東南アジア51日間の旅

 バックパッカーとは、必要最低限の荷物を詰め込んだリュックひとつを背負い、さまざまな国を渡り歩く旅人たちのこと。ノンフィクション作家の沢木耕太郎氏が旅先での体験を生々しく描いた『深夜特急』を読み、冒険の旅に憧れた人も少なくはないでしょう。スリリングな一幕やむせるような異国の空気。都合のいい想像とはかけ離れた惨たらしい現実。小説のように、バックパックひとつで世界へ飛び出したい気持ちはあるけれど、危険な目に遭うのではと、やはり不安。一歩が踏み出せずに終わってしまう。そんな人も多いはず。国際観光学部2回生の池田剛大(いけだたかひろ)君は、その一歩を踏み出して、バックパックの旅に出ました。文字通り、リュックを背負って51日間も東南アジアをめぐり、充実した時を過ごした池田君。旅の資金は、アルバイトでためた30万円。めぐった国は、タイを皮切りに、カンボジア・マレーシア・シンガポール・フィリピン、そして台湾の6か国。宿はゲストハウスや学生寮。行き当たりばったりで探すことも多々あったとか。19歳の目で見たのは、どのような光景であったのか。インタビューでその体験談をたっぷりとお聞きしました。(春本莉花)

※この広報活動は、阪南大学給付奨学金制度によって運営しています。

不安よりも期待が大きく

春本:インタビューに応じていただき、ありがとうございます。今年の春休みに東南アジアへバックパックの旅に出られたということですが、不安はなかったのですか。
池田:そうですね、決断してから、実際に出発するまでの間には、当然不安はありました。ですが、海外に出て、自分のやるべきことや夢を探りたい、という思いが強く、決意は鈍りませんでした。英語が通用するかどうかを試してみたかったですし、「外国で友達を作りたい」という思いも強かったので。
春本:SNSが発達しているので、日本にいても、異国の文化や味覚、言葉に触れることもできますし、英語ができれば、友達も作れそうですが、それでも海外へ実際に行ってみたいと思われた。
池田:実際に異国の地を踏んで、「やはり来ないとわからない」と実感しましたね。現地の人が美味しそうに食べている映像は見ることができても、やはり本場に行かないと味わえませんし。自分以外がすべて外国人という状況も、日本ではありえません。危険な目に遭うのでは、という緊張感もそうです。
春本:安全のことは、家族の方も心配されたのでは?
池田:いや、逆に自分のほうが心配していましたね。とくに夜になると治安が悪いのでは、と。周りは意外に心配も反対もさほどしなかった。「とにかく行ってみろ」と励ましてもくれました。
春本:家族の方は寛大だったのですね。で、実際に行かれて、どうだったのですか。
池田:お金を持ってそうにない身なりで、鞄にカギをかけ、前に持って歩きました。そういうノウハウを守ったおかげか、それほど危険な目に遭うことはなかったですね。
春本:帰国されたときの感想は?
池田:「行ってよかった」との一言に尽きます。
春本:心に残るエピソードは?
池田:旅で知り合い、仲良くなった人たちのことは、忘れられません。フィリピンでは、現地の学生と意気投合し、学生寮にまで泊めてもらいました。
春本:食事もいっしょに?
池田:フィリピン名物の「バロット」には参りましたね。
春本:孵化する直前のアヒルの卵ですね。
池田:飲み下せず、吐き出してしまい、その友達と笑い合うことに。あれだけは、どうにも。(笑)
春本:他には?
池田:フランス人の女性バックパッカー2人と仲良くなり、数日間、共に旅をしました。きれいな街並みを歩いたり、3人で人生初めてのヒッチハイクにチャレンジしたり。
春本:実に楽しそう。
池田:人種や国籍、言葉が違っていても、楽しさを共有できるのだと実感しました。そういった交流が一番楽しい。思い出深いです。
春本:出会いは偶然なのですか。
池田:あまり予定を決めすぎず、自由に歩く。バックパッカーならではの出会いばかりでした。大学の先輩にばったりと出会うミラクルもありましたし。
春本:それは!本当に偶然ですね。
池田:大学の中で会うのと、外国で会うのとでは、感じが違いますね。親しい人が思いもよらぬ場所にいる。その違和感が感覚のバランスを崩すのでしょうか。面白い経験でした。

直視させられた現実

春本:楽しいことばかりではないですよね。
池田:過去の歴史が連鎖して、現代にも問題を残しています。貧困や身分の格差などを肌で感じて、ぞっとすることも。
春本:戦争の歴史ですか?
池田:カンボジアでは、ポル・ポト政権の傷跡が今でも深く刻まれたままです。
春本:傷跡とは?
池田:手足を失くした人たちをよく見かけます。厳しい労働につく若者も多いですね。悲惨な歴史や貧困の実態を感じますね。
春本:治安は?
池田:国境付近では、常につけ狙われているような感じがしましたね。セブ島のスラム街を通った時は、雰囲気が普通の街とは明らかに違いましたね、肌を刺すような視線を感じる。
春本:外国人が普通に訪れる所はどうなのですか。
池田:観光地と言われる場所も、整備は遅れています。発展途上であることを痛感します。
春本:人々にも問題が?
池田:マレーシアでは明らかな薬物中毒者を見ました。東南アジアに限った問題ではありませんが、筆舌に尽くしがたい澱んだ空気を感じることが何回もありました。街も汚れています。
春本:ガイドブックではわからない現実があるのですね。
池田:そんな中でも、笑顔の人が多いのは、非常に印象的でした。行く先々で「どこから来たの」と親しく話してくれる人もたくさんいました。モノが売れた時だけ、ものすごく笑顔になる商売人もいましたけどね。(笑)
春本:人生の修行になりますね。(笑)
池田:とにかく、「知ること」「学ぶこと」「感じること」が満載の旅でした。

交流の場を作りたい

春本:51日間の旅で、さまざまなものが見えた。ということですが、自分の考え方や進路に、影響はありましたか。
池田:大いにありました。いろいろなものを見ましたが、何よりも、喜びや楽しさを共有し合える経験ができたことが大きい。そのような交流のきっかけを振り返ると、ほとんどがゲストハウスでの出来事でした。
春本:バックパッカーたちが集まる宿ですね。
池田:ゲストハウスの運営や、宿泊客との交流、おもてなしについて学びたい。そう思うようになりました。
春本:海外で?
池田:いえいえ、旅をするには外国がいいけれど、暮らすのは住み慣れた日本がいいですね。日本がいかに暮らしやすい国であるかも実感しました。
春本:外に出てわかる故郷のよさですね。
池田:住み慣れた日本にいながら、さまざまな国の人をもてなし、素敵な旅の思い出を作る手伝いをしたい。いろいろな国の人々が交流できる環境を作りたい。ゆくゆくは自分でゲストハウスを経営してみたいですね。今回の旅で出会った人たちを招待することができれば最高ですね。
春本:素敵な目標ができましたね。今後行きたい国はありますか。
池田:アジアはぜひまた旅をしたいですね。ヨーロッパ圏の人との交流で、ヨーロッパにも行ってみたいと思うようになりましたが。
春本:やりたいことが、ますます増えた感じですね。私も勇気をもって一歩踏み出そう、という気にさせてもらえます。外国の文化や歴史もそうですが、生まれ育った日本のことも、大学生であるうちに深く学びたいですね。
池田:そうですね。私は松村嘉久先生のゼミを選択しました。フィールドワークを重んじる松村先生のもとで、おもてなしや観光のノウハウを学び、自分の夢を叶えたいと思います。
春本:ぜひ!頑張ってください。貴重なお話しを聴かせていただき、ありがとうございました。
池田:こちらこそ。