2017.11.2

【松ゼミWalker vol.233】シンポジウム「簡宿営業から大阪の宿泊業を考える」開催

【松ゼミWalker vol.233】シンポジウム「簡宿営業から大阪の宿泊業を考える」開催

 2017年10月17日(火)午後,阪南大学あべのハルカスキャンパスにて,大阪府簡易宿所生活衛生同業組合(以下は簡宿組合)主催・阪南大学国際観光学部松村研究室(以下は松村ゼミ)共催で,シンポジウム「簡宿営業から大阪の宿泊業を考える」を開催しました。
 2015年頃から,訪日外国人観光客数は急激に伸び,大阪のインバウンドは日本全体をけん引するほど好調ですが,この傾向は今後も続くのか,一体どのくらいの水準で落ち着くのでしょうか。訪日外国人観光客が急増するにともない,大阪市内では,宿泊施設不足が深刻な課題となりました。その一方で,ここ数年,宿泊施設の建設ラッシュが起き,違法なものも含めて民泊が急増しつつあります。そうした混沌とする激動のなかで,観光立国を目指して,大阪の簡宿営業は将来,どのような道を歩むべきなのか,そもそも宿泊業やインバウンド施策はどうあるべきなのでしょうか。ここ数年,松村ゼミでは,急増する民泊や,旅館業法の許可を得た宿泊施設の実態調査を進めるなか,学生たちと先に述べたような学習と議論を積み重ねてきました。
 近年,簡宿組合も,西成区を中心とするローカルな組織から脱皮して,より広く,大阪市内各地に立地展開し始めた簡宿にも仲間に入ってもらい,新たなステージで活躍することが期待されています。既存の宿泊産業と競合する存在となった民泊は,観光立国というよりも,空きマンションや空き家ほか,居住用遊休不動産の有効活用という観点から推進されてきました。特に大阪市内の都心部で急増した民泊は,現状その大半が,違法営業を行っていて,その実態は行政も,民泊を仲介する業者ですら把握できていません。そこで,今一度,観光立国の原点,「住んでよし訪れてよしの国づくり」の初心に立ち返り,今後予想される激動の時代を占うべく,大阪インバウンド施策や宿泊業のあるべき姿を考えよう,とこのシンポジウムが企画されました。
 簡宿組合の杉浦正彦事務局長が東奔西走して,各方面へ働きかけてくださったおかげで,シンポジウム当日は錚々たるパネリストが登壇しました。パネリストは,国土交通省近畿運輸局観光部観光企画課の森下孝一さん,大阪市経済戦略局の萩原健一さん,大阪観光局の吉本昌史さん,南海電鉄インバウンド事業部の矢野到さん,ホテル中央グループの山田英範さん,ゲストハウスコマの宮本敦史さんの6名。観光行政と現場の最前線を熟知する方々が参加,司会は松村嘉久が担当しました。聴衆は,松村ゼミから2回生から4回生までの30数名が参加,簡宿組合関係者や一般聴講者も含めると,60名を超える人たちが集まりました。

 さて,2時間以上におよんだシンポジウムのなかで,いくつかの重要な知見が得られました。第一に,訪日外国人観光客が天井知らずに急増し続けることはあり得ず,島国日本へ来るまでの輸送手段の課題,航空機が離発着する国際空港の物理的制約などから,必ず成長の限界が来るだろう認識が共有されました。次に,訪日外国人観光客の増加傾向と比べて,大阪市内のホテルに宿泊した訪日外国人観光客はそう増えていないというデータから,韓国人や中国人などアジア系観光客を中心として,かなりの人たちが民泊に宿泊していることが確認されました。
 簡易宿所の今後の在り方としては,二つの方向性が共有されました。第一は,簡易宿所が集積する新今宮エリアに関しては,地域へ新たに進出してきた簡宿やホテル,良質な民泊も含めて,様々な主体で有機的なネットワークを築き,エリアとしての魅力をもっと高めて行く必要がある,という認識が共有されました。第二は,新今宮エリア以外に分散立地する簡宿に関しては,相互交流を深めネットワークを築き,経営ノウハウを磨き,合法的なゲストハウスとしての魅力を高め,発信して行こうということになりました。
 聴講者へのアンケートの結果を見ると,今回のシンポジウムはおおむね好評でした。今後も,関係各所やゼミ生のリクエストも聴きながら,ぜひ次の企画を考えて行きたいと思います。