲気のお店だと。
菅原:気さくさが欲しかったのです。路面店ではなく2階のお店のため、見つけにくく、入りにくい。敷居の高いbarにはしたくなかったので。そこで、当時から流行っていた化粧品のクリスマスコフレから名前を得ました。コフレとは、「宝箱、宝石箱」という意味なので、人と人の出会う場所、空間を作りたかった僕のイメージにぴったりでした。
川畑:そうなのですね。たしかに店内はカウンタースペースだけではなくて、つなげれば8~10人が座れるようなテーブル席も。barに行き慣れていない私でも入りやすい印象です。
菅原:ありがとうございます。内装はこだわりましたね。
川畑:売り上げ自体は、当初から順風満帆でしたか。
菅原:いえ。僕は、ほかのBARで修行をしていたわけではないので、お客さんを持った状態でのスタートではないので、知り合いに告知をして、そこから広めてもらえるかどうか…という状態でした。
川畑:barに勤めてからの独立だったら、そこで仲良くなったお客さんに宣伝できるけど、そういうわけにもいかないのですね。
菅原:オープン前の、準備の合間をぬって、人の多い昼時に元町駅周辺でチラシを配ったりもしました。もちろん、オープンしてからも、営業時間前のお昼にチラシ配りです。
川畑:失礼かもしれませんが…。実際、チラシ配りは意味があるものなのでしょうか。
菅原:人数あつめのためのビラ配りならば、効果はあまりないです。ただ、100人配って、1人でもbarに足を運んでくれたら、その1人が常連になってくれたら、チラシ配りの効果があったといえます。
川畑:1人でもですか。
菅原:たとえば、毎日同じラーメンは食べないけど、毎日お酒を飲みに来る人はいるということ。近隣で働いている方が常連になってくれて、そのひとりが仕事仲間とともにお店に来てくれる可能性も。僕の場合は、ひとりの常連さんからお客さんの輪が広がればな、と思い、チラシを配りました。
川畑:お店の回転を重視するのか、1人のコアなファンを作るのか、その目的に合わせて目標や効果があるないの指標を変えることがコツですね。
菅原:はい。とはいえ、1年目は非常に厳しい経営でした。お客さんの数を集めるより、ひとりのお客さんにいかに満足していただけるか、を。
今でも12年間ずっとお越しいただいているお客様もいます。ありがたいことですね。

経営するからこそ、自分の方針を形にできる

菅原:音楽も好きなので、お店のBGMを考えることも楽しみのひとつです。DJブースもつくっているので知り合いのDJにきてもらい、イベントを開催したり。自分の趣味もこの空間で活かすことができます。
川畑:フェイスブックを見ていると、店内でのイベントが多いことが印象的でした。
菅原:ずっときてくれているお客様にも、新規のお客様にも、ちょっとした非日常を楽しんでもらいたいなと思い、季節ごとにイベントを開催しています。常連のお客様とその知り合いなどの小規模で。お酒を扱うイベントであっても、トラブルを起こさずに続けることができています。
川畑:お客様が過ごしやすい環境作りも仕事なのですね。お店全体としては、客層はどんな割合ですか。
菅原:オープン当初の客層は全体的に若かったですね。マスターである僕が28歳でしたので。今では、12年前より少し客層は高くなっています。しかし、若い人にも来てもらえるような店でないと、10年後、20年後に店は生き残らないので難しいところです。
川畑:お店を続けていくために、1番大事なことは何でしょうか。
菅原:1番は、来ていただいたお客様一人ひとりに向き合うことです。たとえば、その方好みのお酒の銘柄は、言われるまえに揃えておくとか。自分がbarに通っていて、嬉しかったことを覚えているので、その時と同じように心配りは気を使っています。常にお客様がどんなことに喜ばれるのか、考えていますね。
川畑:お店の開店前にもかかわらず、取材に応じていただき、ありがとうございました。

インタビュー後記

取材後オープンの時間になるとすぐ、常連の女性が来店され、平日にもかかわらず、店はすぐさま満員になり、にぎやかに。経営するということは、自分の思い描いた理想を形にできたり、理想の働き方を極めることができるなど良いことがあります。一方、何をするにも責任者は自分自身に降りかかります。菅原さんは、その良い面も悪い面も要領よくこなしている印象をもちました。だからこそ苦の作業も楽しいと思えるのでしょう。理想をかなえるためには、そのために何をするべきか、逆算をして計画を練ることが大事です。学生のみなさんも、目標や夢をどのように成し遂げるか、考えて大学生活を過ごしましょう。(川畑亜紀)