【松ゼミWalker vol.115】新今宮地区案内図の完成と「まちぐるみ多言語化」の行方

新今宮地区にとっての小さくて大きな第一歩(レポーター:大学院企業情報研究科1回生 井上咲季)

 JR新今宮駅の東口か地下鉄動物園前3番出口を降りてすぐのところ,堺筋太子交差点の東北角の太子交番の隣に,4月11日(木)午前,「新今宮地区案内図 Shin-Imamiya Area MAP」(以下,案内図と略す)が掲げられました。ここにはかつて,日本語表記だけの手書きの案内図があったのですが,それが日本語・英語の二ヶ国語表記のものに架け替えられました(写真は,4月11日に案内図を架け替えする様子:松村先生撮影)。この新しい案内図ができるまでの経緯や,地域にとっての意義などは,2013年4月22日(月)のNHK大阪『ニューステラス関西』(18:10から18:59),「“あいりん”に外国人観光客を」でも,松村先生へのインタビューも含めて,おおよそ6分間にわたり報道されました。同じニュースは,4月28日(金)のNHK全国放送『おはよう日本』のなかでも,全国ネットで放映されました。今回は,NHKでは報道されなかった点も盛り込みながら,松村先生から伺った詳細をレポートします。
 そもそもの話は,西成特区構想有識者座談会から始まります。この座談会で国際観光振興策に関する提言を担当されたのが,私たちの指導教員の松村先生でした。
 松村先生は『西成特区構想有識者座談会報告書』の「第13章 観光振興・賑わい創出を中心とした地域再生策」(http://www.city.osaka.lg.jp/nishinari/page/0000187570.html参照)なかで,「(新今宮地区において)標識や看板の多言語化を助成するか,それを助成する際の要件として,zoningされた地域内を外国語で溢れさして,変貌の象徴とすべきである」と提言されました。しかし残念ながら,大阪市は財政難ということもあり,この件に関しての特別な予算はつかなかったとのこと。従来のお役所仕事ならば,ここで終わっていた話だったそうです。

 ところが,西成区の場合は違いました。臣永正廣区長や区役所総合企画担当の職員らが,何か変革の象徴になるような仕事を残したい,と先に述べた案内図に焦点を絞り,積極的にあちらこちらへ働きかけを始められたそうです。
 西成区役所の職員たちは,まず,かつて案内図を寄贈した大阪西成ライオンズクラブへ行き,「看板を架け替えませんか」と働きかけ,全面的な支援協力の確約をいただいたそうです。新今宮TICにも何度か来られ,松村先生やスタッフに支援協力を要請。私たちも当然快諾。本来ならかなりのコストのかかる案内図の制作は,地元西成区にある大阪府立今宮工科高等学校グラフィックデザイン系の学生たちが,引き受けてくれることになりました(写真は,4月20日土曜日午前,新今宮TIC前でのNHK取材陣による松村先生へのインタビュー風景:4回生 村上恵美撮影)。
 長年にわたりこの地域で活動を続ける松村先生によれば,行政の職員がこのように現場で動き回り,関係各所へ直接協働を働きかけて協力を引き出し,予算化されていない事業を推進する地域コーディネーター的な役割を担ったことは,「あいりん地域では特に画期的な出来事」であり,「地域の色々な組織や人々が,行政の働きかけで,同じ目的にもと力を合わせた」ことに意義があり,「この年度末,私は本当に忙しかったので,今回の案内図に関しては,西成区役所の職員が動いて調整してくれなければ,絶対に実現しなかった」そうです。たかが案内図1枚のことですが,地域にとっては象徴的な,小さくて大きな第一歩になりました。

案内図を地域の将来の発展へつなげる!! (レポーター:大学院企業情報研究科1回生 兪穎伶)

 出来上がった案内図を改めて見ると,「新今宮地区観光まちづくり推進協議会」と「阪南大学国際観光学部」の監修のもと,「大阪府立今宮工科高等学校グラフィックデザイン系」が制作し,「大阪西成ライオンズクラブ寄贈」と付記されています。
 監修を務めた新今宮地区観光まちづくり推進協議会(以下,協議会と略す)は,松村先生が会長を,大阪国際ゲストハウス地域創出(OIG)委員会の西口宗宏委員長が副会長を務め,大阪府簡易宿所生活衛生同業組合,JR西日本,南海電鉄,阪堺電車などを主な構成員として,2012年秋に結成された組織です。また,阪南大学国際観光学部はこの場合,事実上,新今宮TICであり,松村研究室です。
 さて,この案内図に何を盛り込むのか,という問題については,新今宮TICの日々の運営で収集したデータをフル活用,外国人旅行者から問い合わせの多いところ,特に外国人対応しているホテルを優先しました。新今宮地区に初めて降り立つ来訪者の多くは,新世界・通天閣方面を目指すか,自分が宿泊する予定のホテルを探します。西成区役所職員が何度か新今宮TICに来られ,松村先生や新今宮TICスタッフから,掲載する内容についての聞き取り調査を行い,それを今宮工科高校側へと伝えてくださいました。実際の制作段階では,松村先生が何度か今宮工科高校へと行かれ,高校生が作業する教室で指導されたそうです。
 制作途中の案内図は,2013年3月6日(水)開催の協議会で披露されました。南海電鉄本社で開かれたこの協議会に,私も参加させていただいたのですが,本当に色々な修正意見や改善要求が出ました。松村先生がそれらを持ち帰り整理して,高校生と一緒に案合図をできる限り修正されました。

 案内図の制作を担当したのは,今宮工科高校のグラフィックデザイン系の卒業間際の3年生(2013年2月当時)の女性2名と男性1名。指導された松村先生によると,「高校生たちのイラストレーターを扱う技術がとても高くて驚いた。わかりやすく見やすい地図になるよう,私は,地図の表現方法を少しアドバイスした程度…。」とのことでした。
 案内図の全体的なデザインのモチーフは,西成区の花「はぎ」と紫色に決定。とても安定感のある色調で,近くで見ると少し地味な感じがしますが,遠くから見ると意外と目立ち,外国人も含めて,立ち止まって見ている方を最近,数多く見かけます。現在の課題は,この案内図が夜間でも目立つよう,ライトアップすることですが,現在,関係各所と交渉されているそうです。太子交差点の北西側から案内図を見ると,遠くにあべのハルカスを望めます(写真参照)。
 現在,阪南大学大学院の松村研究室には,私たち2名も含めて,5名の大学院生が所属しています。最近の大学院ゼミでは,新今宮地区の案内図や標識や看板など,路上で得られるあらゆる地域情報源の多言語化の状況を調査し,どのように改善すれば,外国人旅行者も含めて,旅人に優しいまちになるのか,という観点からの提言をまとめる研究計画が進んでいます。協議会には,この地域と深く関わる鉄道事業者の全てが参加されているので,その支援も得ながら,鉄道駅から新今宮地区内の目的地への導線を徹底的に見直して,外国人目線から改善していきたいと思っています。
 案内図はその第一歩です。「まちぐるみ多言語化」の実現へ向けて,私たちの調査研究と協議会の力が合わされば,近い将来,新今宮地区は外国語で溢れる外国人旅行者に優しいまちへと生まれ変わっていることでしょう。

松村先生からのひと言

 4月28日(金)のNHK全国放送『おはよう日本』は早朝からの番組でしたが,新今宮地区の商店街の方々や住民の方々から,「先生,ニュース見たで」と数多くお声がけをいただきました。なお,このニュースは英語に吹き替えて,NHKの海外向けの番組でも放映される予定です,と担当記者からご連絡をいただきました。ひとつのコンテンツが関西ローカル,全国,海外へと何度も配信され,何か得したような気分です。ニュースも国際集客や観光まちづくりに資する内容にまとめていただき,本当に取材を受けてよかった,と思っています。
 案内図の制作では,今宮工科高校の生徒3名がよく頑張り,西成区役所の職員たちがよく動いてくださいました。大阪西成ライオンズクラブのみなさんのご理解とご支援にも深く感謝いたします。