日本には世界に例を見ないほど老舗の中小企業や店舗が数多く存在しています。それらの中には、代々の家業を受け継ぎ、小規模ながら確固とした地位と信頼を築いているところや、時代に合わせて事業内容を変化させつつ何世代にもわたって継続させているところなど、特色ある店舗・企業が数多くあります。
 他方、少子高齢化の進展に伴って、後継者不足の問題が深刻化しています。今や、次の世代に事業を引き継ぐことは決して簡単なことではなくなりました。
 そこで、中小規模の企業や店舗の事業を承継し、何世代にもわたって安定的な経営を続けるための“後継者養成講座”として、2017年度に新設されたのが「事業承継論」です。

 この授業では、自らが後継者となることを想定してグループでケーススタディに取り組んだり、実際に事業を承継した経営者や近い将来後継者に事業を承継させることを計画している経営者等を講師として招いて特別授業を実施したり、親族が経営している事業を分析して課題解決策を立案し、発表会を実施するなど、様々な取り組みを行っています。それらを通して、事業承継のための実践的な知識とスキルの修得を目指します。

江戸寛政時代より続く
「橋本儀兵衛」の八代目 橋本隆志 氏による特別授業

 今回は、江戸寛政時代より続く橋本儀兵衛の八代目である、株式会社八代目儀兵衛の代表取締役社長 橋本隆志 氏による特別授業に参加した受講生の“声”や、橋本社長のコメントなどを紹介します。
 橋本隆志社長は、先代より受け継がれたお米を選び抜く技と味覚を元に、産地や銘柄だけでお米を選ぶのではなく、毎年自ら全国のお米を厳選吟味し、その年その季節に合わせて「美味しい」と感じられるお米を提供し続けていらっしゃいます。

受講生の“声”

経営情報学部4年生 ロカ バルガス クリスティアン 
 ~親から受け継ぐ中古車販売の貿易事業に生かします~

 私は今回の特別授業で、①こだわりを持つ、②「差」を理解する、③本質をぶらさない、の3つを学びました。そして、この3つすべてを、私が継ぐ会社の経営に生かしたいです。私が継ぐ会社の事業は「中古車販売業」で、貿易を行っています。ライバル会社が急激に増えてきたため、社長の焦りが原因か、今までやってきたことのない仕事のスタイルに無理やり変えて、会社の持つ文化をすべて崩してしまいました。そのせいか、事業がうまくいかず、社員が辞めていきました。これは、社長が会社の本質を良く理解していなかったからだと思います。私にとって、今回の特別授業はすごく勉強になりました。

経営情報学部3年生 田中宏明
 ~親から受け継ぐ金属会社の経営に生かします~

 私は八代目儀兵衛様の特別授業を受けてみて、積極性が重要だということを学んだ。授業後半のパネルディスカッションの後で、社長に質問する時間が設けられた時、私は質問するなど人前で話すのが苦手だったけど、勇気を出して質問してみた。私の質問は他の受講生の質問に比べるとクオリティーは高くなかったけど、授業の最後に橋本社長が、質問しなければ成長できない、質問を積極的にしていくことで思考のクオリティーが高くなる、今回質問した人は一つ上の段階に進んだと言って下さり、とても心に響いた。
 今回の経験は、自分自身が親の事業を引き継いだ時にも生かせると思う。私の親の会社は金属会社で、従業員は皆、黙々と作業をしている。コミュニケーションをあまりとらず、思っていることを積極的にぶつけることができていない。私が事業を引き継いだら、自分自身が積極的に従業員に話しかけ、従業員の意見を取り入れていくことで、質問や思っていることを言っていいんだという雰囲気をつくり、ストレスのない会社にしていきたい。

経営情報学部4年生 小村彩貴
 ~何回受けても学ぶことがたくさんあって面白い授業です~

 この授業は昨年度履修して単位は取っているのですが、勉強のために2度目の受講をさせてもらっています。事業承継を実践することを前提にしたグループディスカッションやケーススタディが中心の授業ですが、前年のことを思い出しながら取り組むケースもあれば、総括まで聞いてやっと昨年のことを思い出すケースもあります。一度受けたケースは、他に面白い分析ができないか考えたり、福重先生の総括への持って行き方なども、盗めるものは盗もうと思いながら授業を受けています。しかし、昨年とは異なるケースが導入されていたり、特別授業も、講師の先生だけでなく運営方法までガラッと変わっていたりします。同じケースでも1年前とは全く違う分析をしていることもあるので、何回受けても学ぶことがたくさんあって、面白い授業です。

株式会社八代目儀兵衛 代表取締役社長 橋本隆志氏のコメント

 今回の特別授業を通して、自分たちが体験したことのないことに挑戦しようとしている学生の姿を見ることができました。そして、授業で学んだことを、将来受け継ぐ親の事業の経営や、大学で取り組んでいることに生かそうという、強い意気込みを感じました。この授業はビジネスに直結するので、これからも頑張って学んでいってほしいと思います。
科目担当:福重八恵