【松ゼミWalker vol.217】 NHKBSプレミアム地域発ドラマ『アオゾラカット』のロケ(教員 松村嘉久)

『アオゾラカット』実現までの道のり

 もう2年ほど前の2015年4月,NHK大阪放送局の尾崎裕和という方から,「西成をご案内いただけませんか」という丁寧なメールが届きました。私の大学アドレスには,大学の公式ウェブサイトの記事を見たというテレビや新聞の記者から,よくこのようなメールが来ます。西成区あいりん地区は,地元の事情や背景をよく知る人から説明を受けないと,なかなか理解が深まらない街なので,このような依頼があれば,私は日程調整して,可能な限り引き受けることにしています。
 この10年ほどで私がこの地域を案内して回った人数は,メディア関係者だけでも200名近くいて,色々な知合いや大学関係者などからも依頼が来るし,阪南大学の学生のフィールドワークなども含めると,総計で優にのべ1,000名を超えます。
 尾崎裕和さんもそのうちの一人だったのですが,案内当日に名刺交換すると,「制作部ディレクター」という肩書で,朝の連続テレビ小説,いわゆる「連ドラ」を担当されているとのこと。私がよく案内するNHK関係者は,たいてい「報道部」所属の記者の方で,「制作部」の方は初めてでした。西成を歩きながら,なぜ取材されるのかとお尋ねすると,「西成で地域発ドラマを撮影する企画があり,その構想を練るため取材に来ました」とのことでした。どこをどう案内したのか,細かい記憶は定かではありませんが,外国人旅行者対応の進む国際ゲストハウス街の様子を中心として,いつものコースを尾崎さんのリクエストも聞きながら適当に歩き,大衆演劇のOS劇場や西成ジャズもご案内したかと思います。
 その案内からずいぶんと時間が経過して,2016年8月末,再び尾崎さんから「お久しぶりです」と連絡があり,「今度はドラマの脚本家も連れて行くので,もう一度,同じコースでいいので,ご案内いただけないでしょうか」,との依頼でした。その際ご紹介いただいたのが,脚本家の土橋章宏さんでした。土橋さんは大阪のご出身でしたが,西成区あいりん地区の土地勘はほとんどなく,脚本を書くため地域のイメージをつかみたい,とのことでした。その時もやはり,私はお二人を,いつものコースへとお連れしましたが,映画『超高速!参勤交代』で,第38回日本アカデミー賞で最優秀脚本賞を受賞されたという土橋さんから,色々と貴重なお話を伺いながら歩きました。

 土橋さんをご案内してからの展開はとても早く,2016年11月,尾崎さんから「ようやくドラマの制作が決まり,台本も仕上がりました。西成ロケに入りたいのでぜひご協力いただけませんでしょうか」との連絡が来て驚きました。
 お会いして詳しいお話を伺うと,「新今宮TICでもロケしたい」,「配役も放送日も決まっていて,ロケは2017年の1月から2月に行う予定です」とのことでした。関係者のひとりとして,取扱注意で台本も見せていただき,「このシーンのイメージにあうようなロケ場所,どこか思いつきませんか」などと相談を受けました。ドラマ自体は,スピード感あるストーリー展開で,コミカルなシーンが印象に残りました。
 ドラマの主役は林遣都さん,ヒロイン役に川栄李奈さん,主役の父親役に吉田鋼太郎さん,放送予定日は2017年3月15日(水)で,BSプレミアムの22時から22時59分までの全国放送とのことでした。やると決まれば待ったなし,次々と仕事をこなしていかなければ間に合わない…,メディアの厳しい世界を垣間見た気がしました。

新今宮TICでのロケ撮影

 さて,『アオゾラカット』のロケ協力について,ゼミに持ち帰って相談すると,当然ながらみんなは大賛成。松村ゼミと関係するロケ地は,新今宮TIC,西成WANの現場,ホテル東洋の三ヶ所。このうち,新今宮TICのロケと絡んでは,古くなっていた手描きの地図をゼミで描き直すことになりました。ホテル東洋では,雰囲気づくりのため,ロビーの壁に,西成WAN協力アーティストのCASPERさんがグラフィティを描くことになりました。CASPERさんはさすがプロ,西成WAN第三弾で余ったスプレーだけを使って,わずか2時間ほどで左の作品を仕上げました。今ではずっと前からそこにあったような存在感を放っています。新今宮TICの手描き地図は,2年生が中心となって,12月中旬のゼミの時間を利用して仕上げました。
 さて,2016年11月末,NHKドラマ制作班が新今宮TICの下見に来られた際,ゼミ3年生の大嶋千波さんの予定がたまたま空いていたので,新今宮TICへ同行してもらいました。美術スタッフがあちらこちらをメジャーで測定したり,写真撮影したりするなか,尾崎ディレクターから「新今宮TICのスタッフで誰かエキストラとしてご協力いただきたいのですが,彼女をお借りしてもいいですか」とリクエストがありました。台本によると,新今宮TICのロケは主役の林遣都さんが訪ねて来るシーン,大嶋さんは「それって遣都君と会えるってことですよね,ありがとうございます」と当然OK。

 新今宮TICでのロケ撮影は,2017年1月24日(火)に行われました。撮影本番は大嶋さんの予定も考慮して,早朝8時から9時過ぎと,夕方の17時30分以降の2カットとご配慮いただきました。この2カット撮影の合間に,南海新今宮駅ホームでのシーン,西成WAN第二弾の壁面前でのシーンなどを撮影されるとのことでした。ドラマの撮影はシーンごとに分けて,ストーリー展開の前後は関係なく,バラバラに行うそうで,役者さんは大変だなと思いました。
 新今宮TICロケで,TICの内装や外観はそのままでしたが,ホテル中央の看板は,美術スタッフが作成した架空の「ホテルストライク」になっていました。ホテル東洋のロケでは,「ホテルホームラン」にかえられたそうです。
 私はこの日,夕方から始まる大阪府簡易宿所生活衛生同業組合の新年懇話会へご招待されていて,後半の撮影は残念ながら見守れませんでした。午前の撮影は松村も見守ったのですが,何名かいた外国人エキストラのうち,数名はホテル東洋の宿泊客で顔見知りもいました。夕方からのロケ対応はすべて大嶋さんに任せました。

 ドラマ撮影に臨んで私が驚いたのは,何よりもスタッフの多さでした。NHKの取材を何度か受けたことがありますが,報道の場合は,たいてい,カメラと音声と記者の3人だけで来られます。ドラマ撮影の場合は,カメラの台数も多く,メイクさんやら美術さんやら役者さんや付き人など,総勢30名くらいは現場にいました。
 強い寒気が到来して風も強い日の野外ロケだったので,主役の林遣都さんも外国人エキストラも,みんなさすがに寒そうでしたが,夕方の撮影も順調に終わりました,と大嶋さんから報告があり,私は安心して,新年懇話会から直帰しました。
 2017年3月15日(水)にNHKBSプレミアムで,午後10時から放送予定の『アオゾラカット』,私は出演していませんが,「協力」で名を連ねることになりそうです。エキストラとして参加した大嶋千波さんは,映像に映り込んでいるかもしれません。CASPERさんが描いたホテル東洋ロビーのグラフィティ,松村ゼミ2年生が手描きした新今宮TICの地図,それらがどのくらい映り込んでいるのか,ゼミのみんなで注目して放送を見たいと思います。