流通学部スポーツマネジメントコース主催「ワールドカップブラジル大会を語る」第3回を開催

 6月28日(土)あべのハルカスキャンパスにて、流通学部スポーツマネジメントコース主催「Wワールドカップブラジル大会を語る」第3回を開催いたしました。好評であった第1弾、第2弾を経て、ワールドカップの総括として、第3弾を実施しました。

 講師は引き続きサッカーアナリストとして著名な庄司 悟氏。1975年からドイツに33年間居住され、ドイツサッカーの4つの哲学「ボールは丸い」「試合時間は90分」「試合後は試合前」「ベストコンディションはいつもボールである」をポリシーとし独自のゲームデータの分析を行っておられます。ブンデスリーガを始め、スペイン、アメリカ、日本、バルサ、レアルなどチームを分析し、NHKの海外サッカー番組にも情報を提供しておられます。

レポート

 一連の講演会も3回目ということで、参加者にはすっかりおなじみとなった「パス本数」と「パス1本あたりの全選手の走行距離」を示す図表から今回の講演会が始まりました。ベスト8に残った国々が、準々決勝を含めた5試合をどのように戦ったかを先述の2軸で表現したその図表によると、1戦ごとに戦い方が大きく変わったオランダを除き、各国のスタイルが見てとれましたが、準決勝に勝ち上がった国でも、普段とは異なる戦い方を強いられた試合があったとのことでした。つまり、ベスト4に残った国は、不慣れな戦い方であっても、それを勝ち切るだけの強さを持っていたとのことです。また、この図表から見えてきたのは、優勝国のドイツに唯一普段どおりのサッカーをさせなかったフランスは、今大会でドイツを最も苦しめた国のひとつといえるかもしれず、分析対象として興味深いとのことでした。
 つづいて提示されたデータは、ベスト4に残った4カ国について、準々決勝までの5試合における「自ボール時・敵ボール時・プレイオフ時の走行距離」という、これまた非常に興味深いものでした。アルゼンチン、ブラジル、ドイツの3カ国は基本的に自ボール時の走行距離が長く(主導権を握っている)、オランダは準々決勝のコスタリカ戦を除いて敵ボール時の走行距離が長い(リアクション型になっている)というものでしたが、特筆すべきはブラジルの5試合目、準々決勝コロンビア戦でプレイオフ時の走行距離の数値が跳ね上がっている点です。これは、ファウルによって試合が止まる(敵の攻撃のリズムを断ち切るために意図的なファウルによって試合を止める)時間が長かったためで、ブラジルはコロンビアの攻撃に相当手を焼いていたことを示しています。しかし、その次に提示された準決勝のドイツ戦(1−7という記録的な大敗)のデータでは、敵ボール時にかなり長い距離を走らされており、ドイツの攻撃をファウルで止めることすらできなかった苦戦ぶりが数字の上からもうかがえました。
 決勝のドイツ‐アルゼンチン戦について、戦前は、ブラジル戦で7得点を挙げたドイツの攻撃力と、決勝トーナメントに入ってからの得点こそないものの、4得点を挙げているアルゼンチンのFWメッシ選手に注目が集まっていましたが、提示された資料からは、シュートは打たれるものの得点は許さないドイツと、シュートそのものを打たせないアルゼンチンという両チームの意外な守備の堅さが見られました。延長での1−0での決着というロースコアのゲームをこのデータは暗示していたようです。
 今回の決勝カードでもあるドイツ‐アルゼンチンは2006年、2010年にも対戦していますが、各試合の一場面を写した3枚の写真からはドイツの戦術面の進化が見て取れるとのことでした。2006年大会ではリケルメ、テベスという世界的な名手が得意とするエリアでまったく仕事をさせず苦手なエリアに押しとどめました。このときから意識されていた、守備から攻撃への早い切り替えを可能とするラインの形成は、2010年大会では相手の攻撃に対して10人が円を描くように取り囲むように守備をする「サークル・ディフェンス」へと進化し、今大会では攻撃時にもボールを持つ味方選手を円の中心に置き、常に5つないし6つのパスコースを作り出す、サークル・ディフェンスへとさらに進化しました。ドイツの戦術が、前監督のクリンスマンから現監督へのレーヴへと引き継がれ、成熟してきたということがよくわかる資料でした。「代表監督を選ぶよりも先に『日本のサッカーはどうあるべきか』という方向性について議論し、育成年代も含めてその方向性を共有すべき」との提言は庄司氏以外にもなされていますが、ドイツの継続的な取り組みとその成功を同時に示されることでより説得力を持った提言は庄司氏独自のものといえるでしょう。
 終盤には参加国の「シュート本数、決定率、被シュート本数、被決定率」に関する資料が示されましたが、日本は「シュートは打つものの決めきれない」、「シュートを打たれると高確率で決められる」という我々にとってかなり厳しい結果が明らかにされました。第2回の講演会で紹介された「攻撃の中心選手からのパスが通らない」、「パスが回っても本数は多くても自陣の後方で回している」という結果と合わせて考えると、戦術の重要性もさることながらそれを遂行するために必要な、心身ともにプレッシャーがかかった場面でもミスをしない技術を獲得することが必要かもしれません。
 質疑応答では、サッカーを足掛かりに日本人の気質や日独の産業にまで話が及び、非常に深みのあるやりとりが繰り広げられて、全3回にわたる庄司氏の講演会が終了しました。

阪南大学流通学部スポーツマネジメントコースについて

社会的な健康意識の高まりや、スポーツが持つ教育的価値の認知により、人々のスポーツへの関心がかつてないほど高まっています。スポーツは今や世界的なビッグビジネス。スポーツ業界の大きな流れを見据え、ビジネスとして関わっていくことができる人材が求められています。スポーツビジネスの最前線を「流通学」で分析し、その成果を社会に発信するのがスポーツマネジメントコースの目的です。「将来はスポーツにかかわる仕事を」という声にこたえて、Jリーグやプロ野球の球団経営をテーマとしたシンポジウムを開催するなど、スポーツ最前線と交わる教育を実践しています。