2017.8.17

国際観光学部学生広報誌「ラ・れっとる 39号」絆を大切にして旅館で働くOG岡村さん

観光都市奈良の旅館で活躍する卒業生

 阪南大学に国際観光学科が創設されたのが1997年。今からちょうど20年前のことです。2010年からは国際観光学部に昇格し、ますます充実した教育体制を整え、旅行代理店や航空会社をはじめ、さまざまな業界で活躍する卒業生を送り出しています。このたびは、2015年に国際観光学部を卒業し、ご実家の旅館「青葉茶屋」で働く岡村綾佳(おかむらあやか)さんを取材しました。青葉茶屋は奈良公園の一等地にあり、鹿たちに囲まれた環境の中で、実に落ち着いた雰囲気を放つ老舗旅館です。岡村さんが旅館で働くに至った経緯やお仕事の内容をお聞きし、「宿泊業界で働きたい」と考える学生には興味深い情報をお届けします。
 同学年の広報部員である川畑亜紀(かわばたあき)さんと青葉茶屋を訪れ、岡村さんに密着取材しました。卒業生の先輩が頑張っている姿を見て、2人とも大きな勇気をいただきました。インタビューでお聞きしたことを交互に綴り、皆さまにも勇気を感じていただきましょう。(湯栗未名実)

※この広報活動は、阪南大学給付奨学金制度によって運営しています。

育った環境と進学の意義は別物

湯栗:いきなりですが、阪南大学への入学を決められたのは、ご実家が旅館であることに関係が?
岡村:そうですね。ここで両親が働いている姿を見て育ったので、観光業はとても身近なものでした。家には常に他人であるお客様がいらっしゃる。そういう状態が当たり前でしたので。
湯栗:普通の家で暮らしてきた私には、とても想像ができません。
岡村:自分の部屋で寝ていても、お客さんが間違えて戸を開けられることがあり、寝顔を見られてしまったことも(笑)。でも、おかげさまで、他人と関わることに抵抗はなく、「将来は人と関わる仕事や観光業界の仕事に就きたい」という思いが、自然と芽生えていましたね。
湯栗:だから、国際観光学部を選ばれたのですね。
岡村:はい。でも、「観光業界で働きたい」と思うだけなら、大学に行く必要もありません。「観光学の基礎をしっかり学びたい」という思いもあったのでしょう。せっかく大学に入るのなら、「広く学ぶための4年間にしよう」と決めていました。そこで観光学科や観光学部のある大学を探し、阪南大学のオープンキャンパスに伺ったのです。そのときに「ここだ」と思いましたね。
湯栗:「ここだ」と思われたポイントは?
岡村:先生や先輩との距離が近いことですね。大学の先生と聞けば、「気軽に話しかけてはいけない存在」であると思っていましたので、国際観光学部の先生方を見て、驚きましたね。距離が近ければ、たくさんの関わりを持てるだろう、たくさんのことを学べるだろうと思い、この学部を選びました。
湯栗:確かに。私も高校生のとき、オープンキャンパスで国際観光学部のアットホームな雰囲気に魅力を感じたひとりです。で、実際に入学されて、どうでしたか?
岡村:最高でしたね。大学は、高校までとは違い、自分から動かないと、誰も気に留めてくれないし、何も学ぶことはできません。AO入試※で入ったこともあり、さまざまな活動の機会をたくさんいただけたので、できるだけ参加しましたね。おかげで、充実した大学生活を送ることができました。

※阪南大学のAO入試は、志望する学部・学科の求める人物像との適合性、自らを成長させ続ける意欲、高校生活で得た経験や、経験に基づいた将来の夢やビジョンについて、大学が一人ひとりの学生と十分な時間をかけて対話し、評価・選抜する入試です。

活動すれば、就活も恐れる必要なし

川畑:学生時代にさまざまな活動に参加されたとのことですが、具体的には?
岡村:オープンキャンパスのスタッフ、学生委員会(現学部学生会)、大谷ゼミの船旅推進活動、さらに、私が所属していた森重ゼミの活動などなど、思い出をたどると、本当にいろんな先生方や仲間たちと関わったものです。
川畑:私も学生委員会に所属していました。湯栗さんもオープンキャンパスのスタッフを務めました。岡村先輩とはちょうど入れ違いだったのですね。南キャンパスで意欲的に活動していると、他の学生と経験を共有できますね。それも学部の魅力ですよね。
岡村:そうですね。学生委員会では、リーダーの補佐をやっていました。当時のリーダーは経理も得意で、ほかのメンバーへの指示も上手。仲の良い友人であっても、間違っている時には、ちゃんと叱れる人でした。だから私は、リーダーを補佐する役目に回りました。リーダーの近くで動き回り、自分にできる事を見つけたら、なんでも積極的にお手伝いをしていましたね。
川畑:自ら進んで、できることを探す姿勢。それが一番難しいことですね。見習わなければ。大学時代の活動を通じて、得られたものは何ですか?
岡村:そうですね、こればっかりは目に見えないものだから、言葉で表現するのが難しい。きっと得られたものはたくさんあるし、活動してきて無駄なことなんて、ひとつもないはず。積極的に挑戦したからこそ、築けた人間関係はあります。たくさんの活動に参加して、目に見えた成果は、就職活動のネタに困らなかったことかな。
川畑:目下、就職活動中ですので、その話はとてもよくわかります。学部の活動に参加していたら、就職活動で語るエピソードに困ることはないですよね。
岡村:自信を持って面接に臨めましたね。面接では、学生時代に頑張ったことを必ず聞かれるでしょう。「質問されたら困る」という仲間もいたけれど、私はむしろ「話したいことが山ほどあるので、どんどん聞いてくださいよ」と思っていたくらいです。
川畑:なんと心強い言葉でしょう。就職活動を乗り切るためには、用紙に書き切れないほどのエピソードをいかにつくるか、ということが大事ですね。
岡村:そうした経験を積むチャンスをたくさん拾える場所が大学なのでしょうね。おふたりも学生生活に全力で取り組まれているようで。こうしてわざわざ取材にまで来られる。そういう姿勢は、見ていても気持ちがよく、応援したくなりますね。
川畑湯栗:ありがとうございます。なんだか照れますね。

旅館に生まれ、旅館で変わった人生

湯栗:現在、ご実家の旅館で働いていらっしゃるのですね。それは幼いころから決めていたことですか。
岡村:実は、卒業後は別の仕事に就こうと決めていました。人と触れ合うことが好きで、学生時代は甲子園の売り子のバイトを4年間続けました。就職活動では、大学から旅行会社への推薦をいただき、そのまま就職しました。
湯栗:旅館で働こうと思っていたのではないと。
岡村:そのつもりは、まったくありませんでした。
湯栗:それがなぜ、ご実家で働くことになったのですか。
岡村:仕事中の、ある出来事がきっかけです。入社したてのころは、業務が把握できなかったり、要領よく複数の仕事を同時に進められなかったりと、毎日が挫折の連続でした。営業先の関係で、平日は営業、土曜・日曜日は添乗と、とにかく多忙な日々でしたね。
湯栗:お聞きしていると、こちらの気持ちまで慌ただしくなりますね。
岡村:はい。添乗の時は、お客様を第一に考え、スケジュールにミスがあってはならないと、ずっと精神を張り詰めています。休憩もあるのですが、うまく休むこともできません。クタクタになって宿に着くと、ある女将さんが添乗員の私に向かって、「ここからは私らに任してくれて大丈夫。あんたも疲れたやろ。宿にいるうちは、ゆっくり休んどき」と言ってくださった。そのときの私には、この一言が本当にありがたかった。スーッと肩の力が抜けました。「旅館って、こんなにも暖かさの感じられる場所なのだ」と、改めて気づきましたね。
湯栗:子どものころから目にしてきたはずの旅館の魅力が、離れて初めてわかった。ということですね。
岡村:心も身体も休める雰囲気づくりをしてお客さんを迎え、ひとところに構えて見どころをお勧めするほうが、自分の性格や考え方に合っている。そのことに気づき、旅館で働こうと決めました。
湯栗:旅行会社での経験があったからこそ、その答えを導き出せたのですね。
岡村:とはいえ、ずいぶん迷いましたよ。入社して、たった1年目で辞め、実家の旅館で働くのは「逃げ」ではないかと、誰よりも私自身が強く感じました。でも、実家で働くメリットもたくさんあります。考えた末、「逃げ」ではなく、「チャンス」だと思え、という声が聞こえたような気がしました。
湯栗:メリットとは?
岡村:旅館を運営しているのは、両親と幼い頃から知っているスタッフです。なので、旅館を良くするためのアイディアを伝え、それを実現させていただきやすい環境にあります。実家で働くことが「チャンス」であるのは、自分で決めたことを実践できる点でしょうか。そのうち周りから何を言われても、気にならなくなりました。
湯栗:いまさらですが、旅館では、どんなお仕事をされているのですか。
岡村:基本的には接客です。父が料理長で、母は女将(おかみ)。さらに、昔からの従業員さん数名で運営しています。早朝に出勤して、お客様の朝食の準備とおふとんの片付け、チェックアウトされたら大掃除、次のお客様のチェックインの時間が15時からですので、お出迎えの準備もします。到着されたら、夕食の用意と、お風呂のご案内、お布団を敷いて、という流れです。また、宴会のみのご予約も受け付けているので、宴会の接客も間に入ってきます。
湯栗:休む暇がない感じですね。どれも大切な仕事だと思いますが、中でも岡村さんが大切にしていることは何でしょうか。
岡村:大切にしているのは、お客様と過ごす時間です。宿泊中のお客様に関しては部屋食なので、朝食と夕食のお時間は、お客様のお部屋にお邪魔させてもらいます。旅館で過ごす時間がお客様の楽しみのひとつでしょうから、我々スタッフの雰囲気作りがとても大切だと思っています。
湯栗:どのような接客を心掛けているのですか。
岡村:信頼される人になりたいと思っています。熟年夫婦のお客様には、私のような新人に対し、「若いのに頑張っているね」と、ねぎらってくださる方が多いですね。もちろん、ありがたいことなのですが、女将である母には、相談事をもちかけるお客様がいます。言葉数が少ないお客様でも、母の前では会話を楽しまれている。母はお客様の心を引き出すのがとても上手く、尊敬しています。面と向かっては、恥ずかしくて言えませんが。

困難でもやりがいのある旅館カフェ

川畑:旅館で働いていて、新たに挑戦したいことがあるのでは?
岡村:新たなお客様に旅館を知ってもらうきっかけを増やしたいですね。例えば、これはお盆の時期に出しているカフェメニューです。お盆の時期は、帰省される方が多くて、予約に空きが出ます。その時期に、旅館の宴会スペースを利用してカフェをやっているのです。
川畑:カフェですか?「旅館」と聞けば、私たち学生には高級な印象があり、手が届きそうにありませんが、「カフェ」と言われると、なにか親しみを感じますね。
岡村:この旅館は奈良公園内にあって、立地条件は抜群です。隠れ家的な格式の高い存在であったのですが、時代に応じて変えていく必要があることは、母も私も感じています。そこで、夏休みや連休中に、奈良公園の観光に来られた方にも、気軽に訪れることができるよう、カフェを始めたのです。
川畑:そうだったのですね。旅館を運営しながら、カフェも始めるのは大変ではありませんか?
岡村:軽食とはいえ、父ひとりが調理しますので、それだけで大変です。出来立ての一番おいしい瞬間を味わってもらいたい、という父のこだわりは、カフェであっても変わりません。老舗旅館でカフェを始めることに違和感を示される人もいますし、容易なことではありません。
川畑:そのようななか、カフェを続けてこられたのですね。効果はどうですか。
岡村:期待通り、新たなお客さんが増えました。散歩がてらカフェに立ち寄られたご家族は、幼稚園児の娘さんが、うちの葛餅(くずもち)をずいぶんと気に入って下さり、先日など、親戚の集まりだということで、宴会場を利用して下さいました。こういう新たな絆ができると、嬉しいですね。
川畑:メニューを見ると、お年寄りから若者まで、さまざまな年齢層が楽しめるメニューが並んでいますね。岡村さんのお勧めは?
岡村:チーズケーキです。実はスタッフの手づくりで、出してみたら評判が上々でした。毎年お願いしているのですが、あれこれと工夫をされているのでしょう、年々レベルが高くなっています。うちのチーズケーキを食べたら、他では食べられなくなるくらい美味しいのですよ。
川畑:それは、ぜひ食べてみたい!
岡村:お盆に開かれる燈花会の時でしたら、旅館も閑散日になるので、その期間を利用して縁日メニューも用意しています。夏休みにぜひ遊びに来てください。
川畑湯栗:うかがいます。ありがとうございました。

インタビュー後記

 私たちの記事が2017年度の「ラ・れっとる」の本誌第1号となります。私自身も広報部員として初めて取材を経験しました。その初っ端が卒業生の先輩を訪問してのインタビューになりましたので、緊張は高まる一方。しかし、「綾姉さん」こと岡村綾佳先輩の笑顔で、私の緊張はすぐにほぐれました。すでに旅館の若女将としての自覚をもたれているためか、訪問者をリラックスさせる雰囲気を出されています。学年でいうと、私たちが新入生の時、岡村さんは4回生でした。1年間だけの接点ですが、共通の知り合いが多く、終始笑いの絶えない取材となりました。岡村さんはこう言って下さいました。「取材の話が来たときは、本当にうれしかった。卒業した今でも、こうして後輩たちが話を聞きに来てくれる。頑張る糧になります」と。この言葉はこの先ずっと心に残るでしょう。ひとりで頑張るのは当たり前のことですが、いつまでも孤軍奮闘では疲れます。見てくれている人がいる、と思うだけで、また明日から頑張ろうというファイトが生まれるのではないでしょうか。それにしても迷いのない岡村さんは素敵です。こんな素晴らしい先輩が社会に出て頑張っておられるのだ、と思うと、国際観光学部で学んでいる自分まで誇らしくなります。学外に飛び出せば、きっと誇りにできる先輩に出会えるものと思いますよ。(川畑亜紀)