【松ゼミWalker vol.194】新今宮界隈のまち歩き案内ガイド (教員 松村嘉久)

 新今宮界隈は,強烈な個性を持った多様な地域が広がるところで,街路をひとつ踏み越えれば,全く違う表情のまちと出会えます。労働者・野宿生活者・生活保護受給者をめぐる社会問題の厳しい萩之茶屋地区,外国人宿泊客が増えて国際ゲストハウス地域へと転換を遂げた太子地区,昭和の風情が色濃く残る木造住宅街の山王地区,SHINGO★西成さんの案内で爆笑問題も歩いた飛田新地,通天閣のおひざ元のジャンジャン町から新世界…などなど。
 新今宮界隈で出会う人も,ご商売されているお店も,みんなとても個性的です。大阪で最も古い歓楽街のひとつなので,大衆演劇の芝居小屋もあれば,将棋倶楽部もあり,まちを物語るコンテンツは実に豊か。私は日本のみならず世界各地の色々なまちを歩いてきましたが,新今宮界隈のまち歩きが最も変化に富みネタも多く面白い,と思っています。左の写真は,見つけたらラッキー,買えたら奇跡,と言われている伝説の10円缶コーヒー。
 そんな新今宮界隈では最近,色々な組織や個人がまち歩きの案内ガイドを務め,数名から十数名くらいの集団で歩いている光景をよく見かけます。私も色々な人たちから依頼されて,この界隈のまち歩きの案内ガイドを務めることがたびたびあります。

 私が得意としているのは,地域で言うならば太子地区や新世界,分野で言うならば国際観光振興や観光まちづくりやエンターテイメント。これらの地域や分野ならば,私は当事者でもあり,語りが深く面白い案内ガイドのひとりでもあると自負しています。
 私と歩けば,太子地区の何軒かのホテルの内部を見学でき,西成WANの詳しい経緯や成果なども聴ける,などの特典もあります。大きな声では絶対に語れないことも,まち歩きガイド中は,ひそひそと参加者らに伝えます。私は阪南大学にて,コミュニティツーリズム論という講義を担当していますが,まさにこのまち歩きこそが,コミュニティツーリズムの実践に他なりません。
 私は,この地域への理解を深めて偏見を改めてもらおうと,時間が空いていて予定さえあえば,できるだけ地域の案内ガイドを引き受けるよう心がけています。2015年度は時間がかなり自由に使えたこともあり,実に多くの方々と一緒にこの地域を歩きました。下に示したのは手帳に記載されていたまち歩き案内のみ。ざっと見ると,学生や教員,メディアや観光業界の関係者が多い感じです。この他にも,西成ジャズ出演のミュージシャンも案内した記憶があります。

 2015年4月7日 (火)ゼミ生ほか15名
 2015年4月11日(土)アメリカ国籍のジャーナリスト1名
 2015年4月26日(日)NHK大阪放送局のディレクター1名
 2015年6月22日(月)西成区行政関係者1名
 2015年7月10日(金)お茶の水大学の教員と学生の計2名
 2015年7月17日(金)商店街活性化の企画プロデューサーほか計3名
 2015年7月24日(金)大阪商工会議所の職員ほか計8名
 2015年7月31日(金)NHK大阪放送局のディレクター1名
 2015年10月16日(金)府立西成高校の教員と学生の計14名
 2015年10月21日(水)高齢者大学の学生6名
 2015年11月4日(水)大阪市立生涯学習センターの受講生ほか7名
 2015年11月8日(日)大阪成蹊女子短期大学の教員と学生たち計15名
 2015年11月14日(土)大阪府立大学社会人大学院生6名
 2015年12月19日(土)中国中山大学の教員と大学院生の計2名
 2015年12月22日(火)滋賀大学の教員ほか4名
 2015年12月24日(木)近畿運輸局の職員5名
 この界隈のまち歩きツアー,私は最近,着地型ツアーとして本気で事業化すべきで,もし私たちが事業化すれば必ず成功するはずだ,と考え始めています。立ちはだかるのは,旧態依然として現代のニーズに全く対応できていない通訳案内士法や旅行業法などの規制の壁…。
 アウトバウンドからインバウンドへ,団体パッケージ旅行から個人自由旅行へ,この流れは今後も必ず続き加速します。急速かつ確実に時代が動いていくなか,緩和すべき規制がどれで,育てるべき芽はどこにあるのか,それらをしっかりと見極めて対応していかなければ,日本の観光立国は実現しません。国際観光の現場を知れば知るほど,そうした思いが強くなり,ひとり苛立つ今日この頃です。