文:池田梨紗子 撮影:服部美雪

 今回は阪南大学の地元・河内天美でパン屋「Bon Bon」を営む、商学部経営情報学科(経営情報学部の前身)卒業生の山下桂司さんにお話を伺いました。

パン屋の見習いから出発

——:製パン業は就職活動中から志望されていたのですか?
山下:在学中は、阪神淡路大震災の時の消防士の格好良さに憧れて消防士を目指していましたが、断念し、卒業後は就職をせず半年間ホテルでアルバイトをやっていました。
担当教員注:山下さんは就職氷河期世代です。
そんな時にパン屋さんの求人のチラシが目にとまり、応募しました。
——:開業されるまでの経歴を教えてください。
山下:パン屋の見習いを始めたのが23歳の頃でした。このパン屋さんはスーパーの中にあるテナントのパン屋さんで、4年程働いていました。そこからいくつかのパン屋で勤務した後、35歳の頃に自分のお店を開業しました。
——:なぜ勤め先を変えていかれたのですか?
山下:同じパン屋でもお店によって製パンの技術が違うからです。店毎に様々な配合がありますし、材料も違います。

店は病院の裏口に

——:次は開業準備に関する質問をさせていただきたいと思います。
「Bon Bon」は人通りが多くない道に面していますが、物件を選ぶ際に重要視したことはなんですか?
山下:家賃です。もう一つの理由は、病院(松原徳州会病院)の近くだからです。病院関係の方は正面玄関付近にある店は行きづらいと聞いたので、お店を病院の裏口に配置しました。実際、よく病院関係の方がパンを買いに来られます。
——:開業までの準備で何が1番大変でしたか?
山下:金銭面です。
——:開業するにあたってどのくらいの資金が必要でしたか?
山下:1500万円程でした。パン屋さんは機械を使うことが多く、値段も高額なので殆どを中古品で購入しました。新品で買ったものはオーブンとパイローラーとミキサーです。機械だけで500万円程かかりました。
——:中古品でもかなりお金がかかっていますね!
山下:自己資金は150万円程で、残りは実家を担保に入れて国民金融公庫からお金を借りるなどして、大半は親から借りています。
——:お店作りでこだわったところがあれば教えてください。
山下:内装にはこだわっています。例えばパンを置く棚ですが、外壁にも使えるような丈夫で水に強い木材を使っています。棚の色は様々なパン屋さんを見に行き、パンが映える色を研究し、パンが1番映える濃茶色にしています。照明は商品に近い程、美味しく見えると聞いたので、パンとの距離を大切にしています。色に関しては蛍光灯のような青白いものより、電球色の方がより美味しそうに見えるのでLED電球の電球色を使っています。

高級パン屋を開業して失敗し閉店 大衆店として再出発

——:どのような経緯で開業されたのですか?
山下:実は「Bon Bon」を開業する3・4年程前に、この場所で別の店名でパン屋を開いていました。最初のお店は大阪の本町にあるような創作的なパンを売る店だったのですが、自身の技術力不足と売価が高かったため販売に苦慮しました。そんなときに、脳腫瘍を患い倒れてしまって、1年程仕事ができず、店を一旦畳むことにしました。
——:ええ!1度お店をたたまれているのですか?
山下:そうです。その後、義理の妹から、地元に100円均一でパンを売っているお店があると聞き、今のパン屋を再開することに決めました。元々のお店をリニューアルして、現在のお店の「Bon Bon」があります。リニューアルから既に10年近くになります。
——:パン屋の開業にあたって経営の面ではどのようなことを勉強されましたか?
山下:勉強をしていなかったので経営では苦労しています。
——:経理はご自分でされているのですか?
山下:いえ、税理士さんにお願いしています。
——:お店を経営する中で苦労していることはなんですか?
山下:スタッフの育成です。人を使うという点でスタッフに上手く動いてもらうのが難しいです。
——:コロナ禍で様々な業界が影響を受けていますが、「BonBon」にもなにか影響はありましたか?
山下:客足が少し減りましたが、あまり大きな影響はありません。

朝4時に出勤

——:朝は何時にご出勤されているのですか?
山下:朝4時に出勤しています。
——:朝4時ですか!パン屋さんの朝は早いですね。1日のお仕事の流れを教えてください。
山下:まずはパンの成形をします。パンが焼き上がったら商品を決めた場所に並べていきます。お昼からは発注やミキサーを洗ったり、店内の掃除をしたりします。
——:こだわっているところはありますか?
山下:素材の持つ特徴を活かすパン作りをするようにしています。
——:何か工夫されていることはありますか?
山下:翌日食べても美味しく食べられるように心掛けています。生地を冷蔵から「もどす」という作業をしています。冷蔵していた生地を常温に戻すことで焼いたときにふわふわ感が長持ちします。
——:「BonBon」のパンは食べた後に重たくないなと感じました!

簿記を取っていればよかった

——:次に学生時代に関する質問をさせていただきます。
阪南大学を志望された理由を教えてください。
山下:高校の時の熱心な先生が阪南大学の経営情報学科を薦めてくれたので志望しました。
——:入試区分を教えてください。
山下:阪南大学高校特別推薦です。
——:大学で履修して良かったなと思う科目はありますか?
山下:一般教養の哲学です。
——:お店の今後の目標を教えてください。
山下:店で作っているパンをすぐ提供できるベーカリーカフェを近辺に作りたいです。お惣菜パンなど焼きたての方が美味しいパンもあるので、それらを提供したいです。
——:これから起業しようと考えている学生に向けてなにか一言お願いします。
山下:大学時代、簿記を取っていればよかったなと思います。

取材を終えて

 山下さん、お忙しい中お時間をお取りいただきありがとうございました。今回、取材を行うにあたって何度か「Bon Bon」を尋ねさせていただいたのですが、いつも店内は地元の方や阪南大生で賑わっていて、スタッフの方の挨拶が元気に飛び交う明るい雰囲気でした。私も実際にパンを購入したのですが、「Bon Bon」のパンはどれもふわふわで味もしっかりしていてとても美味しかったです。取材を通してより一層パンへの強いこだわりを感じ、何か物事に挑戦するには相応の熱量が必要なのだなと思いました。今回初めてとなる出張取材だったのでドキドキしていましたが楽しかったです。山下さん、お忙しい中お時間をお取りいただき本当にありがとうございました。
池田梨紗子

 
 Bon Bonは普段からよく利用させて頂いておりました。どのパンも美味しく、種類がたくさんあるので毎回迷いつつ、大学の楽しみの一つでもありました。取材したときにあったスコーン(記事内最後の写真)はジャムの酸味と生地の甘みがほどよく大きさも小さすぎることなく食べやすくてお気に入りです。パンを美味しそうに見せる工夫など、普段から利用させて頂いているお店の貴重なお話が聞けてとても新鮮でした。
 最後になりましたが、この度はお忙しい中ありがとうございました。これからも美味しいパンを楽しみにしております。
服部 美雪
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