【松ゼミWalker vol.170】壁画「ここから いまから」が完成!!

Red BullのDJ Carが来て準備も整った!

 2015年1月17日(土)の朝10時,下絵の描かれたブロック塀の前へ,関係者たちが集まり始めました。道路やブロック塀は乾いた状態でしたが,この日の天気予報は「曇り午後から一時雨」,「頼むから降らないでくれ」とみんな祈りながらの集合でした。
 一番乗りは,自動車でスプレーなどの材料や荷物を運んでくれたレッドブル職員,そこへ私や,アーティストらやゼミ生らが次々に合流。この時初めて下絵を目にしたゼミ生もいて,ここ数日で準備が大幅に進展したことに驚き,作業を始める前に,下絵をバックに記念撮影していました(左写真参照)。
 その後,アーティストたちは昨日に続いて下絵を描き込み,ゼミ生らはテープやシートでアスファルト路面の養生など,準備作業にとりかかりました。
 作業を始めて30分ほどすると,Red Bullの黒が基調の装甲車のような,とてもいかついDJ Carが到着。ほんの数分間のセッティングでDJブースが出来上がり,SHINGO★西成さんのラップが流れ始め,道行く人も歩みを止めて見入っていました。そうこうするうち,テレビや新聞などの取材陣も到着して,「いよいよ本番」という,わくわく感が高まるなか準備は進みました。

 松村ゼミから集まったのは,橋田翔子,山中彩帆里,山下喜央(以上4回生),栃原智美,南亮輔,平山あかね,ジーン,宗政巨地,川瀬将之(以上3回生),小幡晶子,小山舞,左近未来,高岸佳梨,竹中さおり,辻勇之介,浜野文菜,福田葵(以上2回生)の17名でした。2,3回生の参加者が多く,とても心強く感じました。
 この日は,イベントを下支えしてきた関係者だからこそ,胸を張って集まれる,いわば特別な日。これまでのプロセスをよく理解しているゼミ生たちは,少しハシャギ気味でしたが,そうした高揚感を味わうのも大切な経験です。
 ただブロック塀に絵を描くだけのことですが,この日を迎えるまでに,いくつもの課題を乗り越えてきました。その課題を乗り越えてきたプロセスが分かっているからこそ,「やっとこの日を迎えることができた…」と心が高ぶるのです。そうした気持ちをみんなで共有できていることが大切なのです。
 さて,ワークショップを重ねてきたこどもたちは,13時半前くらいに,ブロック塀前に到着するとのこと。みんなの協力で,準備は11時過ぎにほぼ整いました。長い一日になりそうだったので,しっかりと食べてエネルギーを蓄えようと,11時半過ぎから交代で昼食へ向かいました。

 私も12時前に食事へ行き,12時半前にはブロック塀へ戻りました。すると,ポツリ,ポツリと,恐れていた雨が降り出し,徐々に激しくなってきました。まわりの空を見渡すと,遠くの方は薄ら明るく晴れているが,自分たちのいる場所だけが,不思議と曇って雨が降っている…,そんな状態でした。「通り雨や,きっと,すぐ晴れるはず」。そう信じて雨のなか,ブロック塀の大事なところをビニールで覆い,その前から動かずみんなで待機していました。
 すると,みんなの願いが天に届いたのか,13時過ぎ,雨脚が急に弱まり,日差しは穏やかでしたが,明るい太陽の光がブロック塀を照らし出しました。あわててビニールをはがし終えた頃,「今池こどもの家」「こどもの里」「山王こどもセンター」のこどもたちが,逆光のなか,まるで太陽を背負って来るかのよう,続々と現場へ到着。こどもたちは50名以上,保護者や地元関係者らも30名くらい集まり,私たちも含めて,現場はざっと100名を超える人だかりになりました。

積み重ねたワークショップの経験が…

 こどもたちを前にして,まずは私からあいさつ。今回のイベントの趣旨を説明しました。後は,今池こどもの家の多賀井潤一郎さんら,指導員たちにバトンタッチ。こどもらに確実に伝わる語り口で,この日の作業や予定について話していただきました。
 この日の段取りは,こどもたちを六つのグループに分け,まず二つのグループが壁画制作し,残りの四つのグループは下絵の説明を受けながら見守り,イメージを膨らませてもらい,後で交代するというものでした。
 壁画の下絵の文字の前には,色々な色のスプレーが10本くらいずつ,事前に置いてありました。スプレーの色は全体的なバランスを考えて,アーティストらが選択。基本的に「ここから いまから」の文字のなかとキャラクターの空白部分を,こどもたちに塗りつぶしてもらいます。

 積み重ねてきたワークショップの経験が,段取りやら事前の準備やら,色々なところでいかされていました。壁画制作にとりかかる直前,SHINGO★西成さんも到着。作業に加わってもらいました。
 二つのグループにはそれぞれアーティストがつき,「最初はこんな感じで描いてみようか」と,実際にやって見せながら,優しく声かけしていました。小さなこどもたちは,スプレーのノズルを押す力が弱いので,もう必死。中学生くらいになると,アーティストたちから「この子は上手やし,センスいいわ」とほめられる生徒もいました。
 小さなこどもたちを年上のお兄ちゃんやお姉ちゃんが助けながら,みんなで楽しむ。西成でこどもたちが遊ぶ日常的な風景です。
 20分くらいで文字を塗りつぶし,次の二つのグループと交代。待っていたグループは,先発組みの作業を遠巻きに見ていたので,早く描きたくてしょうがなかったのか,「ほんなら交代や」の声を聞くなり,ブロック塀の前まで先を争うよう小走り,その様子はとても楽しそうでした。
 「黒い線からはみ出してもええのん」「かまへん,いってもうて」「手形つけてもええか」「かまへんかまへん,いてまえ」。ワイワイガヤガヤ,ワーワーキャーキャーで1時間が経ちました。私たちが用意した下絵はほぼ彩られ,小さいこどもたちの集中力が限界に達した15時少し前,作業終了となりました。

 一連の壁画制作のプロセスは,Red Bullが呼んだオーストラリア人のプロカメラマンJason Halaykoさんが,ずっと撮影してくれていました。「みんなが頑張ってくれたおかげで,ええ絵ができたから,SHINGO★西成さんを囲んで,みんなで記念撮影しようや。」となり,Jasonが魚眼レンズで,80名以上が集まる記念写真を撮ってくれました(Jasonの写真は最後にまとめて紹介)。
 こどもたちが帰った後も,壁画制作の作業を18時まで続け,残れるものだけで西成の焼肉屋の名店「友園」へ集まり,軽く打ち上げを兼ねた反省会を行い,この日は解散しました。
 わずか10日前,「延期」の二文字が頭をかすめ,決行が危ぶまれたこの日のイベント。終わってみれば,「あの時あきらめんと,やってよかった。」と心底思いました。
 悔いるんやったら,やらずに悔いるよりも,やって悔いたい。やらんかったら,失敗もしないが,経験も積めないし,進歩もない。やってみて成功すれば感動できるし,失敗しても,そこからしっかり学びさえすれば,次につながるはず…。たまには心が折れそうになることもありますが,心の根っこにこうした前向きな思いを抱き続けたい,ゼミ生らもそうあって欲しい,と私は願っています。立ちはだかる壁が高すぎて分厚すぎて,今の自分の実力ではどうしようもないことも,世の中にはたくさんあります。しかしそんな場合でも,壁の前まで行って自分の五感で感触を確かめ,「くそ,負けへんで。いつか必ず,乗り越えたる。」,という気持ちで日々を過ごして欲しいと願います。

ようやく壁画が完成!!

 翌日1月18日(日),アーティスト,Red Bull職員,何名かの実行委員やゼミ生らが10時過ぎに現場へ集まり,壁画の仕上げ作業を行いました。主役は4名のアーティストたちで,その他はそのサポートと見守りくらい。アーティストたちは,こどもたちが描いたところを上手く活かしつつ,黒色のスプレーで輪郭を引き直し,陰影をつけて立体感を出したりながら,空いた空間を埋めていきました。
 下絵など何もないのに,何のためらいもなく,絶妙にスプレーで彩って行く才能と技術には驚きました。仕上げの作業を進めていると,律儀なSHINGO★西成さんが「どないですか」と,仕事へ行く前に立ち寄ってくれました。
 全ての作業が終わったのは,17時過ぎ。わずか3日間の作業,実働ならば10時間そこそこで,高さ2メートル,幅50メートルのブロック塀が,鮮やかに彩られました。

 使用したドイツMolotow製のスプレーはざっと150本ほど。使い切っていないものや新品同様のものが50本くらい残りました。次のアート制作でまた使用します。アーティストらだけでこのくらいの面積の壁画を描くと,50本から70本あれば十分なのだそうです。Molotow製スプレーは,協賛企業のCalmaArtからとても安くご提供いただきました。
 今回のイベントにかかわった人は,全てボランティア参加だったので,人件費もギャラもなく,3回のワークショップも含めて,かかった経費は消耗品を中心に15万円弱。全ての費用は,実行委員会,CalmaArt,Red Bull,阪南大学で負担しました。
 さて,今回のイベントの実現には,アーティストらの協力が欠かせませんでした。最初に参加表明してくれたアーティストがCasperさん,その後,Steven en changさんとONEVERYさんが加わってくれました。この3名は毎週水曜日の定例会議にも出席して,ワークショップや本番に向けての準備などでも,色々とアドバイスをいただきました。MIZYUROさんは壁画制作本番の応援でのみ参加でした。SHINGO★西成さんも,私も,実行委員のみなさんも,壁画制作の現場では全く戦力になれない存在。今回の壁画制作は,この4名のアーティストの協力がなければ,絶対に実現しないイベントでした。

 協賛いただいたRed Bullの職員2名は,いつも定例会議に出席して,実行委員やアーティストらを励まし支え,準備作業でも率先して動いてくれました。この二人は,ミナミのアメリカ村で街路灯アートプロジェクトを成功させた方々で,アーティストとの協働でイベントを行った経験も豊富。アートイベントのマネジメントに関するアドバイスは,どれも納得のいくものばかりで,多くのノウハウやコツを学ばせてもらいました。
 アーティストらもRed Bull職員も,もしこのイベントがなくて,大学の研究室にこもっていれば,絶対に知り合うことの無かった人たちばかり。みんな個性も癖も強い人ばかりでしたが,才能にあふれ発想力や実行力もあり,何よりも志を共有できお互い信頼し合える人たちで,出会えて光栄でした。目的を同じくして,助け合いながら戦い抜いたものどうしは戦友。今回のイベントで,私には,人生を間違いなく楽しくしてくれる,新しい戦友ができました。
 西成アート回廊プロジェクト実行委員会が主催する西成ウォールアートニッポンは,まさに「ここから いまから」。全てがここから始まり,全てをいまから始めていきます。壁画制作から1ヶ月が経ち,2015年の活動について,2月末からまた定例会議を始め,新たなスタートを切ろうとしています

以下の全ての写真のコピーライトは,カメラマンのJason Halaykoに属します。
Jasonさんから許可を得て,ここに転載します。