「旅行業の現状と課題」「着地型観光」がテーマの清水苗穂子(しみずなほこ)研究室。昨年から国土交通省による「はなやか関西 〜文化首都年〜」に取り組み、2013・2014年度のテーマ「関西の食文化」に沿った多彩な活動を行っている。
前回紹介した大阪府交野市の地酒を楽しむツアー「五感で感じる伝統の酒」に続き、3月12日(水)には、グランフロント大阪で開催された“はなやか関西”「関西の食文化」シンポジウムの学生研究発表に参加。「門真れんこんの伝承」を発表し、生産者減少の中で普及活動に努める農家や自治体へ実際に取材を行い、「伝統の継承」「関西の食文化への貢献」「地域振興」の3点について検討した成果をプレゼンテーションした。

和食の世界遺産登録記念として「関西の食文化」シンポジウムを開催。

「関西の食文化」シンポジウムは、「和食・日本人の伝統的な食文化」のユネスコ無形文化遺産登録記念として、グランフロント大阪で開催され、官・民・学の分野から様々な提言が行われ、約250名が集った。
その趣旨は、世界が注目する和食のルーツの大部分は関西にあり、現在に至るまで豊かな食文化が花開いている。そこで関西を食から盛り立てていこうというもので、国立民族学博物館の石毛直道名誉教授による講演「関西の食文化と歴史〜日本食の源泉は関西にあり〜」、学生研究発表、パネルディスカッション「関西ブランド“食”の魅力発信と誘客促進に向けて」が行われた。


学生研究発表では、追手門学院大学(見山の郷商品開発プロジェクトチーム)が「龍王みそを使用した商品開発プロジェクト」を、大阪市立大学大学院(生活科学研究科)が「なにわ伝統野菜の生理作用について」を、奈良県立奈良朱雀高等学校(奈良朱雀ビジネス企画部)が「奈良の食文化2013」を、阪南大学(国際観光学部)が「門真れんこんの伝承」をそれぞれ発表した(発表順)。

清水ゼミ2年生が「門真れんこんの伝承」を発表。

学生研究発表の最後を締めくくる形となったのが、清水ゼミの上田健太君(2年生)と鈴木成美さん(2年生)による「門真れんこんの伝承」だ。
“門真れんこん”は“河内れんこん”とも呼ばれ、大阪を代表する野菜として知られているが、実はなにわ伝統野菜の基準を満たさないため登録されていないという。また、最盛期の昭和40年代(1965年〜1975年)には、栽培面積が400ヘクタールだったが、都市化によって栽培が減少し、平成14年には7ヘクタールにまで減少している。
こうした状況の中で「いかにして伝統が継承されているのか」「門真れんこんが関西の食文化のイメージ向上に寄与できるか」「地域振興につながるのか」の3点を研究の目的として検討した。
曾祖父の代かられんこん農園を経営する「中西農園」の中西正憲氏に取材し、門真市への聞き取り調査を行うなど、丹念なフィールドワークを行い、さらに門真れんこんに関する資料をきめ細かに調べた。
リサーチの結果、中西氏主導での140年ぶりとなる「蓮根奉納行列」の再現、門真れんこんを使った「河内れんこん飴」や焼酎「蓮の宴(はちすのあかり)」の商品化、門真市による地域児童・生徒への門真れんこんについての体験学習ほか、さまざまな取り組みが行われていることが明らかとなった。

つまり、「伝統の継承」は中西さん主導で自治体が支援する形で行われており、「関西の食文化のイメージ向上」「地域振興」のいずれについても、門真れんこんが一定の役割を果たしており、関わる人員も増加していることが導かれた。
発表後は大阪府立大学観光産業戦略研究所の尾家建生客員研究員より「最初に目的をはっきりと明示して結論を導き出しており、わかりやすかったです。現場の方々に直接会ってヒアリングをしているところも素晴らしい」と講評をいただいた。
現場に飛び込む阪南大学の「実学主義」が功を奏した結果だといえるだろう。

取材をするほどに見えてきた、門真れんこんの魅力。

数ある「関西の食文化」の中から門真れんこんを選んだ理由は、研究メンバーの一人が門真市出身だったからだという。研究発表を行った上田君は「何が良いだろうと話し合っているうちに、そういえば門真れんこんってあるよって教えてくれて」と、地元出身の学生の声がヒントになったと教えてくれた。また「どんどん調べていくうちに、農家の中西さんにお会いする機会にも恵まれました。一聞いたら十答えてくださる。門真れんこんに対する真剣な思いをお聞きするうちに、こちらも当初よりさらに真剣になりました。11月頃からプレゼンテーションの準備を始めましたが、どんどん熱が入っていきました」と、現場の人に直接取材することの大切さを語ってくれた。
一緒に発表を行った鈴木さんも思いは同じだったようだ。「門真れんこんをもっと多くの人に知ってもらいたい。栽培の方法も若い世代に継承していきたい。そんな中西さんの思いをどうすればしっかり伝えられるだろうと悩みながら、プレゼンテーションを組み立てました」

実際のプレゼンテーションについて、上田君は「大学院(大阪市立大学)の方は、実験データを見せて、また高校生(奈良県立奈良朱雀高校)は明るいパフォーマンスと、いろんなプレゼンテーションの方法があるのだと実感しました。僕たちは真摯な思いを伝えたかったので、誠意を持ってきっちりプレゼンテーションすることを心がけました」と、鈴木さんは「シンポジウムでのプレゼンテーションは初めてだったので緊張しましたが、内容がしっかりしているという自信があったので安心して発表できました」と感想を述べてくれた。

「知らせる」というアクションが、地域振興を後押しする。

研究発表を見守った清水准教授は、「今回はツアーの企画ではなく、研究成果を伝えるというシンポジウムへの挑戦でした。何となく聞いたことがある“門真れんこん”が、地元では数少ない生産者の努力で栽培され、自治体が教育活動を行い、また両者が協力して多彩な普及活動を行っている。そんな現場の力を知るほど、学生たちが積極的になっていくのがわかりました。特に最後の半年は目を見張るものがありました。自分にできることは何かを考え、自分が動くことが門真れんこんを取り巻く現実へのレスポンスになるということを体得してくれたようです」と学生たちの成長ぶりを振り返った。そして「今回発表をお聞きいただいた250名の方々も、門真れんこんへの理解を深めてくださったはず。知らせることの大切さに気づいてくれれば、今後いろんな活動をする上でもきっと役に立つはずです」と、シンポジウムを体験したメリットについてもふれた。

また同じく研究発表を見守っていた国際観光学部の森山正教授は、「今回の国土交通省の研究発表には多数の応募があり、阪南大学はその中から選考され、当シンポジウムでの発表となりました。栄誉あることだと思います。食を観光の要素にするフードツーリズムは、入りやすい印象ですが奥行きの深い分野です。今回の発表は研究の基本がキチンと踏襲されていました。研究発表者が2回生ですからこれは教育として重要です。考えるだけでは現実が見えません。フィールドワークとの研究バランスが意味を持ちます。両方に視点を置きロジカルに発表が構成されていたので素晴らしい発表になったのだと思います」と研究の手法を高く評価。また「大勢の聴衆の前でしっかり思いを伝えられた成功体験は、自信を生み次のチャレンジに繋がります。これからの活躍に期待します」と清水ゼミにエールを送った。

地域振興から広がる未来。

昨年6月からスタートし、シンポジウムでの発表で完成した今回の研究は、学生たちのキャリアデザインにも少なからず影響を与えているようだ。
上田君は「将来は、地元の愛媛県松山市の市政に携わりたいと考えています。今回、門真れんこんの研究を体験したことで、市が地域振興において何ができるのかということを深く考えることができました。いつか参考にできればと思います」と、また鈴木さんは「エアライン業界を志望していますが、清水ゼミで着地型観光や地域振興について学び、観光を幅広い視野からとらえられるようになりました。これからももっと学んでいきたい」と、将来の目標を語ってくれた。
「観光は、Just idea ではなくアイデアを形にし、動きを作らなくては」と森山教授が指摘するように、ツアー企画や研究発表など、次々にアイデアを形にして動きを作り続ける清水ゼミ。この快進撃は、今後まだまだ続きそうだ。