【松ゼミWalker vol.205】 京橋をフィールドワーク(教員 松村嘉久)

京橋の商店街の魅力を探る

 2016年6月26日(日),京橋界隈のフィールドワークに,ゼミ有志と参加して来ました。松村ゼミから参加したのは,三宅亜紗未・阪上千里・西崎拓真の3名。3名とも3回生で,京橋界隈をじっくりと歩いた経験は,全くなかったそうです。私たちの他にも,大阪市立デザイン教育研究所の塩崎浩之先生が,学生2名と参加されました。
 ご案内していただいたのは,京橋地区商店会連盟協議会の玉置紘一会長,居酒屋グループ千隆の木林愛之社長。京橋界隈を知り尽くした地元の名士お二人に加えて,大阪商工会議所東支部から,友田裕之事務局長と金城秀男経営指導員も,ご案内に加わっていただきました。
 なぜ,このメンバーで京橋をフィールドワークすることになったのか。少し話は長くなりますが…。京橋界隈は大阪を代表する商業集積地で,JR環状線・JR片町線・京阪電車・地下鉄長堀鶴見緑地線が乗り入れる,交通の要衝でもあります。近年の訪日観光ブームで,京阪電車で京都へ向かう外国人旅行者も増え,ホテル京阪京橋ほか京橋界隈の宿泊施設に泊まる外国人客も増えています。増えつつある外国人客に,京橋界隈での飲食やまち歩きをもっと楽しんでもらえるような,仕掛けや働きかけはできないか,そうしたご相談が京橋商店会連盟の玉置会長から,大商の友田事務局長経由で私の所へ。
 一方,大商から大阪市立デザイン教育研究所へは,京橋界隈の外国人向けのMAPとプロモーションビデオを制作して欲しい,との依頼があったそうです。こちらでも,旧知の塩崎先生から,MAPやPVで何をとりあげるべきか,アドバイスが欲しい,という相談が私の所へ。

 いずれにしても,みんなで京橋界隈を歩き回り,一体どこに何があるのか,地域資源を確かめて回ることから全てが始まるだろう…。ということで,この日のフィールドワークとなりました。
 最初は,JR環状線京橋駅の西側,京阪本線沿いの片町商店街を歩きました。京阪本線沿いには,高架下の京阪モールに,お洒落で開放的なカフェやダンススタジオが入っていて,大衆演劇も楽しめる京橋KIKIという大型複合商業施設が近くにあります。大阪ビジネスパークや大阪城ホールでイベントやコンサートがあると,京阪本線沿いの飲食店へお客がたくさん流れて来るそうです。
 JR京橋駅の近くには,京都と奈良への方向を示す石の道標がありました。元々あった場所から移動したそうですが,京橋が昔から交通の要衝であったことは,この道標からもわかります。
 JR京橋駅東側は,西側のお洒落な雰囲気とは全く違い,立ち飲みの居酒屋,パチンコ屋,何か怪しげなお店などが並び,とても猥雑で魅力的な空間が広がっています。まちを歩く人の年齢層も,西側は若者が中心でしたが,東側は年配の男性が多く,対照的でした。
 京橋界隈の最大の魅力は,鉄道や幹線道路を隔てて,雰囲気の異なるまちや商店街が,パッチワークのように分布しているところにある気がします。「ゴチャゴチャしたまち」という表現は,否定的に使われることも多いのですが,多様性に富み変化のあるまちでもある訳で,変に区画整理が徹底された味気ないまちよりも,ずっと魅力だと私は思います。大阪でなら京橋,福島,鶴橋など,こうしたまちは今からつくろうと思っても,つくりようがないまちで,それゆえに魅力だと思います。

ゼミ生が真剣で巻き藁を試し切り

 この後,京街道沿いの商店街を10数分ほど歩き,居合道や抜刀術を教える勇進館本部道場へ向かいました。勇進館のなかへ入ると,道場内のあちらこちらに日本刀が置いてあります。「触っていいですか」と念のために伺うと,「なかには真剣もあるので気を付けてください」とのこと。
 ここでの「真剣」とは,「マジメ」という意味ではありません。その語源となった,ほんまもんの日本刀,という意味です。
 剣道や殺陣を教えてくれる道場は大阪にも色々とあります。例えば,私の古くからの友人の八木哲夫さんが代表を務める,日本殺陣道協会による体験プログラムなどはとてもよくできていて,外国人観光客からも好評を得ています。ここ勇進館では,竹刀や木刀ではなく,日本刀の真剣による巻き藁の試し切りをご指導していただけるとのこと。

 大阪インバウンド観光の現場と長く関わっていますが,真剣での試し切りができるところなんて聞いたことがありません。商店街の玉置会長から,「真剣で試し切りできるところが京橋にある」と伺って,「ぜひ視察に行かせてください」と私からお願いした次第です。
 ご指導いただいたい先生は,とても優しく温厚な方でしたが,勇進館本部道場のなかは,武道の道場独特のピンとした空気というか,表現し難い緊張感が張り詰めています。「試し切りするなら,やはり女性の方の方が良いでしょう」と,ゼミ生の三宅亜紗未と阪上千里が挑戦することになりました。
 最初の練習は,木刀を上段から思いっきり振り切る,というお稽古。「やっぱり振り切らないと,巻き藁は切れませんから」とのこと。先生のお手本を見て何度か素振り,次は,先生のかざした木刀をめがけて,何度か打ち込み,カーンという乾いた高音が道場に響きました。わずか数分間の練習で,「これだけ振れたら,もう切れるでしょう」となりました。

 いよいよ,真剣での試し切りです。巻き藁は畳表を水で濡らしたものを使用,最初は三宅亜紗未が挑戦。先生は手を添えて,何度か切り込む角度を指導されたくらい。「あまり深く考えず,このまま思いっきり振り切ってください」とのことでした。一二の三で振り切った真剣は,見事に巻き藁を一刀両断。思いのほか簡単に切れたようで,切った三宅さん本人が驚いていました。先生によると,「いい角度の袈裟切りでしたね,実戦で決まったら,相手は確実に死んでますね」とのことでした。
 次に挑戦した阪上千里も,数分の指導の後,ニコニコと微笑みを浮かべながら,豪快に一刀両断。「手応えはどうでしたか」との問いに,「何かアッていう感じ…」との答え。先生は,「日本刀はよく切れますから,怖がらないでちゃんと振り切りさえすれば,女性でも巻き藁なら簡単に切れます」とおっしゃっていました。
 さて,日本刀の魅力や見事な切れ味は,海外でも注目されています。ただし,実際に日本刀を手にするチャンスなどは,日本人でもなかなかありません。ましてや,日本刀を使って試し切りできるチャンスなど,なおさらありません。

 海外でも日本の武道,柔道,空手,合気道,剣道,居合道,忍術などなどは,テレビの時代劇やアニメの影響もあり,比較的よく知られています。真剣での試し切りを体験したいと思うインバウンド客は,必ず一定数はいるでしょうし,日本人として,この貴重な体験は,外国人にもぜひしてもらいたいものです。いわば究極の「ほんまもん」の体験です。
 この後,私たちは,終戦前日の大阪大空襲による京橋駅爆撃被災者慰霊碑なども見て回り,戦後の京橋の歴史も学んでから解散しました。わずか半日のフィールドワークでしたが,大阪を代表する繁華街・京橋の魅力がひしひしと伝わりました。