宿泊客の増加に向け、出雲でフィールドワークを行いました(3)

市役所や観光協会で聞き取り調査を行いました

 森重ゼミ3回生は、島根県出雲市の宿泊客数の増加に向けた取り組みを検討するため、9月16日から4日間、出雲市を中心にフィールドワークを実施しました。フィールドワークの前半は松江市や出雲市の観光資源の視察が中心でしたが、視察の結果を踏まえ、後半には出雲観光協会、出雲市役所観光交流推進課への聞き取り調査を実施しました。最終回となる今回は、出雲市内のメインとなる観光資源の出雲大社や日御碕などの視察結果に加え、聞き取り調査で得た成果ついて、ゼミ生が報告します。(森重昌之)

当日のフィールドワークの様子

  • 出雲観光協会での聞き取り調査の様子

  • 出雲大社にて

  • 出雲市役所での聞き取り調査の様子

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参加したゼミ生の報告

出雲の歴史、神話を理解するために
国際観光学部3年 奥政嘉

 私たち森重ゼミ3回生は、9月16日から19日までの4日間、島根県出雲市の宿泊観光客を増やすためには、どのようにしたら良いかという課題のもとに、フィールドワークを実施しました。その中で、私は島根県立古代出雲歴史博物館について報告します。
 この博物館は、出雲大社や島根ワイナリーなどの主要な観光地に近く、また出雲市駅から自動車で約20分という立地にあります。一般駐車場には自動車244台、観光バス15台が駐車できるなど、受け入れ体制も整っています。また、建物も新しく、とてもきれいでした。
 館内は、出雲大社と神話の国のまつわり、出雲国風土記の世界、青銅器と金色の大刀など、出雲や島根にまつわるさまざまなテーマ別に展示されていました。他にも、島根県や出雲市内にある観光地のパンフレットが置いてあるコーナーがあり、ここに来ると複数の施設の情報を得ることができるため、観光客にとってはうれしいことだと思いました。その中で、私は銅剣と銅鐸が展示されている場所が一番印象に残りました。特に、銅剣は数百枚単位で展示されていて迫力があり、すごく引き付けられるものがありました。
 この博物館で良かった点は、ボランティアガイドが充実していて、1人で見ているよりもより深く見学できる点です。模型などもあり、文章だけではわかりにくいものも実際に見て見学できます。また、シアターがあり、神話について映像で見学できる点も良かったです。特にシアターは、映画館のような広いスペースで、時間帯別で4つの神話を見ることができ、内容も非常にわかりやすかったです。また、一話一話が短いこともあり、複数の神話を見ることができる点が、神話について理解を深めることには良かったと思います。
 さらに、館内にはカフェもあり、自然の中に建てられているため、自然を眺めながら食事ができました。おみくじがついているメニューもあり、縁結びで有名な出雲大社を感じられました。
 今回、島根県立古代出雲歴史博物館を調査して、この博物館にはボランティアガイドの方がたくさんおられました。資料や豊富な知識のもと、丁寧に館内の展示物について説明していただき、非常にわかりやすかったです。そのため、この施設を利用して、歴史的なことや神話、出雲の出来事をより多く知ることができ、今まではあまり知られていなかった出雲について学ぶことで滞在時間が長くなり、その結果出雲に宿泊してもらう可能性を考えました。今後は今回調査を行った他の観光施設や観光スポットをもとに、複数を観光の対象にしてもらうことで、宿泊観光客を増やすにはどのようにすればよいかについて、さらに考えていきます。

人の温かみと自然あふれる鵜鷺地区
国際観光学部3年 岡島美紀

 9月16日から19日にかけて、島根県出雲市へフィールドワークに行きました。今回、私は出雲大社の裏山に位置する鵜鷺(うさぎ)地区を調査しました。
 鵜鷺という地名は地図にはなく、出雲市大社町の鵜峠(うど)地区と鷺浦(さぎうら)地区を合わせて鵜鷺地区といいます。ここでは、「鵜鷺げんきな会」の方が主催している塩炊きと豆腐づくりを体験しました。鵜鷺げんきな会とは、過疎化が進む鵜鷺地区の活性化に積極的に取り組んでいる団体です。鵜鷺げんきな会のコミュニティセンターは、廃校になった中学校の校舎を活用しています。
 塩炊きは、七輪と濃縮済みの海水を使ってつくる1時間程度の体験でした。海水を鍋で煮詰め、水分をある程度蒸発させ、布でこすと塩ができあがります。布でこした時にできたにがりを使って、豆腐もつくりました。電子レンジでできる簡単なものでした。豆腐が固まるのを待っている間、教室に展示されている機織り機や洗濯板、黒電話などの昔の生活道具や軍服、戦争資料などの貴重な資料を見学することができました。どの道具も私たちにとって馴染みのないものばかりだったので、とても興味深かったです。
 また、鵜鷺げんきな会の方のご好意で30分程度の小型船のクルージングやまち歩きにも連れていっていただきました。地元の人しか知らない、赤い石見瓦の屋根が連なる家並みや海岸線が一望できるスポット、地元の方が手掘りでつくったトンネル・鷺浦隧道などに案内していただき、まちの歴史や文化のお話も聞くことができました。クルージングでは出雲神話に出てくるスサノオノミコトとコトシロヌシノミコトを合祀して、海上安全と豊漁を祈念した柏島や自然にできた洞窟、タコの形をした島など、いくつかの小島を周遊しました。夕方には海に沈む夕日を見に行くサンセットクルージング、夜には水面に海ホタルがきらきらと光っている様子や漁火を鑑賞することができます。今回はお昼に訪れたので、残念ながら夜の様子を見ることはできませんでしたが、夕方・夜のクルージングや塩づくり体験をするために遠方からの観光客もあるそうです。
 今回、塩炊きや船の案内をしてくださった安部さんは県外で就職して、定年前にこのまちの自然が好きで、鵜鷺地区にUターンされたそうです。コミュニティセンターには、観光に来た方からのお礼のお手紙が飾られており、そこからはこの地域の方々の温かさが感じられました。私も島根県にもう一度訪れる機会があるなら、この地区を訪れたいと思います。なぜならお礼の手紙が何通も届いていることも表れているように、この地の人びとは人柄が良く、さらにこの場所は自然豊かで素晴らしいところだからです。このまちにまた再び戻って来て住みたいと思う気持ちがよくわかりました。鵜鷺地区には魅力的な観光資源が多く、銀山の先駆けをなした歴史ある銅山や、一定の条件が揃うときのみ出現する幻の滝など、1日楽しめるスポットが多くあるように感じました。

日御碕灯台の魅力を再発見
国際観光学部3年 井上さやか

 9月16日から19日にかけて、島根県出雲市に宿泊者数を増やすための現地調査に行きました。
 島根県出雲市は、「神話の国 出雲」として全国に知られているように、出雲大社、須佐神社、荒神谷ほか、豊富な歴史・文化遺産に恵まれ、古代史文化のシンボル空間を形成しています。また、出雲大社が遷宮60年を迎えるなど、最近注目を浴びています。
 今回私たちは、3日目に日御碕の突端に立ち、日本一の灯塔の高さを誇る石造灯台「日御碕灯台」に登ってきました。周辺は、大山隠岐国立公園の一部となり、日本海を臨む景勝地です。また、「碕」の字がつく唯一の灯台でもあります。世界灯台100選や日本の灯台50選に選ばれた日本を代表する灯台で、歴史的文化財的価値が高いため、Aランクの保存灯台となっています。
 自動車から降りた瞬間の潮の香りに、私は衝撃を受けました。その香りをたどっていくと、雰囲気漂う素敵な飲食店やお土産屋が並んでいました。そこにはひときわ目立つ、古くからある定食屋があり、そこに入っていきました。すると、見たこともないような鮮やかな色をした海鮮丼が出てきました。その海鮮丼を美味しくいただいた後、また灯台をめざして歩き始めると、白くそびえたつ灯台が見えてきました。その灯台の下にたどり着き、163段ある螺旋階段を必死に登っていきました。やっとのことで展望台にたどり着くと、目の前には360度広がる絶景があらわれました。この景色は「日本の自然百選」のひとつで、奇岩や絶壁など大迫力の景観でした。灯台の上は風が強く、9月でも寒かったですが、感動的な景色に心奪われ、その寒さすらも忘れることができました。そして、その長い階段をゆっくり下りた後には、崖から壮大に広がる夕日が待ち受けている予定でしたが、私たちは今回運悪く、眺めることができませんでした。1日目も宍道湖で夕日を見る予定でしたが、私たちの中に雲女、雲男がいるのか、見ることができませんでした。今日こそはと期待していましたが、今日もまた雲女、雲男のせいか見ることができず、非常に残念でした。これは私たちの運が悪かったのか、「またここにおいで」という出雲の神様からのおつげなのかと私は考えました。また、皆でここに夕日を見に帰って来なければならないなと感じました。
 今回、玉造温泉がある松江市ではなく、出雲市の宿泊者数を増やすための魅力を探してきましたが、この日御碕灯台の景色は大きな魅力のひとつであると強く感じました。日御碕灯台だけではなく、出雲市の夜や朝の魅力を探っていきたいと思いました。

悪縁を断ち切り良縁を招く、全国の神々の集う出雲大社
国際観光学部3年 小原奈珠

 私たちは今回、出雲市の最大の魅力でもある出雲大社と神門通りに行きました。
 まず、出雲大社まで続く神門通りには、お土産屋やカフェ、軽食店、古い旅館、昔ながらのお店が立ち並び、とても風情がありました。もともとアスファルトであった通りが、石畳に変えられたそうです。また、通りには「神門通りおもてなしステーション・大社観光案内所」があり、出雲市についてのパンフレットがたくさん置かれていたほか、職員の方が丁寧に出雲市の観光について教えてくださいました。ここでは、定時ガイドの受付も行っているようでした。
 私たちは、いくつかのグループに分かれて、出雲名物である出雲そばを食べに行きました。神門通り付近には多くの出雲そば屋があり、私たちのグループは「かねや」というところに行きました。私は三色割子の5段を注文しました。それは、1段目が玉子、2段目がとろろ、3段目がもみじおろしに葱と海苔という中味です。そばは少し太めの出雲そばで、独特の黒い挽きぐるみはとても美味しかったです。また、この店は終始満席で、そば湯をいただく暇のないほどでした。次回はぜひ、そば湯もいただきたいと思います。
 そして、出雲大社は朝、夜と2度参拝し、それぞれの魅力を探しました。まず、夜はライトアップがしているかもしれないという話だったのですが、毎月1日と15日、お祭りの日しか行われていないようで、当日は残念ながら見ることができませんでした。そして、午後8時で閉門になってしまうため、拝殿で参拝できましたが、本殿まで行くことができませんでした。
 翌朝、再度、出雲大社へ参拝に行くと、まだ早い時間にもかかわらず、結構参拝客がいらっしゃいました。出雲大社内には、出雲神話に沿った像がいくつか並んでいました。私たちは観光客のように手や口を清め、本殿で賽銭を入れ、礼を2回、その後4回手をたたき、手を合わせ、最後に再び礼を1回し、本殿の参拝を終えました。このように、出雲大社の参拝の方法は、全国でも珍しく「二礼四拍手一礼」の方式で行います。その後は、それぞれおみくじや恋みくじを引いたり、お守りを買ったりするなど、それぞれいろいろな意味で「良縁がありますように」と願いをこめました。私は、今までたくさんの神社に行きましたが、こんなに綺麗ですばらしい神社に初めてめぐり会えたように思いました。初めは正直、神社なんて堅苦しい感じがするなと思っていましたが、とても楽しく、本当に貴重な経験ができました。また、このメンバーでお礼参りとして参拝できればいいなと思いました。

出雲市の課題が明らかになった聞き取り調査
国際観光学部3年 福崎美帆

 9月16日から9月19日まで島根県出雲市を訪れ、出雲市の魅力を知るための現地調査を行いました。出雲市の観光客数は島根県下でも群を抜いており、常に上位に位置しています。その一方、宿泊客数を調査すると、出雲市よりも松江市のほうが約4倍もの宿泊客数であることがわかりました。そこで、2014年度のゼミ活動は「出雲市の宿泊客を増やす」ということをテーマにして、ゼミ研究を始めました。現地調査の前半は出雲市にある観光資源を回り、宿泊客増加につながる素材を探しました。
 3日目に出雲観光協会の方から聞き取り調査を行いました。出雲観光協会は主に旅行会社を対象にした情報説明会をしたり、雑誌などで出雲の特集を組んでもらうよう出版社を訪問したりするなど、広報活動を中心に行っています。聞き取り調査は現地を訪れる前にメールで質問していた内容に沿って行われました。
 聞き取り調査の中で浮かんだ出雲市における観光の課題は、3つあります。1つ目は観光客の訪れる時期のバラつきをどのようにするかということです。出雲市の観光のベストシーズンは9月から11月です。この時期はレンタカーやレンタサイクルも予約が困難になるほど、観光客でいっぱいになります。しかし、冬季には観光客がピーク時の約5分の1になってしまい、梅雨時も観光客が少ない状況に陥ります。観光協会としては、「食」を全面的に押し出した企画を考えているとおっしゃっていました。
 2つ目は宿泊施設の問題です。出雲市は宗教的な理由から毎年一定の宿泊客数を見込むことができ、宿泊客数と施設数のバランスを保っていました。しかし、近年は信者数が減り、そのバランスが崩れてきています。同時に宿泊施設の経営者の高齢化が進み、数年後には施設自体の数が減少するのではないかといわれています。もともと出雲市の宿泊施設の数が少ないため、観光客が出雲市内に泊まりたくても泊まれないという状況が生まれているのかもしれません。観光協会によると、昨年の式年遷宮の時期は、出雲市にはすべての宿泊客を賄うだけのキャパシティがなかったため、他県や他市と協力してPRを行ったとうかがいました。
 3つ目はインバウンドへの対策です。島根県は交通の便が悪く、県内に到着してからの移動は、レンタカーがなければとても不便です。そのため、島根県を訪れるインバウンド数は全国ワーストの上位だそうです。インバウンドが訪れていただけないので、クレジットカードが使えない店舗も少なくないなど、受け入れ体制もあまり整っていません。観光協会でうかがった話から推測すると、宿泊施設や地元住民はあまりインバウンドの誘致に積極的でない印象を受けました。これらの対策にはまだまだ時間がかかりそうです。
 今回聞き取り調査を行った結果、出雲市の持つ観光の課題点について詳しく知ることができました。出雲市は10月に神在月を迎え、最も良い観光シーズンが訪れます。現在は式年遷宮の影響で観光需要が高まっていますが、これからは2、3年後を見越した観光戦略を考える必要があると、観光協会でうかがいました。今回のフィールドワークを活かし、観光客と出雲市にとって相互に良い結果とはどのようなものか、研究を続けたいと思います。

官民一体の観光施策の必要性
国際観光学部3年 東祐里

 フィールドワーク最終日にあたる9月19日に、出雲市役所にヒアリング調査にうかがいました。私たちは、出雲市の宿泊者数を増やそうということを目的とし、そのために新たな観光資源や魅力、特に朝と夜の魅力を探そうと調査を行いました。16日から4日間にわたり、ゼミ内でグループを分け、さまざまな観光資源を調査してきたことを踏まえ、観光交流推進課の園山博之係長からお話をうかがいました。
 出雲市では、昨年から行われている出雲大社の平成の大遷宮の影響から、観光入込客数は1,500万人超を記録し、大きく増加しました。しかし、宿泊した方は58万人と増加はしているものの、観光入込客数ほどの増加は見られませんでした。園山係長もキャパシティが十分ではないことが課題だと考えておられ、私たちも同様に感じていました。それに対し、今年6月から3年間、宿泊機能を強化する対策として、新築や増改築した宿泊施設に固定資産税相当額を補助するという政策が施行されました。まだ適用された施設はないそうですが、現在新たに建設される予定の施設がいくつかあり、それらに適用される見込みだということでした。また、私たちが重要視していた朝夕の取り組みについてはまだ行われていないということでしたが、これから検討したいという回答をいただきました。
 ヒアリング調査の中で私が課題だと感じたことは、朝夕の魅力が少ないこと、PRの方法の2点だと考えました。まず、朝夕の魅力は宿泊者数を増やすには欠かせない課題だと考えます。私たちが調査した中で朝に出雲大社へ参拝すること、日御碕で夕日を見ることは魅力になると感じましたが、まだまだ宿泊者数を増やすには魅力が少ないと感じました。PRでは、出雲市内のあまり知られていない観光資源をもっと知っていただくためのPRが必要だと思いました。
 市役所へうかがうまでの3日間で可能な限り多くの観光資源の現状を調査し、ヒアリング調査を行いましたが、私たちが課題と感じた点と市役所が課題としている点は合致するものが多かったです。しかし、政教分離の考え方から、市役所では対処できない問題もいくつかあるようです。それに加え、島根県では広域で連携している民間団体が多く、なかなか出雲市だけをクローズアップして取り組んでいくことが難しい現状だともおっしゃっていました。民間と行政でお互いにできないこと、足りない部分を補い合うことで、さらに出雲市の観光が発展できるようになればと思いました。そのためにも、今回のフィールドワークで得た知識、感じたことをみんなで分析し、これからの発展や問題解決に協力していきたいです。