文:永山晴香 写真:炭家清花

 今回は、阪南大学商学部経営情報学科卒業生の阿須名孝次さん(以下、あすなさん)に取材をさせていただきました。あすなさんは現在、バンダイナムコスタジオでゲームプランナーとして活躍されています。
担当教員注:商学部経営情報学科は、経営情報学部の前身です。
ライター注:あすなさんが関わられた主なゲーム(データ提供:あすなさん)
・「ソウルキャリバー2」プランナー 2003年 ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)
・「ソウルキャリバー3」プランナー 2005年 ナムコ(同上)
・「トリオンキューブ」プランナー・ディレクター 2006年 バンダイナムコゲームス(現バンダイナムコエンターテインメント)
・「マッスル行進曲」ディレクター 2009年 バンダイナムコゲームス(同上)
・「パックマンダッシュ」ディレクター 2013年 バンダイナムコゲームス(同上)

企画職に就いて10年経って初めて製品化

——:初めまして。本日取材を担当させていただきます、永山です。濱ゼミの後輩になります。よろしくお願いいたします。
まず最初に、ゲームプランナーのお仕事についてお伺いします。ゲームの企画は、自分で自主的に提案するのですか?それとも上司から概要を指示されるのですか?
あすな:色んなパターンがあります。会社的にこんなコンテンツがほしいみたいなのがあって、それをもとに募集があったり、上司から指示があったり、自分からこういうゲームがやりたいのでやらせてほしいと言うときもあります。
——:ゲームの企画から実際に販売されるまでの流れを教えて下さい。
あすな:面白くて売れそうなゲームを考えたら企画書を作ります。プロデューサーと相談しながらプロジェクト化を目指します。プロジェクト化されたら、面白さの中心となる部分を試作し、本当に面白くて売れそうなのであれば正式に制作がスタートします。最後は、デバッグやテストプレイを経て発売に至ります。
——:ディレクターやプロデューサーというのはどんな役割なのですか?
あすな:簡単に表現すると、ディレクターは製品内容に責任をもつ人で、プロデューサーは売ることに責任をもつ人です。
——:最初の頃は企画がボツになることは結構ありましたか?
あすな:僕の書いた企画書が実際プロジェクト化されて製品化したのはゲームプランナーになってから10年後ですね。10年間企画職を続けて、やっとそこに辿りつけた感じです。
——:企画したゲームの中で実際に発売されるのは何本くらいですか?
あすな:プロジェクト化されて製品開発をしても、最後の最後に色々あって世に出ないことも多いですよ。

同じターゲットをずっとつなぎとめるのは難しい

——:企画を通すためには、アイディア以外にどんなことを訴えるとよいのですか?
あすな:いい質問ですね(笑)。沢山売れそうかどうか、お客様がたくさん買ってくれるかどうか、本当にそのゲームが作れるかどうかです。もうひとつ必要なのは、会社として取り組む価値があるかどうかですかね。
——:企画を通すためにはプレゼンテーション能力が必要と感じましたが、プレゼンテーションの仕方はいつ・どうやって学びましたか?
あすな:プレゼンの本をたくさん読んだり、プレゼン動画やハウツー動画を見て、どうすれば素敵なプレゼンに出来るかを考え、あとは地道に練習し続けます。ある程度練習できたら、誰かに聞いてもらって調整したりもしますね。このボケは笑いが取れないとか、全部笑いが取れないとか(笑)。
——:(笑)
ゲームのストーリーや登場人物は誰が考えるのですか?
あすな:作品やチームによって全部違います。私の場合は、おおまかな設定やお話を用意して誰かにお願いする場合が多いですね。
——:これまでに関わられたゲームのタイトルを拝見すると、対象となる性別や年齢が全く違うと感じました。私は、シリーズ物は同じ人が作っていると思っていましたし、対象年齢や対象となる性別もそれぞれ得意な人がそのゲームに関わり続けるイメージでした。対象年齢や性別が異なるゲームを手がけるのは難しくありませんか?
あすな:異なるターゲットのゲームを手がけるのも、同じターゲットのゲームを手がけるのも、どっちも難しいですね。例えば、20歳の男性をターゲットにしたゲームを作ったとして、同じシリーズの次を作っても、前作をプレイしてくれた世代はもう20歳じゃないし、その世代が20歳だった頃の感覚と今の20歳の人達の感覚も違うでしょうし。同じターゲットだったとしても常に変化し続けているので、簡単では無いです。

一番印象に残っているゲームは?

——:これまで手がけたゲームの中で、一番印象に残っているゲームは何ですか?
あすな:一番最初に企画立案から製品化に至ったトリオンキューブというパズルゲームです。ゲームって小さいものでも10-20人ぐらいのチームで作るものなのですが、トリオンキューブは企画とディレクションが私で、あとデザイナー1人、プログラマー1人、サウンド1人、合計4人のチームでした。
——:とても小規模だったのですね。
あすな:そうですね。なので、このチームは結束力も高かったし、ワールドワイドで製品化されたプロジェクトなのでとても思い出します。
——:自分が企画したゲームを発売後に自分でプレイすることがありますか?
あすな:制作過程でさんざんプレイしているので発売後のものはプレイしないって人もいるとは思いますけど、私は自分が企画したゲームは全部クリアまで遊んでますね。「なんておもしろいんだ! このゲームを考えたのは誰だ!」とか(笑)。

頑張ってる人の倍の努力を10年続けたら追いつける

——:お仕事でやりがいを感じられる瞬間はどんなときですか?
あすな:誰かが笑顔になった瞬間が一番やりがいを感じています。ゲームが出た後にお客さんが遊んで面白かったよという反応もとても嬉しいですし、仕様書や企画書を書いて誰かに見せた時に「なにこれ! めっちゃ面白そう!」って言ってもらえた瞬間とか、日々のやり取りの中でも笑顔にできると素敵ですよね。
——:新しいゲームのアイディアはどんなところから生まれるのですか?
あすな:息をするように、かな(笑)。常に、常に考えているので、いつどこだとかはちょっと難しいなあ(笑)。
——:すごいです!
あすな:以前、とても名のある方の下で働いてたのですが、その人に教え込まれたというか、叩き込まれたんですね。「君は業務外でゲームのことをどのぐらい考えてるの?」って聞かれたときに、「1時間ぐらいです」って答えたらめっちゃ怒られちゃって(笑)。「例えば、そのゲームのことについて業務外に3時間勉強したり考えたりしているに人に対して、あすなが1時間であれば一生追いつかない。3時間でも追いつかないから、君は6時間! 頑張ってるやつらの倍、考えたり勉強し続けたら10年後ぐらいには追いつけるんじゃない?」って言われて、そこからもうずっとやってます。お風呂に入ってる時とかトイレとかも通勤中とかも、全部基本的に頭の中でタスクが動いていますね。
——:日常生活の中に溶け込んでいるのですね。
お仕事で大変だったことはありますか?
あすな:以前働いていた会社のボスが僕の心の師匠なんですけど、入社して課題を一個与えられました。敵キャラクターを一種類作ってもらおうと思っていると。その方が求めていたものは、人の感情を揺り動かすものだったのですが、当時の僕にはそれが理解できなくて、色々試行錯誤勉強もしたけど、半年経ってもその一課題がクリアできなかった。とても辛かったですね。ただ、その半年間の勉強量ったら半端なかったよね。ドラゴンボールでいう「精神と時の部屋」みたいな・・・わからへんか(笑)。
——:わからないです・・・。
炭家:わかります!(笑)
あすな:叶えられないくらいの目標を常に立てておくと、勉強せざるを得なくなりますし、勉強の成果が実感出来た時の充実感はとても気持ち良いものなので、勉強とか努力するのが今はもう楽しくなっちゃってますね。

死ぬその日までゲームを作っていたい

——:お仕事をする上で心掛けておられることはありますか?
あすな:おもてなしですね。誰かと衝突する時もあるけど、相手に対して素敵な時間を作ることを理想として考えています。
——:いつも何時から何時まで会社でお仕事をされているのですか?
あすな:今は10時に出社し18時半には退勤します。18時半に帰ろうと思うと、圧縮して効率よくやろうと思うし、打ち合わせや会議も1時間で終わらせて他のことに集中しようってなりますしね。
——:健康を維持するために意識してやっていることはありますか?
あすな:休みの日はほぼほぼランニングをしています。人生の中でより長くゲームを作るためにランニングをして、体調不良にならないようにって。でもね、ランニングはね、好きじゃないんです(笑)。
——:あ、そうなんですか!(笑)。
あすな:ランニングはとても辛いですけど、熱とか出すとゲームを作れなくなるじゃないですか。ランニングのおかげで、ここ数年は熱出したことないかな。
——:あすなさんは青少年の成長とゲームの関係についてどんなふうにお考えですか?
あすな:人間性がどう形成されるかって言うと、家族とか友達とか周りの環境によるものだと考えています。ゲームは本とか映画とかと同じようなものがただ一個増えただけだと。
——:今後の目標を教えてください。
あすな:死ぬその日までゲームを作りたいですね。作りながら逝きたい感じ(笑)。

卒論は「売れるゲーム 売れないゲーム」

——:次に、あすなさんの学生時代や就活についてお尋ねします。
入試区分を教えてください。
あすな:阪南大学高校特別推薦です。
——:なぜ、阪南大学・経営情報学科を志望されたのですか?
あすな:当時、経営情報に入るとPCを買わないといけないというのがあって、パソコンが欲しかったからかな(笑)。
担当教員注:当時はまだPC普及率が低かったこともあり、本学の経営情報学科入学生はPC購入が義務づけられていました。
——:大学の講義は真面目に出席する方でしたか?
あすな:真面目ですね。今でも、遅刻することも、早退することもないかな。
——:濵先生のゼミに入った理由は何ですか?
あすな:友達グループと一緒に。あと、こんなこと言ったら先生に怒られそうだけど、濵先生のゼミは緩いというか・・・(笑)、好きなことがやれそうだったので。
——:卒業論文はどのようなテーマで取り組まれましたか?
あすな:え~っと・・・、忘れました(笑)。
天の声:「売れるゲーム 売れないゲーム」

就職氷河期で、就職が決まったのは4回生の2月

——:あすなさんが就職活動をされていた頃は、就職氷河期だったそうですが、就活は大変だったのではないでしょうか?
担当教員注:就職氷河期は、バブル経済崩壊後の就職難の時期のことで、1993年頃から2005年頃まで。
あすな:実は4回生の2月まで、就職先が決まってなくて(笑)。どうやって生きていこうってなっているときに、駅にある就職情報雑誌にゲーム会社の新入社員募集って書いてあって、受けたら採用されて、卒業前ぎりぎりでゲーム会社に就職が決まったんです。あと、この業界だとスーツを着なくていいだろうと思ったんです(笑)。
——:阪南大学や、経営情報学部に入学するか迷っている高校生に、一言お願いします。
あすな:阪南大学というより一般論になっちゃうけど、自分の中でもっとも好きなものを見つけると、とても素敵な人生を歩めると思っていて、大学って強制的に色んなことを学ぶので、好きなものを見つけやすい環境にあるんじゃないかと思いますね。

取材を終えて

 あすなさんは、とても気さくなお人柄で、本来であれば取材相手の緊張をほぐさなければならない私が、緊張をほぐされてしまいました。常に、ゲームのことを自然と考えておられ、ゲームに関わる全ての方へのおもてなしを心掛けておられるというのは、決して安易ではないことだと思うのでとても尊敬いたします。また、私自身、全く知らない世界の貴重なお話をたくさんお聞きすることができたので、大変勉強になりました。あすなさん、今回はお忙しい中お時間を割いていただき、ありがとうございました。
 最後に、本取材のインタビュープロット作成に当たり、予備取材にご協力いただきました、あすなさんと濵ゼミ同期生の井窪さん、ありがとうございました。
永山晴香


まずはお忙しい中取材を引き受けてくださりありがとうございました。緊張している私たちを和ましてくれたり、取材中にカメラ目線を下さったりととても明るく、ユーモアにあふれた方でした。ゲームにかける思いは真剣そのもので「死ぬその日までゲームを作っていたい」という言葉はとても印象的でした。いつか自分にもそう思えるものができればいいなと思いました。
炭家清花

ゼミ指導教員より

 阿須名君の卒論「売れるゲーム 売れないゲーム」は、どうすれば売れるゲームが作れるのかを考察したもので、既にゲームプランナーの視点でゲームを捉えています。阿須名君は、カイヨワの遊びの4分類(競争・運・模擬・眩暈)と、遊びの3要素(ルール・システム・世界観)から説き起こし、ゲーム雑誌のレビュー項目毎に統計を取るなどしてゲームを分析しています。また、C言語で作られた実際に遊べるゲームが卒論に添付されています。
 阿須名君の学年はゼミの卒業旅行で北海道に行ったのですが、昼はスキー・夜はゲームセンターという計画でした。阿須名君は「北海道に行って北海道のゲーマーと対戦する!」と嬉しそうに言っていて、私は「北海道に行ってまでゲーセン通いかい」と呆れていました。旅先でも、阿須名君は一人だけスキー場に来ず、ゲームをやるためだけに北海道に行ったという重度のゲームジャンキーでした。こういった阿須名君の個性の強さは創造性にプラスに働いていると思います。その意味では、ゼミ全体を一つの方向に向かせることのない私のゼミの運営方針(阿須名君が言うところの「緩さ」)は、阿須名君には合っていたのかも知れませんね。
 教え子がヒットメーカーになった上、著書を二つも出すようになったのは、教員として誇らしい限りです。とにかく健康にだけは気を配って下さいね。

担当教員注:阿須名君の著書
・「ゲーム作りのはじめかた」(あすなこうじ著 SB クリエイティブ 2014年)
・「プログラミングのはじめかた」(あすなこうじ著 SB クリエイティブ 2018年)
最後になりましたが、取材にご協力いただきましたバンダイナムコスタジオ様に感謝申し上げます。
濵道生
経営情報学部学生広報委員会では、「じぇむ」の記事を書いていただける方・撮影をしていただける方を募集しています。興味のある方は担当教員(濱)か、教務課までお問い合わせください。「じぇむ」発行にあたっては、阪南大学教育改革推進費から費用の補助をいただいています。