2016.3.11

【松ゼミWalker vol.200】 香港・マカオへのゼミ卒業旅行

【松ゼミWalker vol.200】 香港・マカオへのゼミ卒業旅行

 2016年3月4日(金)から3月8日(火)までの4泊5日で,この3月卒業予定の12代目ゼミ生たちと,香港・マカオを旅して来ました。いわゆる卒業旅行です。参加者は全員が4回生で,栃原智美・中井美菜子・平山あかね・ジュディ・ジーン・川瀬将之・井上航太・宗政巨地・川内麻央の9名でした。もう一人の卒業決定者の南亮輔は,やむなき事情で欠席,残念でした。
 ゼミ旅行の集合は,香港の九龍サイド,MTR佐敦(Jordan)駅近くの新楽酒店(Shamrock Hotel)に,3月4日の16時。いつもながらの現地集合です。今回のメンバーのなかには,初パスポートで初海外という旅慣れしていない学生と,とても旅慣れした学生とが混在していましたが,ほぼ時間通りに無事全員集合。国際観光学部の卒業旅行なので,自分のチケットは自分でとり,目的地まで自力でたどり着くのが卒業試験のようなものです。
 初日4日は,香港の九龍サイドを少し散策して,夕方から香港島のビクトリアピークから夜景を楽しむことになりました。九龍サイドのまち歩きは,佐敦からスターフェリー乗り場まで。この日は金曜日でイスラム教徒が礼拝に集まる日。そこで,途中,彌敦道(Nathan Road)沿いの九龍モスクへ立ち寄り,外から様子を伺いました。

 その後は,私が学生時代よく宿泊などで利用した重慶大厦(チョンキンマンション)のなかを歩いて回りました。上の写真の背景が重慶大厦。建物はそのままで外装が一新され,とても豪華な外観になりました。この交差点あたりでは,「ニセモノどうですか,ロレックス,ルイヴィトン,色々あります」とよく声をかけられます。この時も何名かにつきまとわれましたが,「はい,みんなで写真を撮りましょう。あなたも一緒にどうですか。」と声をかけると,偽ブランドの売人たちはいなくなり,上の写真を撮影しました。
 重慶大厦は,宿泊施設,レストラン,両替商,衣料品屋,雑貨製造工場など,様々な業種の店舗が集まる雑居ビルで,世界中の国々の人々が行き来するまさに国際的なところ。治安が良くないと世間ではよく言われますが,重慶大厦は私にとって懐かしく慣れ親しんだ所で,建物の構造や内情も熟知しています。
 せっかくの機会なので,ゼミ生を案内して重慶大厦のなかを歩き,香港で一番レートが良いと言われる両替屋で何名かが両替しました。学生時代の私の常宿や,よく通ったインド料理屋もまだありました。
 重慶大厦からスターフェリー乗り場までは,歩いて10分弱。途中,ペニンシュラホテルの前を通りましたが,そこの高級ブランドショップの外壁工事の足場が竹製で,とても不思議なコントラスト。香港では,高層ビルの建築現場でも,竹で組み上げた足場がまだ現役で使われています。
 私たちはスターフェリーで香港島にわたり,ピークトラムの乗り場まで歩きましたが,その入り口には長蛇の列。日の入り時間が近かったので,ピークトラムはあきらめ,タクシーに分乗してビクトリアピーク展望台へ向かいました。30年以上前から「100万ドルの夜景」と表現されてきた香港の夜景は,現在,軽く1億ドルくらいに値上がりしていた感じでした。

2日目は黄大仙廟

 思い起こせば,香港は,私が一人旅で最初に訪れた異国。確か1985年夏,19歳,当時はまだイギリス領香港でした。それ以来,バックパッカー時代の私は,香港を旅の拠点にしていました。海外から日本へ帰国する際は,香港で,大阪行きの1年間有効の格安往復チケットを買い,日本へ帰国すると,いつも手には,大阪から香港への片道航空券が残っている感じ。つまり,日本では常に一時帰国状態。
 日本で働き(たまに大学へも行き),お金が貯まったら,まずは手持ちの片道航空券で香港まで行き,香港で,他都市への格安往復航空券を買い,また香港へ戻ってくる。もしくは,香港から中国大陸へ入り,色々と旅して回り,また香港へ戻ってくる。いずれにしても,香港から旅が始まり,香港へ戻り,手持ちの残金で,大阪行きの往復チケットを買い,一時帰国してまたお金を貯め,また香港へ行き,また旅を始める。そんな生活を25,6歳くらいまで続けました。ちょうど,日本のバブル経済が始まり終わるまでの期間に相当します。

 そのような事情から,私は香港のことを,よく知っているのですが,あまり香港を「観光」した記憶がありません。大学教員になってからも,香港をたびたび訪ねていますが,ホームレスや住宅問題のフィールドワークばかり,昨年夏などはグラフィティを探し歩く毎日,いわゆる観光スポットへ行くことはありません。
 今回はゼミ生と一緒の卒業旅行ということもあって,久しぶりにベタな観光スポットを回ったのですが,これがとても新鮮。こんなチャンスでないと,絶対一人では行かない観光スポットへも行き,結果として,香港のベタな国際観光の現場がどうなっているのか,その実態を確かめることができました。
 さて,2日目の行動開始は,朝食を済ませてゆっくりと11時から。MTR黄大仙駅へ行き,道教の黄大仙廟を参拝しました(左上の写真)。ゼミ生らの目当ては,竹棒での占いでした(右上の写真)。地元の香港人や中国系観光客が本気で占いしているなか,よく見ると日本人や韓国人など,一般の観光客もかなり混じっていました。本来は宗教的なものですが,観光アトラクションとしても定着しているようでした。

 黄大仙廟参拝の後は,やりたいことが個々別々だったので,解散。夕方18時にホテルのロビーに集合とだけ決め,各自で自由行動にしました。私はひとりで行動,全く土地勘のないMTR観塘駅で降り,港湾部の工場地帯の散策を楽しみました。
 夕方18時に集合してから,みんなで急いで夕食を食べ,夜20時から始まるシンフォニー・オブ・ライツを見るため,尖沙咀(チムサッチョイ)プロムナードへと急ぎました。シンフォニー・オブ・ライツは香港島と九龍サイドの高層ビルをライトアップして,音楽とレーザービームの組み合わせを見せるイベントで,2003年から毎晩行われているそうです。
 土曜日のこの日,尖沙咀プロムナードは人,人,人,人でいっぱいでした。豪華客船や遊覧船も,シンフォニー・オブ・ライツを見学するため,海峡に停泊。平たい土地の少ないなか,世界中から投資も人も集まり,高層ビルが傾斜面まで立ち並んだ結果として,香港の信じられないような夜景が生まれました。
 尖沙咀プロムナード横の香港文化センターの外周は,十数年前,深夜になって人通りが少なくなると,ホームレスが段ボール敷きで,ずらりと並んだものです。「隔世の感あり」といったところですが,時代が変わったのは当然としても,事情が変わったのかどうか,気になるところです。

3日目はマカオへ

 3日目の6日(日)は早起きして朝食を食べ,8時半にマカオへ向かってホテルを出発。まずは歩いて九龍サイドの中港城(China Hong Kong City)のフェリーターミナルへ向かいました。香港からマカオへは,高速ジェットフェリーで約1時間,いくつかのフェリー会社があって,30分に1便くらいの間隔で運航しています。
 私が最後にマカオを訪問したのは1989年,もう20数年前,マカオがポルトガルから中国へ返還される10年前でした。往時のマカオの印象はというと…,ポルトガル植民地時代の遺跡が点在する旧市街地は,香港と比べると,とても静かで落ち着いていて,当時のアジアではとても珍しかった合法的なカジノは,規模もそう大きくなく,場末の博打場という雰囲気を醸し出していました。ポルトガル領マカオから中国マカオ特別行政区となった1999年以来,マカオがどのように変わったのか,私は興味津々でした。
 国際フェリーがマカオに着き,入国審査を受けて港の外へ出たのは11時少し前。マカオ側のフェリー乗り場前には,マカオにある主要なカジノやホテルへの無料送迎バスが何台も並んでいました。私たちの目的地は珍しく全員一致で,世界最大の統合型リゾート,ザ・ベネチアン・マカオ(The Venetian Macao)でした。ベネチアン行の無料送迎バスはすぐに見つかり,10分くらいでベネチアンへ到着。

 ベネチアンの周辺は統合型リゾートが集積する地域で,送迎バスがこの地域へ近づくと,立ち並ぶ統合型リゾートの豪華な外観と視界に入りきらないほどの規模に圧倒されました。
 ベネチアンのなかに入ってからも驚きの連続。一体どのくらいの広さがあるのか,どこに何があるのか,それを確かめるだけでも,軽く1日はかかりそうでした。私たちはカジノも,ブランドショップが立ち並ぶ運河エリアも,全くお金を使うことなく,ただ歩いて楽しみました。
 ベネチアンほどの規模はないとしても,この地域には同じくらいの統合型リゾートがいくつもあります。全部回って,どのようなアトラクションやエンターテイメントがあるのかチェックして回るだけでも,1週間くらいはかかりそうです。マカオは一度,しっかりとフィールドワークの計画を立て,再訪したいと思いました。
 ゼミ生たちには,マカオの現場で,統合型リゾート(Integrated Resort)とカジノ(Casino)の違いを説明し,大阪が統合型リゾートを誘致しようとしていることに,自分なりに考えて,意見や見解をしっかりと持つよう指導しました。統合型リゾートには,当然カジノ施設も含まれていますが,感覚的に捉えるならば,カジノの誘致というよりも,もうひとつUSJのような大規模娯楽施設をつくり,そのなかのアトラクションのひとつにカジノがある,というイメージです。
 大学での講義のなかで私はそう説明するのですが,なかなか現場を見ていない学生には実感してもらえまえせん。誘致に賛成でも反対でもいいのですが,国際観光学を学ぶ学生ならば,統合型リゾートの実態を的確かつ経験的に把握したうえで,自分なりの見解を持って欲しいものです。
 上のGoogle earthの写真は,同じ縮尺で,マカオ(左側)と新世界界隈(右側)を比較したものです。私たちが行ったベネチアンの規模は,新世界と天王寺動物園を合わせたくらいです。マカオの統合型リゾート地域はまだ開発途上で,建設中の建物や空き地も目立ちました。マカオ空港やフェリー発着港とこの地域を結ぶ高架鉄道も,今まさに整備している状況です。中国経済の先行きが怪しくなってきたので,こうした建設工事が凍り付くことも考えられます。しかしながら,このまま立地が進めば,南海なんばから阿倍野までくらいの広さに,十数軒の巨大な統合型リゾートが立ち並びます。
 一般的に日本人が持っているカジノのイメージは,韓国ソウルのホテル内カジノのような,少し広めのパチンコ屋さんくらい。それと統合型リゾートのスケール感は,全く別物と言えます。シンガポールの統合型リゾート地域も,とても規模が大きいと聞いています。一度,視察へ行きたいものです。

 さて,ベネチアンからマカオ旧市街地へは,ベネチアンの無料送迎バスでマカオ半島側のフェリー乗り場へ行き,そのフェリー乗り場からまた無料送迎バスで旧市街地へと向かいました。統合型リゾートにも主要なホテルにも,フェリー乗り場とそこをつなぐ無料送迎バスが出ていて,厳密な利用者以外でも利用できるので,何か少し得した気分になりました。それだけ統合型リゾートやカジノの競争が激しく,無料送迎バスのコストを負担してでも,お客を呼び込むことが,何より大切だということでしょう。
 マカオの旧市街地では,世界遺産マカオ歴史地区の象徴である「聖ポール天主堂跡」へと向かいました。この日は日曜日,聖ポール天主堂跡へのアプローチと階段は,観光客で賑わうというよりも,溢れかえっていました。20数年前も,聖ポール天主堂跡はマカオで最も人気の高い観光スポットでしたが,もっと静かで,時の流れが聴こえてくるような所でした。
 観光の形も以前とは大きく変わりました。歩いて見て楽しむというよりも,著名な観光スポットを背景に自分や自分たちを撮影することが,そこへ来た目的のような感じの観光客がとても目立ちました。私たちのグループもそのひとつで,やはり記念撮影は欠かしませんでしたが,やはりもっと観光そのものを楽しむ「よき観光者」でありたいものです。
 その後は,マカオの旧市街地を歩いて散策。土産物を買いたいもの,マカオタワーへ行きたいもの,旧市街地をもっと歩きたいもの,カジノを楽しみたいものに分かれたので,明日の朝9時にホテルロビー集合,と確認して解散しました。
  • 聖ポール天主堂跡から広場を望む

  • マカオ市街地のホテル併設カジノ

最終日は香港ディズニーランドへ

 香港滞在の最終日3月7日(月)は,ホテルのロビーに揃い記念撮影してから,香港ディズニーランドへ行きました。本来はゼミ生らだけで行く予定だったのですが,これといった用事のない私も,同行させてもらいました。

 私は日本で東京ディズニーランドへも,USJへも行きましたが,実のところ,どうも苦手。まず行列をつくって待つのが嫌いで,キャラクターや映画の魔法にもかからない免疫があります。何よりも,主体的に「遊んでいる」という感覚が得られず,何か「遊ばれている」という感覚が嫌で,テーマパークに行くよりも,キャッチボールやまち歩きする方がずっと楽しい,と思うタイプです。
 しかしながら,そうは言うものの,何ごとも経験しておくことが重要なのは間違いなく,こんな機会でもなければ,香港ディズニーランドへは自分では絶対に行かないので,ゼミ生らに連れて行ってもらうことにしました。ゼミ生らはノリノリのワクワクでしたが,足手まといにならないよう私は別行動で,観光客の行動や流れ,スタッフの動き,アトラクションの内容などを観察して回りました。
 平日の香港ディズニーランドはあまり混まないようで,どのアトラクションも5分から20分待ちくらい。アトラクションの内容も,東京ディズニーランドと同じものがあり,香港ディズニーランドの方が,ゆっくり,ゆったりと楽しめるかもしれません。テーマパークは素人の私でも,スタッフのサービスの質や職業意識は,香港よりも東京の方が高いとも感じました。
 今回の香港ディズニーランドでの経験から,私は自分が「楽しい」「面白い」と思うツボを発見しました。それはひと言でいうならば,「コミュニケーション」や「相互作用」が大きく影響します。ディズニーランドのアトラクションの場合は,その座席に,私が座ろうとミッキーの人形を座らせようと,その後に起こることは全く同じです。

 例えば今回,私はビッグ・グリズリー・マウンテン・ラナウェイ・マイン・カー(Big Grizzly Mountain Runaway Mine Cars),というジェットコースターに乗ったのですが,確かに小ネタ的なストーリーもあって面白い。しかしながら,次に乗っても,全く同じことが繰り返されるばかりだと思うと,何かベルトコンベヤーに乗せられたような気分になり,「もうええわ」となります。「何度乗っても面白い」とは決して思えません。
 究極的には,何かを提供する側とされる側との関係性の濃淡とでも言うべきでしょうか。「遊ぶ」と「楽しむ」の違いとでも言うべきでしょうか。
 「遊ぶ」場合は,サプライズの限度を超えない予定調和があり,その範囲のなかで「遊ぶ」ため,究極はやはり「遊ばれている」訳であり,時間つぶしに過ぎないと思います。「楽しむ」場合は,相手との間で予定調和がなく,予想外のことも起こり得るという緊張感のもと,相手との関係性のなかでその関係性を自ら選択して,その緊張感や関係性を楽しんでいる,と私は思います。人により好みは様々でしょうが,私は前者よりも後者の方を断然,エキサイティングでファンタスティックだと思います。だから,映画やテーマパークよりも,ライブやまち歩きの方を好むのだと確信しました。もう少し突き詰めて考えると,ちゃんとした研究対象になりそうな気がします。
 さて,私たちは帰国便もバラバラだったので,香港ディズニーランドで事実上の現地解散。全員無事,自力で帰国しました。