大阪の夏は祭り!! 平野郷街歩きツアーの模様(レポーター:丸市将平・前島佑香)

記念すべき通算10回目の街歩きツアー

 2010年度の第4回目の街歩きは,新今宮TIC発の記念すべき通算10回目のツアーでした。今回の目的地は2009年度の街歩きツアーのなかで最も盛り上がった平野郷の杭全神社の夏祭りです。「まちぐるみ博物館」などのユニークな地域活動を行っている平野郷は,地元住民の豊かな生活文化にふれられる街です。と同時に,ツアー当日は平野郷が最も活気づく夏祭りの日。松村ゼミの街歩きツアーのコンセプト,「ありふれた日常」と「ささやかな非日常」を体験するのに最もマッチした企画です。2009年度の参加者は実に25名と過去最多で,色々と苦労もしましたが,それ以上に盛り上がり楽しめたツアーでした。新今宮界隈は夏が近づくにつれ外国人旅行者も急増。今回のツアーにも昨年同様,多くの外国人が参加するのではないか,という不安と同時に,再び楽しい時間が過ごせるのではという期待に,ゼミ生たち胸を膨らませていました。
 今回の街歩きツアーは,7月13日,何と平日の火曜日に開催。当初は7月11日(日)の開催を予定していましたが,だんじりの曳行がないとの情報が入り,杭全神社へのだんじりの宮入りが行われるこの日へ変更しました。新今宮に滞在する外国人旅行者は,ツアーが休日であろうとなかろうと,基本的には時間が合えば参加するというスタンスなので,ほとんど影響はありません。しかしながら,案内する側の私たちゼミ生は,平常授業が行われる日なのでそうはいきません。授業の入っているゼミ生は欠席せざるを得ず,参加できたゼミ生は4回生を中心とした総勢14名でした。

街歩きツアーは当日の参加呼びかけが生命線

 ツアー当日は小雨が降ったり止んだりの何とも微妙な天気。思い起こせば,過去9回の街歩きツアーで本格的な雨に降られた記憶がありません。松村先生と山岸枝里子(4回生)が晴れ男と晴れ女なので,午後から晴れることを祈りました。ツアー前日までの参加希望者は8名。完璧な着地型のツアーなので,相変わらずツアー当日の集客・参加者募集が生命線です。午前10時に新今宮TICに集まれたのは,松村先生ほか,佐藤有・丸市・松原歩美・安達七菜・茶谷みなみ・王頴の4回生6名でした。松村先生と丸市はホテルオアシスのロビーで開催された簡宿生産性向上支援協議会に出席。オアシスは新今宮のゲストハウスで最も外国人宿泊客が多いところで,私たちが会議する最中も,様々な国々からの旅行者が行き来して,グローバルな雰囲気を醸し出していました。丸市以外のゼミ生5名は,新今宮TIC内でツアーの準備をしながら,8軒のゲストハウスを巡り,ロビーで憩う外国人宿泊者に参加を呼びかけていました。その甲斐あって,新たに12名の申し込みがありました。毎回,飛び入り参加者がいるので,この時点で申し込みを締め切りました。
 さて,松村先生と丸市も会議が終わって新今宮TICへと向かいました。その途上,大きなバックパックをかたわらに置き,地図を見入るヨーロッパ系の男性2人組を発見。丸市が声をかけると,ツアー募集に協力してくれている「ホテルみかど」を探しているとのことで,「ホテルみかど」まで丸市が同行案内しました。その途中で「今日の予定は?」と聞くと「ない!!」というので,街歩きツアーへの参加を呼びかけました。すると,とても良い反応を示してくれ,チェックインから30分もたたないうちに,ツアー参加者として再び彼らを迎えることとなりました。私たちの街歩きツアーが,新今宮地域に宿泊する外国人旅行者のニーズと見事にマッチした出来事だったので,とても感動しました。

アテンション プリーズ!!

 12時半に笹部和平・窪堀愛子・久保田早也佳の3名が合流し,残りのゼミ生5名はJR平野駅で合流することになりました。参加者の集合時間は13時。ホテルセレーネに受付を設けて,新今宮TICに来る参加者たちを順次誘導しました。受付は窪堀・茶谷・松原が担当,もう慣れているので手際よくこなしました。参加者が三々五々集まるなか,笹部を中心に,ゼミ生たちは積極的に参加者に話しかけていました。
 集まったツアー参加者は実に多様。ニューヨークから来た中国系アメリカ人6名のグループ,スウェーデンからの男性2名・女性1名のグループ,台湾人のカップル,デンマーク人のカップル,オランダ人のご夫婦,イギリス人男性2名,台湾人男性1名,半年かけて日本を旅するアメリカ人男性,メキシコ人のかなりヘビーな男性バックパッカー,笑顔の素敵なドイツ人女性,ワーキングホリデイで訪日した日本語のわかるベトナム系オーストラリア人男性,オブザーバー参加の日本人女性。結局,参加者は総勢23名となりました。
 受付が終わると,佐藤から「アテンション プリーズ!!」との甲高い第一声。参加者に感謝の意を表し,ツアーのコース概要を説明すると,拍手が起こりました。いよいよツアー開始です。ぞろぞろと列をなして,JR新今宮駅へと向かい,大和路線でJR平野駅へ移動。私たちが電車に乗り込むと「女性専用車両」ならぬ「外国人専用車両」に。JR平野駅の改札で4回生の石橋涼子・山岸・河嶌友紀,3回生の前島佑香・橋本果奈と合流しました。平野出身で祭りの情報収集で昨年も今年も活躍した石橋は,改札口でみんなを迎えて,「あぁ…またこの時期が来たんかぁ。楽しみやゎ!!」と感慨深げでした。

だんじりとの遭遇から大念仏寺へ

 ツアーは平野駅から大念仏寺へ向かいました。大念仏寺は大阪で最大の木造建築であり,有形登録文化財に指定されています。広い本堂は自由に見学でき,休憩と解説には最適な場所です。雨は降ったり止んだりでしたが,幸いなことに,傘をささなくてもしのげる程度の小雨でした。平野駅から大念仏寺までは歩いて5分くらいの距離,その途上でかすかにだんじり囃子が聞こえてきました。その音が徐々に大きくなり,大念仏寺まであと1分という交差点で信号待ちをしていたところ,突如,住宅街から大通りに向けて,だんじりが全力疾走で飛び出し急ブレーキ!! だんじりとの突然の遭遇に参加者たちの興奮も一挙に高まり,想定外の遭遇に案内するゼミ生たちは困惑気味。信号が青に変わると,参加者たちはだんじりの方へと小走りで向かい始めました。先頭を歩く松村先生から,「これがだんじりと遭遇するラストチャンスではありません。今日は9つものだんじりが街なかを走りまわっています。だから,この遭遇は最初のコンタクトに過ぎません。どうか冷静に!!」。小雨が降っていたので,とにかく大念仏寺の本堂へ向かい雨宿りしようと,参加者をうまくコントロールして大念仏寺へ向かいました。
 大念仏寺の門前には,法被姿の方々が集まっていました。事情を伺うと,先ほど遭遇しただんじりは大念仏寺へ向かっているところで,大念仏寺で30分間ほど休憩するとのこと。次は逆に「何の集まりなん??」と,外国人と日本人の混ざる私たちの不思議な集団について,地元のみなさんから質問が投げかけられました。「阪南大学の学生が外国人旅行者を連れて平野郷を紹介して歩いてます。」と答えました。大念仏寺本堂の荘厳な空気の漂う木造建築はやはり参加者にも好評で,驚嘆の声があちこちであがりました。参加者は思い思いに建物内を見物し,畳に座ってもらい落ち着いたところで,久保田が大念仏寺について解説しました。久保田は昨年もここで同じ解説をして好評だったので,今回も担当しました。久保田に続き,松村先生から平野郷のコミュニティと夏祭りについての解説があり,参加者も頷きながら聞き入りました。雨宿りがてらの休憩を終え,大念仏寺の前で昨年同様,お約束の集合写真を撮りました。

野堂南町のだんじりとの遭遇

 大念仏寺の門前にはだんじりの曳き手の若者たちが休憩中で,そのかたわらにはだんじりが…。曳き手からは片言の英語で「ハロー,ウェルカム!!」と声がかかりました。休憩していたのは野堂南町のだんじりで,よい香りのする比較的真新しい見事な彫刻に,参加者たちは興味津々。ところが,「だんじりは神聖なもの」と解説していたので,野堂南町の町衆の反応を伺いながら,恐る恐る近づき鑑賞していました。すると,野堂南町の世話役の方から,「もっと近づいてちゃんと見て。何ぼでも写真撮ってええで。」との声がかかりました。訳すると,堰を切ったように参加者たちは,躍動感のある楠正成の合戦模様を描いた彫刻などにカメラを向けました。すると今度は「これも見て行きいや。」と,雨除けのカバーをめくりあげ,だんじりの屋根にかぶりつく立派な獅子の彫刻を見せてくれました。
 「このだんじりは金かかってるなぁ,家1軒分は軽くいくやろうな」と松村先生がつぶやくと,その言葉を耳にした世話役の方は「フェラーリよりもずっと高いで,ざっと8千万ちゅうとこかな。金やないねん,できや,ええ仕上がりやろう。みなで記念写真でも何でも撮ってや」。お言葉に甘えて,記念撮影させていただきました。野堂南町のみなさん,本当にありがとうございました。

次は馬場町のだんじりと遭遇!!

 野堂南町のみなさんが見送るなか,私たちは次の目的地である全興寺へと向かいました。その途上,またしてもだんじりと遭遇しました。次は馬場町のだんじり。町衆の法被の背中は,大きく「馬」と一文字が染め抜かれていました。見通しの良い生活道路の向こうから,町衆たちに先導されてだんじりがどんどん近づいてきました。先導役からは「何や外人さんかいなぁ。だんじり見に来たんかいなぁ」との反応。再び,「私たちは阪南大学の学生で外国人を…」と説明。
 そうこうするうちに,だんじりを曳く法被姿のかわいい子供たちが…。参加者たちは夢中でその姿にカメラを向け出しました。その興奮ぶりを見た先導役の方は,「おう,だんじり止めたれ。記念撮影や。はよ集まれ!!」。記念撮影する合い間,曳き手の若い衆に「お前大学生やろう。英語で何か話さんかい」と年長者からの声が飛ぶ。若い衆が一瞬たじろぐとすかさず,「ラブ&ピースや,それでええねん。はいピース」。このすごいノリにオランダ人のご夫婦が反応,「ラブは日本語で何という? ピースは?」と私たちに質問。別れ際には「愛と平和(Ai to heiwa)!!」と叫んでおられました。

またまただんじり,野堂東町のだんじりと遭遇!!

 馬場町のだんじりと分かれて数分も進むと,またしても前方からだんじりが迫ってきました。今度は野堂東町のだんじりで,とてもノリの良い先導役と曳き手でした。外国人が集団で見物していると知ると,ホスピタリティのスイッチが入りました。ご祝儀をいただいた商店の前での大阪じめ,外国人参加者の方を向いて手拍子を促す。何度か繰り返すと,外国人も大阪じめを体得しました。
 それに気を良くしたのか,年配の町衆から「ちょっと走ったれや」との声がかかり,「よっしゃ走るで!!」となりました。驚いたのは私たち,狭い道路なので,あわてて外国人参加者たちに後ろへ下がるよう促しました。それまでとは違う緊張感がただよい,あの重たいだんじりが,あっという間に加速してすごいスピードで私たちの前を20メートルほど駆け抜けました。参加者たちも私たちもその迫力に圧倒されました。
 全興寺へ向かうアーケード付きの狭い商店街で,今度は泥堂町のだんじりと遭遇しました。さすがに商店街のなかなので,慎重に曳行していましたが,私たちの前で,大阪じめをしてくれました。昨年の平野郷ツアーは宮入の前日でしたが,今回は宮入当日だったので,これほど高い確率でだんじりと遭遇できたのかもしれません。それにしても,驚くべきは,だんじりを曳く町衆のホスピタリティ。外見は恐そうな方が多いのですが…,実に優しく親切でホスピタリティに溢れていました。

商店街はワンダーランド,ファンタスティックな魚屋さんのテクニック

 全興寺へ向かう途上の商店街は,外国人参加者にとってはワンダーランドでした。あちらこちらにお祭り用の提灯がつりさげられ,法被姿のかわいらしい子供たちも通るので,カメラが離せません。花屋さんや野菜屋さんの店先の商品やディスプレイも珍しいらしく,写真撮影されていました。
 外国人参加者たちが最も興味を示し注目したのは魚屋さんでした。ちょうど魚屋の店員さんが,夏の風物詩の鱧(ハモ)をさばき,骨切りされるところでした。店員さんは鱧をペンチのような道具でつかみ,その鋭い歯を見せてくださり,すぐに手際よくさばかれました。それから包丁を持ちかえて,細やかな動作でリズムにのって骨切りが始まりました。その間,参加者たちは店員さんを取り囲み,写真撮影やムービー録画。「あの魚は何という魚?」「なぜあんなに細かく切るの?」と私たちに質問が投げかけられました。最後に店員さんは,骨切りした鱧をさっと湯通しして冷水に放り込み,白く美しい鱧の花を咲かせ,切り身と並べて見せてくれました。一同,その仕事に感動し納得。「グッド ジョブ!! ファンタスティック!! ナイス テクニック!!」などの声があがりました。

ようやく全興寺へ到着!!

 商店街で大阪の下町の生活文化にたっぷりとひたったため,全興寺に着いたのはツアー開始から1時間半後のことでした。昨年は同じ商店街で隊列が乱れ収拾がつかなくなりましたが,失敗から学び成長を遂げた今年は,外国人参加者にゼミ生が寄り添い,うまくコントロールして誘導できました。
 さて,この全興寺は「まちぐるみ博物館」の活動拠点の中心であり,来訪者を楽しませる様々な展示やしかけがあります。ラッキーなことに,境内の蓮の花が満開でした。
 ここで窪堀が平野郷のまちづくり運動や全興寺について解説し,参加者から拍手を浴びました。その後は境内を自由に散策しました。何名かの参加者は地元のおばあさんがお祈りする姿に興味津津。全興寺の境内には,わずか数分で西国巡礼できる場所,地獄を体験できる展示室,地獄の音が聞こえるという穴のあいた岩,極楽度・地獄度チェックコーナーなど,面白いものがたくさんあり,みなさん楽しまれていました。
 この頃から雨が少し大粒になり出しましたが,まだ傘をささなくても何とかしのげる程度でした。

最終目的地の杭全神社へ!!

 全興寺から最終目的地である杭全神社へと向かいました。その途上で,脊戸口町のだんじりと出会いました。平野郷を疾走するだんじりは合計9台,私たちはわずか2時間ほどの街歩きで,そのうちの5台と遭遇しました。私たちがラッキーだったこともあるでしょうが,やはり宮入当日の平野郷は「同時多発だんじり」状態ということでしょう。
 杭全神社の参道には屋台が並んでいましたが,小雨模様でまだ時間が早かったこともあり,その多くは準備中でした。それでも参加者たちは,ひとつひとつの屋台に興味を示していました。やはり大人気なのは金魚すくい。この日は「ウナギ釣り」や「カメ釣り」の屋台もありました。
 屋台の誘惑を振り払って杭全神社の境内に入り,小雨のかからない場所を見つけて,ツアーに対するアンケートに答えてもらいました。そして,最後に安達が終わりの挨拶を述べ,参加者から拍手が沸き起こるなか,本日のツアーは解散し終了しました。解散後は,私たちと一緒に新今宮へ帰る者もいれば,そのまま杭全神社に残り宮入を楽しんだ者もいたようです。

松村先生からの一言

 昨年に続き今年も,平野郷の街歩きツアーは最高でした。「平野郷」という場所そのものに力があり,そこに住む人々がホスピタリティに溢れている点において,松村ゼミが目指す街歩きツアーの理想の地です。「まちぐるみ博物館」という先進的なまちづくり運動の進む平野郷は,吉兼先生の言葉を借りるならば,「自文化を自分化」して本当に誇りに思い,それを他者に魅せることに意義を見出している,と強く感じました。一見やんちゃでごんたそうに見える人たちが,それを照れずにサラリとやってのけるところがカッコいい。
 昨年は市町,今年は野堂南町・馬場町・野堂東町・泥堂町・脊戸口町の方々と交流できました。いずれのだんじり曳行でも,年配の方から若い衆・子供まで,統率と調和がとれていました。平野郷のように,世代をこえた紐帯を確かめられるお祭りがある地域は,もうそう多くは残っていません。平野郷の底力,大阪の可能性を痛感させられた1日でした。平野郷には訪日外国人に是非体験して欲しい日本の良さが残っています。来年も必ず外国人を連れて平野郷へ行かせていただきます。
 18日(日)は生野区の御幸森神社のだんじり祭りを,新たに募集した外国人参加者と一緒に見に行きます。平野郷は平野郷の良さ,生野は生野の良さがあります。大阪の夏祭りは天神祭だけではありません。訪日外国人にとっては,人ごみに酔う天神祭よりも,人との出会いに酔えるもっとローカルなお祭りの方が魅力的なのかもしれない,と真剣に思う昨今です。