2018.2.5

国際観光学部学生広報誌「ラ・れっとる 50号」観光ガイドで話術を鍛え授業に生かす

奈良の観光に貢献する来村先生

 ラ・れっとる48号では広報部員2回生の春本莉花さんが段家誠先生に話をお聞きしましたが、国際観光学部の先生方を紹介するシリーズの第2弾として、日ごろ広報部で私たちを指導して下さっている来村多加史(きたむら たかし)先生を取材しました。来村先生は日本史や東洋史、考古学や世界遺産の授業を担当され、「仏の来村」と自称される親しみやすい講義で学生たちの人気を集め、受講生が年々増える一方です。自らおっしゃるには、その話術は25年にわたって続けてこられた観光案内で鍛えられたとか。野外でも数十人を前にして隅々まで届くボリュームのある声や飽きさせることのない説明は、すべてガイドの仕事で培われたものであると。毎週のように各方面に出かけて登壇される講演会やたびたび出演される全国ネットのテレビ番組でも、その魅力で観客や視聴者を惹きつけています。その来村先生の活躍ぶりを密着取材しようと、春本さんと2人で奈良へ出かけました。先生が10年以上にわたり指導してこられた「奈良まほろばソムリエ検定」の体験学習プログラムで10月7日(土)に春日野・高畑方面の臨地講座があり、講師を務める先生の姿を拝見しながら、ガイドのテクニックも探りました。同行取材に当たっては、講座を主催する奈良商工会議所にお許しを得て、スタッフの方々の一方ならぬ協力をいただきました。ここに記して感謝します。それでは、先生のポリシーやお人柄をインタビュー記事で綴りましょう。(大矢萌々華)

※この広報活動は、阪南大学給付奨学金制度によって運営しています。

奈良を楽しく案内する人材の育成

大矢春本:このたびは講座に同行させていただき、ありがとうございました。
来村:長い距離を歩いたけど、2人とも最後までよく頑張ったね。
大矢:先生に密着するつもりが、徐々に最後列まで後退しましたが。
来村:それは商工会の人たちも気づいていたようですよ。
大矢:お恥ずかしい。ところで、奈良検定についてお聞きしていいですか。
来村:全国で展開しているご当地検定のひとつで、「奈良まほろばソムリエ検定」と名づけました。
春本:いつごろから始まったのですか。
来村:ご当地検定は2003年に始まった「博多っ子検定」に端を発し、翌年の「京都・観光文化検定」が大当たりしたのをうけ、全国に広がりました。奈良でも「京都に負けてはならじ」ということで、2007年から始めたのです。
春本:それでは、10年ほどになるのですね。
来村:私はテキストの出版から携わっていますので、今年で12〜13年くらいのお付き合いになりますかね。
春本:検定と言えば、資格がつきものですが、奈良検定では?
来村:我々は「奈良を楽しく案内できる人材の育成」をめざしていまして、その方針は当初から全くブレていません。資格の取得と言うよりは、人間力を高めることが目的かな。
大矢:楽しく案内することが大事なのは、今日の先生のガイドぶりを見て、よくわかりました。
来村:そうなんでよ。自分のしゃべりたいことだけ延々としゃべるガイドがまだまだいっぱい。客が時間を気にしていても平気なガイドの多いこと。観光の邪魔をしているようなものです。
大矢:厳しいお言葉ですね。
来村:仏の来村も真剣に語り始めると、鬼になります。
春本:怖いですね。(笑)ところで、奈良検定の仕組みを教えていただけますか。
来村:2級、1級、ソムリエ級と3段階に分かれていて、段階を踏んで上級に進みます。
春本:2級の検定試験に合格しなければ1級を受けられず、1級に合格しなければ、ソムリエ級を受けられないということですね。
来村:その通りです。飛び級はなしです。しかも2級の合格者が次の年に1級の試験を受けるには、必ず今日のような体験学習プログラムに参加して、認定書を受け取らなければならない。
大矢:そういう仕組みはどういう意図で?
来村:奈良に来ていただきたいからです。暗記力だけを鍛えるだけでは、楽しく案内などできない。自分の目と足で奈良を味わい、まずは自分が感動することが大事。感動もしないで人を感動させることはできません。
春本:今日の講座でも、みなさん感動されていましたね。先生も同じように感動されたのですか。
来村:はい。講座を組む時には、必ずスタッフといっしょに下見をします。当日の1.5倍くらいの距離を歩き、感動できる材料を拾い集めます。ただ、感受性を豊かにしておかなければ、感動は得られません。
春本:知識は必要ないのですか。
来村:いや、たっぷりと必要です。でも、案内するときには、そのごく一部に絞るのです。現地でしか味わえない話題に絞ること。これがガイドのテクニックです。あふれるほどの知識は、何を聞かれても即答するためのもの。答えに窮したとたん、「この先生、大丈夫かな?」と疑われますから。
大矢:勉強になりますね。

コース作りはドラマ作り

春本:今日のコースで言えば、どういう所に感動のポイントを置かれましたか?
来村:まずは読者の皆さんにコースをお伝えしておきますね。近鉄奈良駅の近くにある奈良商工会議所がスタート地点でした。そこから東向商店街を歩き、不開坂(あけずのさか)から興福寺の境内へ入りましたね。そして境内を東に抜け、奈良国立博物館を通って飛火野へ。そこで祭祀遺跡を見ながら春日大社の森に入り、築地の跡を見ましたね。高畑の新薬師寺から頭塔(ずとう)や瑜伽(ゆうが)神社を経て猿沢池まで戻ってきて解散。12時半から4時まで、3時間半の行程でした。
大矢:よく覚えていらっしゃる。
来村:当たり前でしょ。ガイドの第一条件は迷わないこと。一歩でも客に無駄足は踏ませない。これは鉄則です。
春本:それで、感動のポイントは、どうなりました?
来村:ごめんね。すぐに熱くなるのが、悪い癖。ポイントは「意外な発見」です。今日のコースは奈良好きの人なら、1度や2度は歩いたことのある場所です。それでも驚きの声が多かったのは、普通に見学していては気づかないトリビアを掘り起こしたからです。
春本:そう言えば、春日大社の双塔跡のところで、ずいぶんと驚きの声があがっていましたね。
来村:あそこは正倉院展で何度も通る道ですが、塔院の門跡まで残っていることに気づくには、春日大社の歴史をよく勉強していなければならない。だから知識が必要なんです。
大矢:学生にはとても無理な話ですね。
来村:そんなことはないですよ。あなたたちも次に誰かに話すことができるでしょう。こういう勉強が一番身に付く。しかも楽しい。
大矢春本:なるほど。
来村:頭塔のところでも、かなりの方が感動されていたでしょう。あれは話術でなく、遺跡のもつ力です。
春本:日本にあんな遺跡があるなんて、びっくりしました。
来村:コースは、順番に巡ればいいというものではない。ドラマチックでなければならないのです。たとえば、頭塔を最初にもってくると、どうなります?
大矢:一番の見せ所ですから、あとが寂しくなりますね。
来村:その通り。クライマックスをどこに持ってくるかを考えてコースを作るのです。もちろん、トイレや休憩場所も考えながら。
春本:そこまで考えてコース作りをされるのですか!
来村:当たり前のようにやっています。バスツアーの場合は乗降の安全を図るため、バスが入る向きまで考える。
大矢:プロですね。
来村:さりげなく。
春本:先生のことをお聞きしようとして、ついついガイドのことばかりになりました。ご専門は考古学ということですが、その学問を目ざされたきっかけは。
来村:子どものときから穴掘りが好きで、よく家の庭に穴を掘って、母親から「家が傾くからやめて」と叱られました。
大矢:考古学の発掘調査を子どものころから?
来村:いえいえ、単なる遊びです。ただ、うちの家は空襲で焼けていまして、掘れば瓦礫が出てくる。地面の下に昔のことが埋まっているとは感じていましたね。
春本:それで大学の先生を目ざされたと?
来村:そう単純ではありませんが、中学生の2年生から3年生にあがる春休みに高松塚古墳が発掘され、飛鳥美人の壁画が発見されたことが刺激になりましたね。
大矢:壁画古墳のことは授業で習いました。
来村:発掘をされた先生に師事しようと、その先生の勤める大学に入ったのです。
春本:そのような進学の動機もあるのですね。
来村:それは昔ながらの正統な動機ですよ。大学に入ることが目的ではなく、先生を求めて進学する。本来はそうあるべきなんです。
大矢:来村先生を求めて入学してくる学生もいるのでは?
来村:厳しいところを衝くね、大矢さん。(笑)
春本:今日の参加者には、熱い視線を送っておられた方も、けっこういらっしゃいましたよ。
来村:学生たちもそうなってくれたら、いいんだけど。
大矢:私たちがいるじゃないですか。(笑)
春本:聞くべきことが多すぎて困りますが、今回はこれで記事をまとめます。
来村:宜しく。

インタビュー後記

 このたびのインタビューは異例の野外となりました。奈良まほろばソムリエ検定の体験学習は昼からでしたので、朝のうちに東大寺を案内していただき、歩きながらの取材となったのです。先生はシーズンになると、毎週のように現地案内をされるようで、その準備にも相当な時間をとられるとのことです。「ラ・れっとる」の編集にも、かなりの時間を割かれているとかで、申し訳なく思いながらも、取材の時間をとっていただきました。東大寺は修学旅行とかで行った経験しかなく、境内をしっかりと歩くのは、これが初めてです。しかも、大仏殿には入らず、周辺の遺跡を巡るだけ。そのコースからして斬新です。東大寺は奈良時代に創建された我が国最大の寺院ですので、伽藍の大きさは尋常ではありませんが、そのほとんどが遺跡となって、説明なくしては当初の規模が想像できません。それを先生は片っ端から、私たち2人のためだけに説いてゆかれました。説明をお聞きすると、無いものが見えてきます。東大寺の壮大さがわかります。ガイドとは、このような役目なのだと、改めて実感した次第です。先生が育ててこられた「奈良まほろばソムリエ」の皆さんは、奈良の魅力を発信する看板役として活躍されているとか。改めて先生のライフワークを認識した次第です。(春本莉花)