2017.3.21

国際観光学部学生広報誌「ラ・れっとる 第30号」文化を伝える 博物館学芸員をめざして

国際観光学部学生広報誌「ラ・れっとる 第30号」文化を伝える 博物館学芸員をめざして

博物館学芸員課程とは

 阪南大学の資格コースに「博物館学芸員課程」があります。学芸員とは、文化的な作品や資料のもつ本当の価値を、美術館や博物館といった場所で、たくさんの人々に伝える専門職員です。学芸員になるには国家資格が必要で、大学で学芸員課程のさまざまな科目を修めることが義務づけられています。その課程が本学にも設けられていることをご存知でしたか?
 近年、「ひと」「もの」「情報」が地球上をゆきかい、欲しいものが手に入れやすくなり、私たちの生活は便利になりました。その一方で、世界には特定の価値観が人々を支配し、社会や文化に強い影響をおよぼしている国家や地域もあります。それが人々の生活環境を激変させている事態もよく報道されます。グローバル化は人類の未来を切り拓く一方、地域や民族のあいだの緊張や対立、経済や情報の格差を生み出し、文化や宗教のちがいによる摩擦や葛藤を激しくさせています。それらの問題に向き合うには、人類のあるべき姿を見極める力、正しいと思えることを広げてゆく人間力を養わねばなりません。文化や歴史を学ぶことは、そういう力を養う訓練なのです。博物館学芸員課程は真の文化人を育てる学びの場でもあります。大切な役割を担う講義を担当して下さっている笠井敏光先生と、国際観光学部の3回生で、学芸員資格をめざしている芦田希新君と浦川大輝君にインタビューを行ないました。以下、広報部員の松田祥佳さんと町野早彩さんが記事を綴ります。(安村莉緒)

※この広報活動は、阪南大学給付奨学金制度によって運営しています。

観光学にも役立つ博物館学の授業

 インタビューをさせていただいたのは、大阪国際大学の国際観光学科で教鞭をとっておられる笠井敏光教授です。阪南大学でも博物館課程の授業を担当して下さっています。実は私も先生の講義を受けています。さまざまなエピソードや現場の生の声を伝えて下さるので、毎週、興味深く拝聴しています。このたびは改めて先生にお話しをうかがいました。

松田:恐縮ですが、先生がこれまで歩んでこられた道をお教えいただけましたら…。
笠井:羽曳野市の市役所に27年間勤めたあと、民間企業の指定管理者として働いていました。それで、4年前、大学の教師にならないかと誘われ、今の大阪国際大学で勤務することになったのです。
松田:初めから大学の先生だったのではなく、長年、一般社会で活躍して来られたのですね。阪南大学には非常勤講師としてお越しいただいていますが、そのきっかけは?
笠井:もともと私は考古学が専門でして、博物館の知識はそれほどなかったのですが、大東市歴史民俗博物館の館長となって、博物館のマネジメントに苦労をしているおり、阪南大学から博物館学芸員課程の講義依頼があって来ました。それで今に至っているということです。
松田:私も「博物館経営論」で先生にお世話になっていますが、先生が授業をされる時に、特に気をつけていらっしゃることは?
笠井:毎回の授業で、必ずこの話は入れようと決めて臨んでいます。あなたもご存知でしょうが、授業の最後に要約と感想を書いてもらっていますね。学生たちの感想を見比べて、共通したキーワードや内容が書かれているかどうかを調べます。その度合いで授業の自己評価をするのです。
松田:受講していて心に残るお話が多いのには、そういうご苦労があったのですね。感謝します。

松田:博物館経営の授業ですので、博物館の運営に関わるお話が多いのですが、先生がこれまでご覧になった数多くの博物館や資料館で、「これはうまく運営しているな」という所があれば、教えて下さい。
笠井:それははっきりしていまして、私のなかでのダントツの一番は、滋賀県立琵琶湖博物館です。併設されている図書館に学芸員が常駐しているので、来館者との交流の場になっています。また、市民が実際に調査できる企画も多く出されています。自由な学びができるため、訪れる人の年齢層も広いですね。博物館学芸員課程を履修している全国の学生たちには、ぜひ訪れていただきたい博物館です。
松田:学芸員と気軽に交流することで、知識がより深まるわけですね。美術館や博物館と聞けば、静かに展示物を見るだけのイメージがありますが、それだけでは知識のキャッチボールができませんよね。私もぜひ琵琶湖博物館に行ってみます。
笠井:自分で考え、主体的に学ぶために、どんどん博物館を活用してほしいですね。博物館を堅苦しく考えず、阪南大学の学生たちにも、ぜひ博物館学芸員課程の授業を受けてほしい。そう願っています。
松田:そのことなんですが、ほとんどの学生は学芸員課程のことを知らないと思いますので、ここでご紹介いただけましたら…。
笠井:学芸員に「なる」「ならない」は別として、国際観光学部の学生には、とても役立つと思います。博物館学芸員課程には実際的な知識と能力を磨く科目が多く、プレゼンテーションや展示の方法、作文の能力、観察眼など、総合的な力が身に付きます。観光の世界でも必要な能力でしょうから、役に立つことは多いはずです。
松田:私は1回生のときから博物館の講義を受けているのですが、一番の成長はモノを見る視野の幅が広がったことかなと、自分では思っています。最後に、博物館や観光学に興味のある学生にメッセージをお願いします。
笠井:私の授業をはじめ、博物館学の授業では、机の上だけの勉強だけではなく、学生がしっかりと考え、自分を知ってもらう実践教育を大事にしています。博物館には美術館も含まれ、子どものころから親しんだ動物園や水族館も、実は博物館なのです。博物館と聞けば、お堅いイメージがあるのは、日本の博物館に遊びの部分が不足しているからです。これからの博物館を一緒に考えていきませんか?受講をお待ちしています。
松田:心強いメッセージ、ありがとうございました。

 今回のインタビューを通して、先生の授業のことがより深くわかったことは、収穫でした。笠井先生は授業中もそれ以外の時間にも、気さくに接して下さいます。学生のレベルに合わせて授業を進めて下さいますので、博物館を難しい施設だと思っている学生にも、きっと興味を持ってもらえるでしょう。知らなかった人、迷っている人は、ぜひ履修してみて下さい。(松田祥佳)

見学実習で各地の博物館へ

 博物館学芸員課程にチャレンジしている国際観光学部3回生のお二人にコースを選択したきっかけや授業内容についてお聞きしました。芦田希新君(写真右)と浦川大輝君(写真左)です。お二人とも夏に実際の博物館で実習を受けられたようです。その成果もお聞きしますので、ご期待下さい。(町野早彩)

町野:よろしくお願いします。それではまず、お二人が博物館学芸員課程の授業をとった理由を教えて下さい。
浦川:入学時のガイダンスでこの過程の説明を聞き、興味を持ったからです。
芦田:私は子どものころから動物が好きで、動物園や水族館によく行きましたが、それらも博物館であると聞き、惹かれました。また、資格も欲しいですし。
町野:資格ですか?
芦田:はい、博物館学芸員という資格で、国家資格なんです。
浦川:課程を修めて、必要な単位を取得できれば、卒業するときに資格をいただけるとのことです。
町野:講義はお二人の想像通りでしたか。
浦川:博物館学の授業と聞くと、実習ばかりだと思っていたのですが、基礎は教室での講義で学びます。基礎が終わると、実際の博物館を見学することが多くなり、この夏には羽曳野市にある陵南の森歴史資料室で博物館実習を受けました。
芦田:想像していた内容より面白かったですね。私個人は博物館で展示されるような遺物の発掘もしてみたいのですが…。
町野:発掘も実習に含まれるのですか。
芦田:いえいえ、発掘は考古学の専門的な知識や技術が必要ですので、そちらはまた別の話になります。
町野:なるほど、遺跡を発掘するには、別の訓練が必要だということですね。
芦田:そのようです。でも、発掘で出土した遺物は触らせていただきました。
町野:授業を受けてこられて、楽しかった経験はありますか。
浦川:学外での見学が楽しかったですね。
町野:それはどのような所に?
浦川:見学実習では、毎回違った博物館へ行きます。
芦田:東京国立博物館など、東京の博物館や美術館も予定に入っています。東博は日本の代表的な博物館ですので、一度は見学する必要があるということです。楽しみです。
町野:見学実習のなかで印象的だった博物館は?
浦川:豊中市の服部緑地にある日本民家集落博物館ですね。
芦田:私も同じです。
町野:どういったところが印象的だったのですか。
芦田:南は奄美大島の高倉、北は岩手県南部の曲家まで、各地方の特色ある民家を野外に展示しているのです。雪の多い北国に建てられた急斜面の萱葺き屋根は印象深かったですね。
浦川:合掌造りで有名な飛騨白川の養蚕農家では、屋根裏部屋で蚕を飼育している場面も展示され、建物だけでなく、暮らしまでもがよくわかります。

羽曳野市での博物館実習

町野:夏休み中に博物館実習があるのですね。具体的には、どのようなことを?
浦川:実習は5日間あり、前半と後半で違った実習を受けました。前半は近鉄高鷲駅から歩いて行ける羽曳野市立陵南の森歴史資料室での展示実習でした。市内にある峯ヶ塚古墳で平成27年3月に行なわれた第14次発掘調査の成果を展示させていただきました。
町野:実際に展示をされたのですね。難しいことも多かったのでは?
芦田:パネルや出土品をどのように展示するかを先に考えないといけません。展示スペースをメジャーで測ってサイズを確認し、全体のレイアウトを考えます。展示作業に入ってからの変更は難しいので、準備に時間をかけました。
浦川:出土品は大切なものですので、丁寧に、慎重に取り扱わなければいけません。考古学の知識に乏しいので、どの遺物をどのように展示すればよいのかがわからず、アドバイスを受けながら、試行錯誤して進めましたね。
町野:大変そうですが、みごとに展示を終えられたのですね。素晴らしい。それで、後半の実習は?
芦田:羽曳野市と藤井寺市にまたがる古市古墳群を見学しました。世界文化遺産への登録をめざしているのですが、なかなか古墳に関心をもってくれる人が増えません。それをどう改善するか。実際に古墳群を歩き、提案をすることが実習内容でした。
町野:古墳群を歩いてみてどうでしたか?
芦田:歴史的価値がわかる人にとって、古墳はとても興味深い遺産であると思うのですが、幼い子どもなど、古墳のことそのものを知らない人が面白いと感じてくれるとは思えません。ただの森と思うでしょう。それぞれの古墳に説明板は立てられているのですが、古墳とはどういうものかを伝える工夫が不足していると感じました。
町野:何か案は出ましたか。
芦田:ブック・メイク・ラリーを提案しました。スタンプラリーに似ていますが、ページを1枚1枚集めて、最後に1冊の本にする企画です。
町野:面白そうですね。で、実際に採用されたのですか。
芦田:パワーポイントで発表して実習を終えましたが、実施されるかも知れませんよ。もしかしたらの話ですが(笑)。
町野:実習を通して、どのようなことが身についたと思いますか。
芦田:展示することは、何をどのように見せるか、ということですので、例えばアパレル産業のディスプレイにも通じます。色々と応用できそうなスキルを学ぶきっかけになったと思います。
町野:ありがとうございました。東京での博物館めぐりも楽しみですね。また感想をお聞かせ下さい。

インタビュー後記

 博物館学芸員課程は、国家資格である博物館学芸員資格の取得をめざす場である一方、展示という、さまざまなことに応用できる技術を鍛える場であることがわかりました。羽曳野市での博物館実習において、お二人が展示の方法を学び、歴史や文化を学び、そして、人前でのプレゼンテーションを体験されたこと、笠井先生が実際にたずさわった博物館運営のノウハウを授業に生かされていること、一般の学生には馴染みの薄い博物館学芸員課程の授業が、多方面から生きた情報に触れさせ、総合的な人間力を養う場であることなどを知りました。受講した学生たちが手ごたえを感じていることも、インタビューを通じて確認できました。松田さんと共に笠井先生のお話を伺っていて感じたのは、経験の重さです。長年苦労をされ、壁を乗り越え、新たな分野を開拓されてきた先生の言葉は、私たち学生の心にも深く入ってきます。先生も若い学生たちに経験と知識を伝えることに、やりがいを感じておられます。インタビューでお聞きした先生の経験談は、どれだけ価値のあることをするかによって、人生の充実感が違ってくるのだと、私たちに教えてくれるものでした。博物館学芸員の授業内容はもちろん、生き方の姿勢まで学ばせていただいた取材でした。感謝します。(安村莉緒)