2014.4.11

実学シリーズ2014 あべのハルカス周辺の放置自転車を調査し、 阿倍野区長を迎えて報告会を開催

実学シリーズ2014 あべのハルカス周辺の放置自転車を調査し、 阿倍野区長を迎えて報告会を開催

外国人バックパッカーの誘致など、大阪ミナミエリアでのまちづくりを推進する取り組みを数多く手がけてきた松村嘉久(まつむらよしひさ)研究室。
阿倍野区区政会議の委員も務める松村教授が、同会議より依頼を受けたのが阿倍野地区の放置自転車問題だ。何十年と問題視されながらも歩道に放置される自転車の数は、大阪の新名所・あべのハルカス周辺に目立って多い。
解決の足がかりとして、学生が中心となって放置自転車の実態調査を2月に実施。その具体的なデータをまとめた報告会が、3月25日(火)に阪南大学あべのハルカスキャンパスで開催された。羽東良紘区長ほか区政会議委員や大阪市建設局自転車対策課の方々にも参加いただき、調査の報告・提案・意見交換などを行った。
あべのハルカスキャンパスは、産学官民連携の拠点としての機能を担い、3月4日に開設されたばかり。今回の報告会は同キャンパス初の連携事業となる。さらなる地域連携へ向けて、あべのハルカスキャンパスから新たな一歩が踏み出された。

行政のデータからは見えにくい、放置自転車発生のメカニズム。

放置自転車は「歩行者が歩きにくい」「点字ブロックを塞ぐ」「町のイメージダウンにつながる」など数多くのデメリットがあり、この撤去費に大阪市全体で毎年8億5000万円を使っている。昨年9月に行われた阿倍野区区政会議で、松村教授は意見を求められた。そこで松村教授が必要だと提案したのが、放置自転車の要因分析だ。
阿倍野区は、駐輪場の利用状況や撤去台数などのデータは持っているが、「どこから来て」「どこへ行くために」放置しているのかは、把握できていない。また駐輪場がすぐそばにあるにも関わらず、路上に放置する理由は「駐輪場の存在を知らない」のか「お金がもったいない」のか「置きに行くのが面倒」なのかもわからない。これらはケースバイケースで、各スポットごとに異なるはずだ。
まずは要因を知るために、スポットごとの具体的なリサーチが必要となる。だが、行政がリサーチを行うとなるとさまざな手続を踏まなければ実施に至らない。そこで松村ゼミの学生たちがボランティアの機動性を活かし、テストケースとして阿倍野区でも放置自転車の多いあべのハルカス近辺の実態調査を行うことになった。

調査は平日・休日の実態を把握するため、2月4日(火)・9日(日)の2日間に渡って行われた。調査には松村教授の担当科目「地域を読み解く」の受講生と松村ゼミ所属の学生、教員、卒業生に加え、羽東区長や区職員などのべ55名が参加した。
調査は、1.放置自転車のカウント 2.防犯登録の確認・記録(どの町から来ているかの目安) 3.主な駐輪場の利用状況 4.放置自転車ホットスポット(特に多く放置されている場所)での定点観測の4項目を実施。調査時の様子は読売テレビ『かんさい情報ネット ten』でも取り上げられ、2月20日に放映された。

あべのハルカス周辺の具体的な自転車放置状況が明らかに。

報告会の冒頭では、羽東区長が阪南大学生へ向けて「寒い日に調査に出向いてくれてありがとうございます。私が子どもの頃からずっと放置自転車は阿倍野区にあふれていました。町の課題に学生の方が取り組んでくれるのは、官学の連携が実を結んだ結果だと思います」と、調査協力へのねぎらいの言葉を送ってくださった。
続いて松村教授から報告書の概要解説が行われた。それによると午前と午後では放置自転車数はほぼ倍となり、また平日と休日を比べてもほぼ倍となる。休日の午後3時には1026台にも達し、特にJR天王寺駅や商業施設の近くなどホットスポットでの集積が著しいこと、地元・阿倍野区に加えて隣接する西成・東住吉・生野・平野の自転車が大半であることがわかった。また、ボランティアによる駐輪場への誘導を行っている箇所は、放置自転車が少なく、調査当日に学生が筆記用具を持って立っているだけでも一定の抑止効果があったという。さらに、放置自転車のそばで月極の駐輪スペースが空いているケース、2時間まで駐輪無料のスペースがあっても使用されないケースも報告された。

マナー啓発から社会的インパクト債権まで、活発な議論を展開。

調査結果をふまえ、どのような施策が有効であるかの議論も交わされた。近くの駐輪場へと案内する誘導員を置くことについて、大阪市建設局自転車対策課の職員からは「京橋駅では誘導員による声かけを行い、ラック式の駐輪場へ案内して一定の効果が出ています」という意見をいただいた。ただし「駐輪場があると知っていてもわざと放置する人もいて、誘導員には法的強制力がないため無視される場合も多いです」とも指摘。阿倍野地域のボランティア誘導員も同じ体験をしており、マナー啓発を促進してモラル向上を図ることも不可欠のようだ。

経済的問題も放置自転車の要因のひとつ。尼崎で期間限定で駐輪場を無料にしたところ、放置自転車が劇的に減ったケースが学生により紹介され、松村教授からは駐輪場の価格の見直しが提案され「例えば200円を150円にすることで、空いている駐輪場が利用されれば、駐輪場の収益アップにもつながる。利用者と駐輪場が両方納得できる価格設定を摸索できれば」と意見が述べられた。
イギリス留学経験を持つ羽東区長からは、ソーシャル・インパクト・ボンド(社会的インパクト債権)による解決のビジョンが提示された。ソーシャル・インパクト・ボンドとは、社会的問題を解決するためのイギリス発の資金調達の仕組み。政府が投資家から資金を集めてNPOなどに活動資金を調達し、成果に応じて配当金を政府が投資家に支払うモデルだ。例えば8億5000万円の撤去費を5億5000万に減らせれば、浮いた3億円の中からリターンを支払うため、税負担を増やさず公共サービスが提供できる。「自転車業界などのステークホルダーにも参加いただいて、少ない投資で美しいまちを実現できれば素晴らしいと思いますね」と、新たな行政のアプローチ法を語ってくださった。

意識すべき課題──阿倍野は誰のものか。

さらに松村教授は、中長期的に放置自転車問題に取り組む中で「阿倍野は誰のものか」を議論すべきだと指摘。「自転車を使い放置するのは、新歩道橋から半径2キロ〜3キロメートルから来る近隣住民です。この人たち以外の住民、国内外から阿倍野に来る人にとっても便利で快適な町にしていくことを考えていかなければ」と述べた。これを受けて区政会議委員からは「一人ひとりが自分の問題として放置自転車をとらえられるようにしていく必要がありますね。放置する/撤去するという対立関係ではなく、一緒になって解決していければ」と、羽東区長からは「阿倍野を良くしたい人が協力し合える場を増やしていきたいです。今回の実態調査を受け、引き続きこの問題に積極的に取り組みたいです」と、今後の方向性について認識の共有が得られた。
最後に「自転車調査報告書授受式」の字幕の前で学生と羽東区長による報告書授受が行われ、参加者全員による記念撮影も行われて報告会は終了した。

新たな阿倍野のブランディングをめざして。

報告会を終えた羽東区長は「あべのハルカス誕生を起爆剤に、国内外からお客さまを迎えられる町として発展していくために、区政会議を構成しました。松村先生は観光に関する実績も多く、とても頼りになる方。放置自転車問題は阿倍野の重要課題で、少ないデータと現実とのギャップを埋めるために、学生ボランティアによるリサーチをしてくださったのですが、この機動力は行政では実現できないので大変ありがたく思っています。私自身も2月の実態調査に参加させていただきましたが、学生の皆さんはとても能動的で、また役割を理解して効率的に動いておられるのに感心しました」と、調査までの日を振り返ってくださった。
また、かつてイギリスの港町ホワイトヘイブンを活性化させるプロジェクトに参加した経験をふまえ「町の活性化には、その土地を愛し、オーナーシップを持つことが大切だと学びました。学生の方々の協力を得ながら阿倍野区の問題を解決していくことで、阿倍野を愛し、オーナーシップを持ってくださる方が増えると嬉しいですね。観光を学ぶ学生の方と連携できることは、阿倍野区にとって大きなメリットです」と、今後にも期待を寄せてくださった。

自分の行動が、解決への動きになることを実感。

  • 平山あかねさん

  • 栃原智美さん

  • 速水朋香さん

実態調査と報告会に参加した平山あかねさん(3年生)は「私自身が自転車を放置し、撤去された経験があるので、放置する人を非難するというより理解する気持ちで調査しました。撤去費用がとても高いこと、ラック型の駐輪場だと普通に駐輪するよりもスペースを使ってしまうことなど、行政に対する疑問や矛盾も改めて感じました」と、栃原智美さん(3年生)は「駐輪場の料金は、若者などお金の無い人にとっては死活問題。高校時代に3時間無料の駐輪場を利用し、アラームを2時間半にセットして有料になる前に取りに行っていたことを、調査を通じて思い出しました。料金を安くする工夫ができないかと思います」と、速水朋香さん(3年生)は「点字ブロックを塞ぐものや、自動車の通行を妨げるものなどを見ると、事故にもつながりかねないので問題だと感じました。調査後に、地元の商店街や地域の連合町会の方との意見交換会にも参加させていただいたのですが、町の方々の努力や苦労を知ると、何か力になりたいと感じました」と、それぞれ感想を語ってくれた。

松村教授は地域連携が学生にもたらす意義にもふれた。「実際にしている作業は、防犯登録の確認など単純な調査。けれども、それが社会的な問題解決の糸口となり、今注目されている阿倍野を変える力になっていることを実感できたはず。会議体に入り、こうすれば物事が動くということを体感できれば、大きな力になると思います」。
松村ゼミは、2014年度も阿倍野・西成・天王寺などのエリアで精力的に活動を展開する。今後もあべのハルカスキャンパスから続々と地域連携へのニュースが発信される予定だ。地域連携をリードする松村ゼミの動きに、これからも目が離せない。

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