経済社会の変化と会社法改正

経済社会の後追い?

 平成26年1月1日現在、わが国には最高法規である憲法と1,906本の法律が存在しています<注1>。現代社会は「法律の雨」の中にあるといわれることもありますが、一口に法律といってもほとんど改正の行われないものもあれば、頻繁に改正が行われるものもあります。
 阪南大学経済学部では、法律学を学修していくうえで必須となる法律科目を設置し、少なからぬ学生の皆さんも経済学に加えて六法全書を片手に法律学も学んでいる光景を目にします。これらの法律科目の一つである会社法には、経済社会における重要なプレーヤーである会社(とりわけ株式会社)への法規整に関する定めが置かれています。「会社法」を調べると、その中に「(平成十七年七月二十六日法律第八十六号)」と書かれていますが、これは平成17年に成立した法律であることを示しています。これだけ見れば比較的新しい法律といえますが、実は会社法が成立する前までは、商法を始めとするいくつかの法律の中に分散していました。現在は「削除」と記載されている商法の「第八章 雑則」(具体的には33条から500条まで)の部分に、会社に対する法規整に関する定めが置かれていました。商法には「(明治三十二年三月九日法律第四十八号)」との記載があることから、明治32年に成立したことがわかります。会社法が成立するまでの間に多くの法改正(商法改正)がなされてきたことに加えて、とくに昭和49年の商法改正以降は、会社規制が商法以外の法律にも分散することになったので、会社に関する規制は伏魔殿とも称されることがあったほどです。
 ただ、なぜ会社規制が伏魔殿化したのか、を考えますと経済社会の変化によって生じた法の不備に対応しようと努力をしてきた結果ですので、すべて悪いというわけではありません。また、会社を舞台として様々な利害が衝突していますが、経済社会が複雑化することによってますます利害調整が困難となっていますし、経済社会の変化はものすごいスピードで進んでいますので、どうしても会社法の方が後追いということになってしまう訳です。

現在の会社法改正作業

 後追いとなったとしても、経済社会の動きに何とか対応しなければ法の不備によって問題が発生することになり、社会全体に悪影響が及んでしまいます。ですので、今現在も会社法の改正に向けた動きは存在しています。
 平成25年11月29日、国会(第185回国会(臨時会))に「会社法の一部を改正する法律案」が提出されました。この法案の提出前にも会社法は改正されていますが、今回の法案の提出理由は以下のように示されています。
 「株式会社をめぐる最近の社会経済情勢に鑑み、社外取締役等による株式会社の経営に対する監査等の強化並びに株式会社及びその属する企業集団の運営の一層の適正化等を図るため、監査等委員会設置会社制度を創設するとともに、社外取締役等の要件等を改めるほか、株式会社の完全親会社の株主による代表訴訟の制度の創設、株主による組織再編等の差止請求制度の拡充等の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。」<注2>
 さりげなく書かれていますが、複数の分野に改正が及んでいることがわかります。敢えて大まかな言い方をすれば、経済社会における株式会社(企業グループ)の実態と会社法制との間には大きな差異があって、そのまま放置することで芳しくない結果が生じているのでこうした不都合を是正することを目指している改正です。また、株式会社制度には法人内部で互いに牽制させ合うことで業務執行の適正性を確保するための装置が組み込まれていますが、それだけでは不十分で実際に役割を担う人間の特性(しがらみに弱い等)を踏まえた制度設計が不可欠であることも示されています。

永遠の未完成

 会社は永遠の未完成とも言われることがあります。永遠に未完成である存在に対する法規制を会社法は目的としている訳ですから、会社法自身も永遠に未完成ということを示していることになります。
 会社というのは一見、無機質な存在のように感じられますが、実はとても人間臭いものです。そうした人間臭さに目をつむることなく、在るべき法規制を模索していくところが会社法学の面白さといえます。
<注1>
 平成26年1月 1日までの官報掲載法令であり、この他にも政令、勅令、府令・省令、閣令、規則を合わせると、7,941に上ります。なお、総務省行政管理局によってこれらのデータはインターネット上で提供されています。
<注2>
 法律案等も含めて、法務省のHPにアップされていますので、詳しくは、http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00138.htmlをご参照ください。