香川県小豆島で現地調査を実施しました(1)

現地の方々と触れ合うことで、新たな発見がありました

 森重ゼミでは毎年、ゼミ生自身がフィールドワーク先となる地域を選び、その地域の課題を発見し、観光を通じて解決をめざす方策を考えるという取り組みを行っています。4期生となる今年度の3年生は、香川県小豆島を対象地に選び、「観光目的で訪れた人びとが地域に魅了されれば、移住につながるのではないか」という仮説のもと、調査・研究を行っています。
 4月から移住に関するデータや小豆島の資源情報などを集めてきましたが、9月7日(月)から5日間、現地調査を実施しました。現地では効率よく調査を進めるため、ゼミ生がアクティビティ、景観、特産物の3つのグループに分かれ、聞き取り調査や資源調査を実施しました。現地調査で得た成果や感想、今後の課題についてゼミ生がまとめましたので、これから3回にわたって報告します。
 まずはアクティビティについて調査したグループの報告です。当初はシーカヤックの体験などを計画していましたが、台風の影響で予定を変更せざるを得なくなりました。そこで、二十四の瞳映画村や醤油のまち、天狗岩丁場、馬木キャンプなどを訪れたほか、小豆島町役場への聞き取り調査を行いました。(森重昌之)

フィールドワークの様子

  • 二十四の瞳映画村にて

  • 大きな天然石・天狗岩

  • もう1つのエンジェルロード・城ヶ島

  • 現地調査に参加したゼミ生

  • 瀬戸内芸術祭でつくられた馬木キャンプ

  • 碁石山の頂上からの光景

参加したゼミ生の報告

小豆島の課題と新たな視点
 国際観光学部3年 絹田祐介

 9月7日(月)から9月11日(金)まで、香川県小豆島に4泊5日の現地調査合宿に訪れました。私たち森重ゼミでの研究テーマは「観光を通して観光客に移住を促す」で、研究を続けています。
 この研究テーマで研究を続けていくことになった経緯ですが、事前調査で小豆島について調べた結果、小豆島はオリーブや素麺などが有名ですが、その他にも映画の撮影現場や音楽フェスなどのイベントもよく開催されています。一方、小豆島では特に若者の住民が減っており、高齢者が増えている現状になっています。その原因として、高校や大学で島を離れる住民が多く、そのまま他の地域に定住する人びとが多く、Uターンで戻ってくる住民が少ないからです。
 こうした現状を打破しようと、小豆島では移住者を増やすために「移住フェア」というイベントを開催しています。このイベントは鳥取県や島根県でも行われています。小豆島の移住者は若者の子育て世代が多いため、「移住フェア」では仕事の相談や公共施設の充実度についての相談を受けています。その他に、都会を離れてのんびりしたいという理由も多いですが、定住できずに帰る方も少なくないそうです。
 そこで、私たちは最初から移住者を増やすことは難しいと考え、小豆島のすばらしさを知ってもらうために、まずは移住を考えている人びとをターゲットにするのではなく、私たちなりの観光マップと小豆島のすばらしさをより知ってもらうための動画を作成し、それを通じて観光に訪れた観光客に対し、移住を促すことはできないかと考えました。そのために、実際に現地調査に訪れ、いろいろな視点から見るために、景観を調べる班、アクティビティを調べる班、地元の特産物を調べる班に分かれて調査しました。
 私はアクティビティ班を担当しました。調査初日は、午前中に小豆島の観光スポットである二十四の瞳映画村や重岩、笠ヶ滝をまわり、午後から小豆島町役場の萬代さまから小豆島の現状やこれからの課題についてお話をうかがいました。初日の調査を通じて、私自身が感じたことが2つあります。
 1つ目は、観光客の目線で見た時に、1つ1つの観光名所がマップに詳しく書かれておらず、看板もわかりづらい場所にあるため、なかなか目的地にたどり着けなかったことが印象的でした。2つ目は、私たちが観光マップを通じて観光客の移住を促そうと考えていましたが、町役場の萬代さまのお話をうかがってから、ただ移住者数を増やすだけではなく、小豆島にとって良い影響を与えてくれる人材をどのように呼び寄せるか、そのしくみを考える必要があると感じました。
 さらに、小豆島にあるこれまでの観光マップとは違い、大学生目線の観光マップも良いと考えていましたが、小豆島の移住者の減少を考えると、移住者に向けたマップの方が小豆島の人びとにとってもプラスになるのではないかと感じました。これらを今後の課題として、マップの方向性を明確にしていきたいと思います。

現地の人と触れ合うことでわかったこと
 国際観光学部3年 合田絵里奈

 私たち森重ゼミ4期生は、小豆島に移住者を増やすための取り組みを研究テーマとして学んでいます。事前調査の中で、観光を目的にある地域を訪れ、それを機に移住するケースが少なくないということがわかったことから、私たちは観光目的で訪れた人びとに、「移住してみたい」と考えてもらうきっかけになるようなマップを作成することにしました。また、地域の動画を見てから観光地を訪れるということもわかったので、小豆島に訪れたいと思ってもらえるような動画を制作しようと考えました。
 9月7日から4泊5日の日程で、小豆島の現地調査を実施しました。私たちのグループでは、土庄町役場企画課の中村さまに紹介していただいた、「馬木に暮らす人びとと、馬木を訪れた人びとをつなぐしくみつくり出す場」である「Umaki camp(以下、「馬木キャンプ」という)」に聞き取り調査に行きました。馬木キャンプは、「瀬戸内国際芸術祭2013 醤の郷・坂手港プロジェクト」の作品として、大阪を拠点に活動している「ドットアーキテクツ」の設計・施行によって、馬木地区に建てられました。老若男女問わず、誰もが「建てる」ことに参加できるように建築されています。芸術祭終了後、馬木キャンプは教育や福祉などの公共空間として利用されています。
 馬木地区の住民の方の計らいで、地域おこし協力隊員である向井さまとお会いする機会を設けていただきました。移住を希望される方を対象に、実際に島暮らしを体験することができる「中・長期滞在施設」として空き家を買収し、改装中の建物を見学させていただいたほか、お話もうかがうことができました。
 私たちの研究内容に、向井さまは大変喜んでくださいました。私たちは観光者向けにマップを作成し、移住のきっかけになって欲しいとお話ししたところ、向井さまや消費者側のニーズとは違うことが明らかになりました。「小豆島は良いところだな」、「移住してみたいな」と思うきっかけは、メディアや雑誌などで取り上げられているため、すでにあるそうです。以前、移住体験で小豆島を訪れた方が、「小豆島で有意義に時間を過ごしたいので、移住者の話を聞いて周ることができるところを教えて欲しい」と尋ねられたところ、まとまった情報がないということに気づいたそうです。そこで、「移住は良い、してみたいな」と考えている方に、小豆島で移住したいと思ってもらえるようなマップを作成することは嬉しいとのことでした。
 今後の課題として、どのような消費者を対象にマップを作成するのか、より具体的にターゲットを選択していきたいと思います。今回の現地調査でいただいた貴重なご意見は、今後の議論の参考にしていきます。

小豆島に来て感じた地域の魅力
 国際観光学部3年 木村愛美

 観光目的で地域を訪問し、移住に関心を持ってもらえるようなマップをつくることを目的に、景観、食、アクティビティの3つの班に分かれ、小豆島で9月7〜11日まで現地調査を行いました。私が担当したアクティビティ班では、地域の人びとと触れ合える場や移住した際に役立つ場所をマップに載せたいと考えました。
 小豆島では、醤油が重要な地域資源の1つにあげられているので、ヤマロク醤油を訪問し、工場見学をさせていただきました。無料で見学できるにもかかわらず、醪が漬けられている樽の工房に入り、発酵する様子を間近で見ることができ、どれだけの手間をかけてつくられているかがよくわかりました。そして、醤油が完成するまでの工程をうかがうことができ、醤油という資源が小豆島の誇りであることを感じました。
 また、小豆島町役場の方からうかがったお勧めのスポットである「霊場巡り八十八ヶ所」の1つで、小豆島で最も古い歴史を誇る寺といわれている西ノ瀧も訪れました。西ノ瀧は、自動車がないと行くことが困難な場所にあり、看板も少ないので少しわかりづらかったですが、住職は地元でも有名な方で、「祈りの力」について貴重なお話をうかがうことができました。さらに、西ノ瀧から見える景色も、エンジェルロードや瀬戸内海に浮かぶ島々、四国などを眺めることができ、曇り空ではありましたが、絶景で感動しました。
 さらに、もう1つのお勧めして下さった天狗岩丁場では、◎印や◯印などが入ったたくさんの岩が残されていました。これらの岩は大阪城修復のために切り出された岩で、どの家から運び出された岩かわかるように刻印がつけられていました。600個あまりの残石があり、小豆島の石の歴史と文化を体感できました。小天狗岩という岩のトンネルをくぐると、森の中に17.3メートルもある巨大な高さの大天狗岩があり、神秘的で自然のパワーであふれていました。
 今回、小豆島で現地調査を行った結果、自然の美しさはもちろんですが、地域の方々も人びとを呼び込もうと毎月イベントを開催し、地域を盛り上げている様子が見られました。同時に、住民の方々の優しさを強く感じました。目的地がわからず道を尋ねた際にも、わざわざ仕事の休憩中に自動車を出して案内をしてくださったり、住民の方から挨拶や気さくに声をかけてきてくださったりするなど、おもてなしの精神があふれた地域であることを感じました。このように、新しい魅力を発見できましたが、課題も見つかったので、今回の調査で得たことを整理し、マップづくりに生かしたいと思います。

マップの内容が段々と明確になった町役場での聞き取り調査
 国際観光学部3年 吉田知奈

 フィールドワーク1日目の13時、事前に連絡を取らせていただいた小豆島町役場企画部担当の萬代さまにお時間を割いていただき、聞き取り調査を行いました。移住者に関する資料をたくさん用意していただき、萬代さまご自身もUターンで移住をされていた方でしたので、熱心に対応してくださいました。
 萬代さまのように、Uターンで移住される方の割合は2、3割だそうで、その他の移住者はIターンが多いとのことでした。その理由として、移住した先でのんびり過ごしたいと考える方が多いようです。しかし、実際はイメージ通りにはいかず、近所付き合いに疲れたり、トラブルを起こしたりして帰ってしまう方も少なくないとのことでした。その中で、移住して、「カフェを開きたい」、「ここで良い作品を作りたい」、「イベントに魅せられたので自分も参加したい」と考えている人びとを、どのようにして小豆島に呼び込むかということが課題になっています。
 小豆島町役場では、「小豆島に移住してください」とPRするだけでなく、「まず小豆島に来てみませんか、良い島ですよ」とPRし、観光を通じて人口を増やしていくことを目標にしているとのことです。そして、移住を後押しするような取り組みも多く、空き家バンク制度や中・長期滞在施設の充実、起業される方への600万円の援助金などがあります。特に移住した時のイメージがしやすいように、長期にわたって空き家を借りることもできるそうで、小豆島での暮らしを体験しながら移住した時の仕事を探すこともできるなど、移住希望者にはありがたい特典が盛りだくさんでした。
 このような移住に対するお話をうかがって、協力していただいている小豆島の皆さまに喜んでいただけるようなマップをつくらなくてはならないという使命を感じました。萬代さまだけでなく、馬木キャンプで出会った向井さまや、ワールドカフェを開催されている慈空さまの移住に対する思いをうかがって、それまでは「観光目的で来た人に移住したいという気持ちを呼び起こすようなマップづくり」を目的としていましたが、すでに移住したいと考えている方に対し、どのようにして小豆島に目を向けていただくかということを目的とした方が良いのではないかと気付きました。そして、今回のフィールドワークを通して、小豆島に住んでいる地域の方々の優しさや人柄に触れ、自分たちの自己満足に終わらせるのではなく、地域の方々と触れ合い、活動にも積極的に参加したいと地域のために働いていただける移住者をターゲットに絞り、マップ・動画をつくることがご恩返しになると感じました。そのために、またこれからゼミの皆んなと意見を出し合い、11月末に行われる学会発表、最終目標のマップ・動画作成に向けて頑張っていきます。

それぞれの人の立場から小豆島の移住を考える
 国際観光学部3年 久保田萌子

 9月7日から4泊5日のフィールドワークを行いました。小豆島での移住マップの作成のため、観光地での写真撮影や情報収集、移住された方や地域住民への聞き取り調査を行いました。
 私は今回初めて小豆島を訪れたのですが、予想以上にきれいな景色に驚きました。晴れの日に高台から見る島、海は絶景です。古民家がかなり多く、高い建物が少ない、また公共交通は一部の地域にバスが走っているだけなので、島の中にはゆったりとした時間が流れているように感じます。その分、島全体での人と人とのつながり、知り合いのネットワークが強いと住民の方がお話ししてくださいました。
 住民の方たちが集まる場所である馬木キャンプで、小豆島役場の万代さまや近所の方が紹介してくださった向井さまからお話をうかがいました。
 おふたりは、日本各地から小豆島への移住を希望する、あるいは考えている方の相談役やお手伝いをされています。移住する方は田舎や自然を求めて都会から来る方ばかりではなく、新しい人生を始めるきっかけや親戚の家を継ぐためなど、さまざまです。明確な理由がなく、十分に考えずに移住した方の場合、期待していたものと違った、飽きたと言って、1、2年で元の地域に帰られることもあるそうです。そのため、移住者が増えることは良いですが、長く、できれば永住していただける方を増やしたいそうです。具体的には、小豆島出身の方と結婚した、島内で仕事を見つけた、より長く住む予定のこれから家族が増える若い方などです。
 移住を決め、情報を集めている方に、もっと現実的に小豆島を感じてもらうための「空き家プロジェクト」があります。誰も住まなくなった古民家の空き家を利用して、そのような方々に実際に数週間生活体験をしていただくというものです。島内のいろいろな場所へのアクセスや気候、ホテルではなく家での生活体験、近所の方とのコミュニケーションのためです。これまで放置されていた空き家がこのように再利用され、人の役に立つことは良いことだと感じました。
 また、私たちのグループは、いくつかの寺や神社を訪れ、住職や神主からも貴重なお話を聞くことができました。十数年前に小豆島に移住された住職は、「移住者とはどういう人のことを指すのか」と私たちに尋ねられました。例えば、「関西のある市から隣の市に引っ越したら移住なのか」ということです。その方は、1人でも親戚が島内にいる場合はその人の親戚として受け入れられますが、親戚がいないと地域住民とある程度仲良くなるものの、「移住者」と呼ばれ続けることに違和感を持っておられるようでした。
 このことから、私は小豆島に移住者を増やすための活動を行うにはさまざまな意見があることを理解し、いろいろな人の立場に立って考える必要があると思いました。また、小豆島を知って興味を持っていただく、移住を考えている人に何か決め手をつくる、移住して良かったと思っていただくために、私たち発信する側は有名な観光地だけでなく、生活のための情報を届ける、小豆島を好きになり、心から伝えるべきだと感じました。