民博再訪

  • 太陽の塔にて(撮影:渡辺和之)

 2019年9月16日(月)、国際観光学部の渡辺ゼミでは、2年生のフィールドワークで国立民族学博物館(民博)を訪れた。今年の2年生は男性4名、女性8名、計12名が渡辺ゼミを選んだ。みな世界の食文化に関心があるそうなので、それならぜひ民博に連れてゆかねばならないということになった。聞けば、万博公園すら行ったことない人がほとんどである。学生たちは太陽の塔を見て喜んでいた。
 見学にあたり、気に入ったものを写真に撮り、それについて、展示場で書いてあることをメモし、関連するビデオテーク作品を見るように学生には指示した。学生は思い思いに好きなものを見つけてきた。あとでレポートを見ると、婚礼衣装もあれば、穀倉や織機もあり、漁具あり、墓あり、骸骨あり、言語もありとさまざまな結果になった。同じ展示場を見ていても、こんなにも目を付ける所が違うのだと思った次第である。そして、それぞれ展示場の解説やビデオテーク、学習コーナーや帰ってからネットで調べるなどをして、展示物の背後に広がる民族文化に想いをはせていた。
 展示場で自由に写真が撮れることにも、インスタ世代の学生は喜んでいた。基本的にフラッシュを使わない限り、撮影禁止以外のものは撮影してよいのである。また、学習コーナーでは、展示物から関連記事を探せるようになっていた。月刊みんぱくの記事のなかには民博のウェブサイトに転載されているものもあって、学生がネットで調べていても専門家の記事にたどり着けるようになっていた。
  • 展示場を見学するゼミ生(撮影:渡辺和之)

  • 学習コーナーにて(撮影:渡辺和之)

 展示場で学生が多少話をしていてもおおらかな所もよい。民博には音1つ立てただけでも気まずくなるような厳粛な雰囲気はない。むしろみんなで賑やかに見学してよい所である。美術館に子連れでゆくと神経を使うが、民博なら心配がない。キッズでも楽しめる所もたくさんある。こういう趣旨は、今でこそ普通の博物館でも導入されるようになったが、民博では開館以来ずっとそうであった。当時としてはかなり大胆な発想だったことが今になるとわかる。私自身、民博でお世話になっていた20年前には、それが当たり前だと思っていたので、民博以外ではそうでないと、あとになって知ってがく然とした。
 リニューアル後、全展示場を通してみたのはこれが初めてだった。南アジアや日本展示は共同研究会の折に見学させてもらったが、当初の展示と比べるとずいぶんと手を入れていることが随所でよくわかった。以前は似たようなものが集まっていて迫力はあったが、リニューアル後はより学術的になった。同じ文化を構成する要素がまとめられ、展示物の前に写真や映像資料も加わって、現地の暮らしがイメージしやすくなっていた。また、新しい展示では展示の解説文もついていた。以前は興味を持った人が学習コーナーやビデオテークで調べてもらえばよいという趣旨だったが、やはり見学者には親切になったと思う。
 ひさしぶりに里帰りし、新しくなった故郷を見るような想いで見学することができた。以下、学生のレポートをお読みいただきたい。

民博で世界一周
国際観光学部2年 後潟美月

  • トラジャ族の穀倉 (国立民族学博物館蔵、撮影:後潟美月)

 私が民博で一番関心を持ったのは、”穀倉”である。この穀倉は東南アジア地域のインドネシアに住むトラジャという民族が使っていてものだ。これは稲穂や籾を貯蔵する倉庫であり、稲の霊の安息所でもある。壁面は水牛やニワトリ、太陽などで彫刻されており、これらはトラジャの神話や儀礼において重要な意味をもつと展示場の解説に書いてあった。民博の収蔵資料データベースには詳しく大きさは記載されていなかったが、私が見たところ、かなり大きく、屋根の部分は船のようであった(1)。壁面は色がたくさん使われており、柄はクジャクのように見えた。
 私が興味を持った理由は、まず大きさである。東南アジアのエリアでとても存在感があった。色合いもカラフルで、倉庫なのにとても豪華な造りだと感じた。柱もしっかりしているので頑丈そうである。しかし、太い柱が6本もあるため、たくさんものは置けないのではないだろうか。そして倉庫は食材などを保存する場所なのに仕切りがなくて大丈夫なのかと感じた。また、仕切りがないことで風を通すことができるので熱がこもらない。そのため、熱に弱いものを保存するには良いと考える。
  • ケチュア族のチュリュ (国立民族学博物館蔵、撮影:後潟美月)

 次に関心を持ったのは編み帽子”チュリュ”である。チュリュは南アメリカ地域のペルー・ボリビアに住むケチュアという民族が使用していた帽子である。民博の収蔵資料データベースによると、標本番号H0105716のチュリュは、寸法は31×23(cm)でアルパカの毛を利用し編んだものだ(2)。ペルーやボリビアのある中央アンデス高地は熱帯であるが、朝晩はとても冷え込む。そのため、アルパカの毛を利用しているチュリュはアンデス高地に住む人々にとっては欠かせないものである。
 チュリュはデザインがさまざまで可愛らしい帽子だと感じた。特に、耳あての部分から先についているひもが個性的で、ひもにぼんぼりがついているものが一番印象的であった。耳あての部分があるので耳元まで寒さから守ることができるため、アンデス高地に住んでいる人々だけでなく、寒い地域に住んでいたら欲しいと思える帽子ではないだろうか。しかし、街の人々が被るものというよりは村や山などの人々が被っているのではないかと私は思った。さらに、日本人には馴染みがない柄なので日本で被るのは少し勇気がいるのではないだろうかと感じた。アルパカの毛を利用してシンプルなデザインのチュリュがあれば、日本でも人気が出るのではないかと考えた。
  • アカ族の織機 (国立民族学博物館蔵、撮影:後潟美月)

 最後に関心を持ったものは”機織り”である。この織機は東南アジア地域のタイに住むアカという民族が使っていたものである。民博の収蔵資料データベースには詳しく大きさは記載されていなかったが、織機自体が大きいというよりは布や糸を支えている木の部分が大きいと感じた。
 興味を持った理由は、比較文化論の講義で織物について学んだことを思い出したからである。民博の展示資料によると、民族ごとに伝統衣装が異なるのは、継承してきた技術・道具が異なっているからであると書かれていた。そのため伝統衣装がたくさんあれば機織りのやり方もたくさんあるということがわかった。民博の収蔵資料データベースによると、標本番号H0000946のアカ族の衣装は帽子飾り、上衣、スカートであると記載されていた(3)。特に帽子が個性的だと感じた。
 ビデオテークでアカ族の生活を見ることができた(4)。農作業のようすや食生活を紹介していたのだが、イヌの肉を好んで食べているという事実に衝撃を受けた。私たちからすると犬はペットの印象が強いので想像がつかない。世界にはさまざまな民族がいるということを実感した。
 今回、民博を見学して感じたことは今までに訪れた博物館よりも楽しむことができたということだ。実際に使用することができるものもあり、撮影も可能であった。さらに地域別に展示されており、最後は日本のエリアで終わるという構成になっていたので、世界一周をしたかのような気持ちになれた。言語のエリアには、『はらぺこあおむし』と『星の王子さま』の絵本があり、懐かしく思えた。英語だけでなく、いろんな言語のものがあり英語と韓国語を学んでいる私にとってはとても興味深い。馴染みのある本ならいい勉強になるのではないかと感じた。また、ビデオテークを見る場所がカプセルのような作りになっており、このようなスペースを学校の図書館などに取り入れてほしいと思う。そして、また行きたいと思える博物館であった。

参考文献

  1. 「穀倉(インドネシア・スラウェシ島・トラジャ)標本番号H0009872」国立民族学博物館標本資料目録データベース
  2. 「男性用帽子(ペルー・ケチュア)標本番号H0105716」国立民族学博物館標本資料目録データベース
  3. 「女性用衣服7点(タイ・アカ)標本番号:H0000946」国立民族学博物館標本資料目録データベース
  4. 国立民族学博物館ビデオテーク「アカ族の生活」国立民族学博物館(映像資料)

肉切り包丁とうどんから考える日本独自の食文化
国際観光学部2年 岡崎凪紗

  • フランスの肉切り包丁(国立民族学博物館所蔵、撮影:岡崎凪紗)

 国立民族学博物館でフィールドワークを実施し、私が最も関心を抱いたのは、肉切り包丁である。これはフランスで食肉を目的とした家畜の解体のため用いられていたものである。同館の収蔵資料データベースによると、標本番号H0158217の肉切り包丁は、素材は鉄と見られ、縦17cm、横39cm、厚さ2.1cmと日本のものと比べると、とても大きい(1)。この展示物から、ヨーロッパと日本の調理器具の特徴の違いや、食文化の違いを感じ、関心を抱いた。
 日本では、日本刀に代表されるように、刃物はできるだけ薄く鋭利なものが調理においても利用されてきた。一方、大きな家畜をさばいて調理していたヨーロッパにおいては、細工を行える鋭利なものより、僅かな力でぶつ切りにしやすい大きく重たい包丁が重宝されたのだろう。日本食は「目で楽しむ料理」と言われるように、味はさることながら、見た目をとても重視する。しかし、そういった食文化は世界的にみると非常に珍しいのだと、包丁一つ例にとってもよくわかる。
 では逆に、日本と似た食の文化を持つ国はないのだろうかと気になり、映像資料を見てみた。残念ながら、調理器具に特化した映像資料は、時間も迫っていたため見つけることができなかったが、日本人と似たようなものを食べている地域の資料を見つけた。
 日本は島国であるが、使者を送り、大陸より様々な情報や物を自国へと持ち帰った。故に大陸から伝来した食べ物は非常に多い。しかし当時は多くの場合、口頭によって情報共有がなされた。そのため、大陸より伝来したものも独自に発展し、今日では、自国の文化のようになっているものが数多く存在する。その一例として麺がある。日本には実に様々な麺料理が存在する。なかでもうどんは、私たち日本人にとって、大変馴染み深い麺の1つと言えるだろう。
 そんな、うどんと似た麺が、カンボジアにも存在する。映像資料「カンボジアのうどん作り」によると、カンボジアはメコン川の恩恵により大変稲作が盛んな国であるため、日本同様主食はコメであり、コメの加工技術も発達している。そのためベトナムのフォーのような、「クイティウ」や「ノムバンチョク」という米麺の麺料理がカンボジアでは主流のようだ。なかでもノンバンチョクはうどんともちの合の子のような作り方をする。一晩水に浸したうるち米を石臼で挽き、水を切り、塊となったものを30分ほど茹でる。足踏み式の杵で水を加えながらつく。このしとぎと呼ばれる塊を、穴の空いた枠に入れ、押し出すと麺となる。これを茹で、味付けをして食べる。
 日本のうどんはカンボジアの町「ウドン」に由来しているなどといった説もあり、実際はどこからきた食べ物なのかはっきりとしたことはわからなかった。しかし、日本の食文化は大陸から大きく影響を受け、人々の伝言のリレーによって、今日の日本のそれを形成しているということがよくわかった(2)。
 今後のゼミでは、自国と他の国々の食文化を比較しながら、日本が独自に発展させた食文化をさらに詳しく研究していきたい。

参考文献

  1. 「肉切り包丁(フランス共和国)標本番号H0158217」国立民族学博物館収蔵資料データベース(最終閲覧日2019/11/14)
  2. 国立民族学博物館「カンボジアのうどん作り」国立民族学博物館ビデオテーク

墓標と結婚式からみる日本と世界の文化の違い
国際観光学部2年 岡本歩夏

  • ルーマニアの墓標 (国立民族学博物館蔵、撮影:岡本歩夏)

 私が国立民族博物館(みんぱく)を見学して一番関心を持ったのは“陽気な墓”である。ルーマニアにあり、ルーマニア人が亡き人を葬るために利用している墓である。民博の収蔵資料データベースによると、標本番号はH0211878である(1)。寸法は詳しく記されていなかったので、ネットで調べてみると高さが約2m、幅が50cmとのことだった(2)。
 私がこれに興味を持った理由は圧倒的な存在感だった。色合いもカラフルで大きく、目立つ位置に展示されていたので目を引かれた。初めて見た時、何かのオブジェかと思ったが、実際はお墓であると言うことにとても衝撃を受けた。自分が知っている日本の墓とはあまりにも異なっていたので興味を持った。そこで学習コーナーで調べた所、ルーマニアの陽気な墓は亡き村人の生前の姿をユーモアとともに絵と物語で描きだし、一人ひとりの個性に応じた形やデザインになっているとのことだ(3)。日本のお墓と比較してみると、明らかに異なる点がたくさん見られた。一つ目は素材である。日本は墓石で作られているが、ルーマニアの陽気な墓は木製である。二つ目は色合いである。ほとんど墓石の色だけで色味のない日本の墓に対して、ルーマニアの陽気な墓はとてもカラフルで絵柄も様々でポップな印象を与える。陽気な墓には、亡き村人の好きだったものや職業などが墓標に描かれていた。また一人ひとりの絵柄はまったく異なり個性もとてもよく現れている。日本の墓は亡くなった人の名前が刻まれているシンプルなものなのでどれも同じように思えてくる。そう思うと、亡くなっている人の個性が尊重されているところに、この陽気な墓の魅力を感じた。
  • パレスチナの花嫁用衣装 (国立民族学博物館蔵、岡本歩夏)

 次に関心を持ったのは“パレスチナの結婚について”である。民博ではたくさんの民族の伝統衣装が展示されていたが、パレスチナの民族衣装は特に目を引かれるものがあった。パレスチナの民族衣装は大きくかつ豪華な刺繍とカラフルな色合いが特徴である。刺繍には星や花など生の花嫁の衣装はパレスチナの民族衣装のなかでもひときわ豪華なように感じた。民博の収蔵資料データベースによると、標本番号H0228770のパレスチナの花嫁用の衣装の寸法は147×143(cm)である(4)。パレスチナの結婚について他にも興味をもったことがある。それは結婚式の祝い方である。展示の解説によると、パレスチナ人はイスラームを信仰しているが、その慣習では女性の生活空間が男性と別になることがある。それにともなって、結婚式も祝宴の場も男女別に設けられる。ここでも日本とは異なっていた。私は、日本で結婚式を行う際は、男性も女性も同じ空間で結婚式を祝うのが当たり前だと思っていた。さらに驚いたのは、花嫁が結婚の数ヶ月から数年前から新しい生活のための衣装やクッションカバーを作ることだ。日本ではそういう慣習はないので、とても違和感があったが、結婚したあとの生活にとても役に立つと感じた。
 他の国の結婚式についても詳しく知りたいと思ったので、ビデオテークで南アジアの「ウダイプルの婚礼」を見た。ここでは、婚礼のなかで拝礼や信仰を重視していると感じた。ビデオテークの解説によると、ウダイプルの花嫁は、様々な災いを遠ざけるため、ベルージーに拝礼にいく。さらに、花嫁の顔や手足には身体を浄化するために花嫁の親族がウコンを塗るピティという儀礼が行われている(5)。日本にもお祓い形である神前式や仏前式などがあるので、それに近いものなのかなと感じた。
 今回、民博を訪れて感じたことは世界の様々な文化を感じることができた。同じような衣装などでも宗教や国などによってはまったく異なるし、日本では想像がつかないような各国々の慣習などがあってとてもおもしろかった。もともと世界の文化などに興味があったので、もっといろんなことを学びたいと感じた。それだけでなくて、日本のブースを見た時に自分の母国なのに知らないことがたくさんあったので、日本の文化ももっと詳しく知りたいなと思った。また展示以外にもビデテークや参考書籍が多くありより深く学べることに魅力を感じた。はじめて民博を訪れたが、楽しんで学ぶことができるので、また行きたいと思った。

参考文献

  1. 「墓標(ルーマニア)標本番号H0211878」国立民族学博物館標本資料目録データベース(最終閲覧日:2019年11月14日)
  2. 世界恩人墓巡礼「世界一“陽気な墓” in ルーマニア」 (最終閲覧日:2019年11月14日)
  3. 新免光比呂 1999 「ルーマニアの墓標」 『月刊みんぱく』8月号表紙裏。
  4. 「花嫁用衣服(長衣)(パレスチナ自治区・ガザ地区西岸・アラブ)標本番号H0228770」 国立民族学博物館標本資料目録データベース(最終閲覧日:2019年11月14日)
  5. 国立民族博物館ビデオテーク「ウダイプルの婚礼」国立民族博物館(映像資料)