2014.4.22

実学シリーズ2014 船場をもっと面白い街に!2014年度の活動プレゼンテーションを実施

 4月4日、阪南大学あべのハルカスキャンパスで、あるミーティングが行われました。経営情報学部・山内孝幸研究室が、現在取り組んでいる「大阪・船場の活性化プロジェクト」。その2014年度の活動計画をクライアントに提案するためプレゼンテーションです。
 昨年の秋から全国12カ所でフィールドワークを重ね、調査を行ってきたゼミ生たち。その成果を実行可能なプランとして、ビジネス現場のプロの方々に提案する重要なプレゼンに臨みました。

船場の商工関係者とタッグを組んだ地域活性化プロジェクト

 山内ゼミが取り組んでいるのは、大阪の商業地区「船場」の活性化を目的とした地域連携プロジェクトです。江戸時代には「天下の台所」と呼ばれ、商都大阪のシンボルとしてにぎわってきた船場も、ここ数年、梅田や阿倍野などの大規模開発エリアに押され、存在感が薄くなりつつあります。かつては大阪随一の商業エリアだったのに寂しい。もっとにぎわう街にしたい。そんな思いを抱いた船場の商工関係者と山内ゼミが連携して取り組んでいるのが、この船場活性化プロジェクトです。2012年度のスタート以来、これまでに様々な活動を繰り広げてきました。

 去年10月には、船場祭りで「日本茶でおもてなし」イベントを実施。(記事はコチラ)
 企画から運営まですべてゼミ生が手がけたこの催しは、2日間で1,000人が詰めかける大成功をおさめ、新聞にも取り上げられました。船場の広報部隊として大きな役割を果たしてきた山内ゼミ。3年目に入る2014年度は、プロジェクトの正念場でもあります。

全国12の街へ飛んで、フィールドワークを実施

 船場に活気を呼び、定着させていくにはどうすればいいか? 山内ゼミ4回生24名は、そのための調査を昨年の秋から行ってきました。着目したのは、全国に点在する「地域活性化の成功事例」。いま全国各地では様々な街おこし活動が行われています。その中から、12の事例をピックアップ。学生たちはチームを組み、現地に赴いて調査に励んできました。

 訪れたのは、関西地区では、彦根市(滋賀県)、池田市(大阪府)、豊中市(大阪府)、京都市伏見区、長岡京市(京都府)、東大阪市の6カ所。全国エリアでは、高岡市(富山県)、大洲市(愛媛県)、伯耆町(鳥取県)、長崎市、新庄市(山形県)、浜松市(静岡県)の6カ所です。この日のプレゼンテーションでは、まず、それら成功事例の詳細な分析から始まりました。

歴史スト—リーを活用した新時代のイベント

 「彦根市は、歴代藩主・井伊家のシンボルカラーの赤をテーマに、赤い車のパレードイベントを実施しました。全国の赤い車の持ち主に参加を呼びかけ、赤いモビルスーツで有名な機動戦士ガンダムのキャラクターや、その声優も招聘して、大規模なイベントを繰り広げました」

 口火を切ったのは、彦根市の活性化策を調査した海崎希さんら4名のチーム。彦根のシンボルカラー「赤」をテーマにした若者向けのイベントを分析します。


 「主催したのは地元の有志の方々ですが、CMを製作し、FM放送を活用するなど広報活動に力を入れ、若い方からお年寄りまで楽しめるイベントとして成功させました。その反面、立ち上げ時には彼らが出資金を出し合ったため、資金面でかなり苦労をされたとのこと。初回が成功を収めたので、2度目、3度目は補助金が支給されたそうですが、継続させるには資金面での問題が多かったそうです」

 イベントを定着させ、街全体の活性化につなげていくには、継続性のある予算計画が何より重要であるとの問題点が浮かび上がります。

大成功を収めた2つの街にヒントを探る

12の事例の中で、とりわけ大きな成功を収めているのが、長崎市の活動です。

 「長崎市では、2006年に”長崎さるく博“というイベントを実施しました。”さるく“とは、長崎弁で歩きまわるという意ですが、長崎の多彩な観光資源を活かした街歩きのイベントとして成功を収め、その後、定常的な活動に発展しました。特製マップを持って参加者が自由に歩く”遊さるく”、ボランティアがガイドする“通さるく”、専門家による講座や体験を組み合わせた“学さるく”の3つが、現在、長崎の観光客誘致面で大きな役割を果たしています」

 歴史遺産の点在する長崎で始まった街歩きツアーを取材したのは、斯波和季さんら4名のチーム。いま、全国各地でこうした街歩きの活動が盛んですが、その先駆者的な存在がとも言えるのが、この「長崎さるく」。地域の歴史・文化資源をうまく活かした活動の事例を分析していきます。

 「長崎さるくでは、マンネリ防止のためにコースを定期的にリニュアルするなど、努力を重ねています。また、100以上の自治体と連携して進めている活動ですので、協力を得るためにスタッフが全ての自治体へ出向いて説明をするという多大な努力をされています。そこに暮らす人々に活動内容を理解してもらうことが、こういう地域活動では何よりも重要だと強調されました」

 活動開始以来8年間、順調に知名度を上げ、全国からの視察も多いという長崎さるく。主催者へのヒアリングでは、船場活性化のアドバイスを聞くことができました。

 「船場は商売の街です。大阪には大勢の住民がいるので、長崎のように観光客を集めるのではなく、大阪住まいの人に足を運んでもらえるようなプランが望ましいのではないでしょうか」

主催者の熱意が成功には不可欠

 もう一つの大成功事例が、鳥取県の伯耆町での活動です。

 「鳥取県は“食のみやこ”というキャッチフレーズを持っていますが、食を通した活性化で大きな成功を収めているのが、伯耆町で開催されている、とっとりバーガーフェスタです。私たちはこの主催者にじっくりとお話をうかがいました」

 いま、全国各地にお目見えしている「ご当地バーガー」。それらを一堂に集めたイベントが、2009年から伯耆町で開催されている「とっとりバーガーフェスタ」。2013年には2日間で5万人が来場するまでに成長を遂げた話題のイベントです。



 「若い人にとっては日常食であるハンバーガーをテーマに、海・山ともに自然が豊富で、地元の食材をアピールできるイベント。このバーガーフェスタへの応募の条件は、自らの県産の食材を使って継続的に販売していることです。他のB級グルメイベントと一線を画しているのは、評価の基準が”おいしさ“だけでないという点です。審査項目に”街の活性化への貢献度“というのがあり、地元の食材をどれだけ使用しているかという点も採点の対象になっている。その点が画期的だと実感しました」

 このバーガーフェスタでも、主催者自らが参加希望の自治体へすべて足を運んで説明をしています。

「そういった熱意こそが成功の秘訣だと、調査を通して強く思いました」と発表した近藤怜奈さんは締めくくります。

地域の人々の理解が何よりも重要

 一方で、新しい活動を始めるには、数々の問題もついてまわるものです。成功に至らなかった事例からは、その苦労した側面をも聞き出し、分析の材料としました。

「どの地域も資金調達には苦労をしていました。活性化が成功するためには、何より地元の方々の理解が必要だと痛感しました。例えばバーガーフェスタでは、当初、街の小売店がイベントにお客さんを取られてしまうと誤解して、開催に難色を示すということもあったそうです」

 その他、地域活性化と商業の両方を一度に成功をさせようとするのは無理があると指摘する自治体もあり、地域活性化の難しさもゼミ生たちは、しっかりと刻み込みました。

 この他、落語をテーマに街おこしに取り組んだ池田市、坂本龍馬を活用した愛媛県大洲市、まちなか楽校を始めた山形県新庄市、ゆるキャラを使いメディア戦略を進めた静岡県浜松市など、バラエティに富んだ12の事例の分析に、会場に足を運んだ船場の商工関係者の方々も熱心に耳を傾けました。

地域活性化策には、3つのパターンがある

プレゼンテーションする学生

 「こうして分析を進めていくと、一口に街の活性化といっても、その内容は3つに分類できることがわかりました」

 事例をもとにした地域活性化の内容を分析を進めた学生たちは、全国の活性化策には、カテゴリーに大別できることを見いだします。

 「3つとは“単発イベント型”“継続イベント型”“コミュニティ醸成型”です。目標達成度の高い街では、地元の人々に理解をしてもらい、住民も参加できるプランを採用しているケースが多い。住民との連携が強い地域ほど、大きな効果をあげていることが浮かび上がりました」

豊臣軍と徳川軍が友好を深める大名行列を!

 フィールドワークの報告を踏まえて、いよいよ今年度の船場の活性化プランを発表していきます。

学生たちは分析作業にしたがって、8つのプランを準備しました。着想だけでなく、実際に運営する際の具体的なプランにも踏み込み、プレゼンテーションに臨みます。発表は、先の分類に従って、「単発イベント型」「継続イベント型」「コミュニティ醸成型」の3つのカテゴリーで行いました。

 「私たちは、大名行列を提案致します。船場は、豊臣秀吉が石山本願寺跡に大阪城を築城した際、商業者を移住させたことから開けた街です。そして今年は大阪冬の陣から400年目の記念の年。これらを踏まえて、私たちは”豊臣群と徳川軍による大名行列を提案します」

 まず登場したのは、なんと大名行列!そのフレーズに、クライアントの面々も身を乗り出します。なかなか奇抜な発想ですが、学生たちは実行プランも綿密に考えています。

「具体的には、豊臣軍が難波を起点に御堂筋を北上し、徳川軍は中之島を起点に南下。双方が船場の中心にある船場センタービルで遭遇し、模擬合戦の儀式を行います。その後は、大阪市のキャラクター・ゆめまるクンと、今回の調査で協力をいただいた浜松市のキャラクター・出世大名家康くんが手を取り合って友好を深める。こんな進行を考えています」

 船場の商工会を取りまとめる「船場元気の会」の副代表は、「ハードルが高そうなプランですが、メディアへの訴求力もあり、歴史的な意味合いもあります。御堂筋イベントで実現できたら、さぞや面白いだろうと思いますね」と顔をほころばせていました。

文化と歴史を活用した街歩きツアー

続いて、継続型イベントの提案です。
 「船場は歴史・文化遺産が数多く残る街です。そうした船場の魅力を深く知ってもらうために”文化・歴史ツアー“を開催します。ビジネスモデルは長崎の”通さるく”です。商人の街コース、文化探求コース、ファッションブランドコースなどいくつかのコースを設けます。案内をするのは、現役を退かれた街の関係者。ボランティアとして活動していただきます」

 長崎さるくに例をとった街歩きツアーを始め、食の街としても名を馳せる船場のグルメを紹介するWEBサイト「船場シュラン」や、船場の良さを外部視点で再発見しようという「写真コンテスト」の開催を提案しました。

「大阪は食の街として有名です。もちろん船場にも数多くの名店がありますが、マスコミが取り上げるグルメスポットはどうしても偏りがあるのが実情です。そこで、船場の人たち自らがグルメサイトを立ち上げ、メディアでは知られていない隠れ家的な店を紹介することは、活性化策として大きな意義があると考えます」

コミュニティを創って、クチコミ発信を目指せ!

「船場は一般にオフィス街、問屋街というイメージをもたれていますが、実は小売店や飲食店が数多く存在する街です。こうしたお店に少しでも大勢のお客様に来ていただき、ファンとして船場をアピールする“伝道師”になっていただく。それを目的に“船場まちなか楽校”の開設を提案します」

「船場まちなか楽校」は、船場にある小売店、飲食店が自店舗でセミナーや講座を開催するプランです。例えば、ワインショップでは大人をターゲットにしたワインとチーズの講座、パン屋では親子を対象にしたパン作り教室、そば屋では男性サラリーマンに向けて趣味のそば打ち講座など、5—10名の少人数講座を街のあちこちで同時に開催するコミュニティ醸成型のアイデアです。

「お店という緊密な空間において、集まった人が顔の見える距離で時間を共有することにより、Face to Faceのコミュニティを作っていくことが可能になります。こうした活動でファンになってくれた方は、その後もお店を利用してくれる可能性が高まり、クチコミで友人や知人に伝えてくれる伝達力も大きいと考えています」

会場の様子

 また、ユニークな「まちの駅」を船場に開設するアイデアも提案されました。「まちの駅」とは、地域の住民や観光客が自由に利用できる休憩所のことです。地域情報を提供する機能や、地域内での交流を促進する空間としても活用されています。こうした街の駅は、現在全国に約1600ヶ所設置されていますが、大阪府には、まだ1カ所もない状態。大阪で初めての「まちの駅」が船場にオープンすると、メディアへのアピール力も大きいと考えます。

 「船場地区が率先して取り組むことで、観光客や住民の方によりオープンな情報を提供することができます。また、おもてなしをすることにより、船場をより身近に感じてもらうおともできると考えます」

 この他にも、これまでの活動を引き継いだ「お茶の学校、お茶講座」も提案されました。学生が提案した8つのプランは、どれもクライアントの興味を惹いたようで、質疑応答でも、踏み込んだ質問が飛び交いました。
「普段、私たちは船場という街にどっぷり浸かっている状態です。地元のことはよく知っているけれど、外の方から船場がどう見えているのか、わからない部分もあります。外部の若い方の視点で見直してみると、こんなに面白いアイデアが出て来るのだな、と実感しました」とのコメントは、せんば心斎橋筋協力組合の理事。

 この日の提案をもとに、今後はクライアントである船場の商工関係者の方々が協議を重ねて行きます。そして、見事採択されれば、次は実行プランの作成へと着手。10月の船場祭りを目指して、ゼミ生は具体的な活動に入っていきます。
 
 3年目に入った船場の阪南大学のコラボレーション。今年はどういったプランが形になるのか?現場主義をモットーとする山内ゼミの活動が、2014年度も動き始めました。

プレゼンテーションを行った学生の声

若い世代が行ける暖かみのあるイベントを ----松下翔さん

 僕は愛媛県大洲市で、坂本龍馬脱藩の道を生かしたイベントへの取組みを調査しました。大洲市は1日にバスが数本しか走っていない、過疎化が進む地方都市ですが、坂本龍馬という日本人なら誰もが知っている財産を持っている。それを上手に活用していると実感しました。
 船場も非常に歴史のある街で、たくさんの文化施設や歴史スポットがあります。そういうものを掘り起こした形での活性化が向いているなと思います。僕たち学生から見ると、船場はオフィス街というイメージが強く、土日は休みの店も多い。少し敷居が高いと感じることもあります。そういう意味で、暖かみのあるオープンなイベントを作っていければ、船場にも若い世代が足を運びやすくなると思います。

小売店発のイベントが船場には似合う ----松木喜弘さん

 長岡京市と山形県新庄市でフィールドワークを行ったのですが、どちらの街も非常に熱心でした。特に新庄は1時間のヒアリング予定だったのですが、気づけば2時間もお話しいただいて、熱意がヒシヒシと伝わって来ました。
 新庄では、商店街のお店が「まちなか楽校」という活動をしており、どのお店も工夫を凝らした講座を開いています。主催者だけががんばっているのではなく、参加される方全員が一生懸命になっておられるのが伝わってきました。
こういう小売り店発の小さなイベントは、老舗が多い船場で十分に応用できると思いますし、実行すれば面白い展開になると期待しています。

外部の視点で再発見する土地の魅力 ----近藤怜奈さん

 鳥取県伯耆町のバーガーフェスタを調査したのですが、考えたことをすぐに実行に移す主催者の行動力が素晴らしかったです。どんどん動いているから成功に結びついている。そして明るい。その人柄に惹かれました。
 鳥取は実際に行ってみると、JRの駅前でも歩いている人が少なく、閑散とした雰囲気なんです。でも、大山を始めとする自然、農産物や海産物の美味しさは驚くほどでした。魅力的な素材がありながらも、地元に人はその良さになかなか気がつかないんですね。外部の視点で再検証するというのは本当に大事なことだと、調査を通して気づかされました。

貴重な出会いがたくさんありました ----高松加奈さん

 私は浜松市のゆるキャラ「出世大名家康クン」を活用した街おこしを調査しました。マスメディアへを巻き込んだ大掛かりなイベントでしたが、コンテストを行い、優勝できなかったらキャラクターが髪の毛を切ると宣言。実際に断髪式まで行って、それをもイベントとして見せてしまう。綿密なシナリオを組み立てて、実行していくところが、勉強になりました。実際に現場で活動されている方々のお話はためになるところが多く、貴重な出会いもたくさんありました。
 船場の街は、外部の視点で魅力を再発見する「写真コンテスト」などが適していると思います。実現できれば、面白い展開になると思っています。

地元に対する愛着こそが、活性化の原動力 山内孝幸教授

 学生がフィールドワークを行った12カ所のうち、今も活況を呈しているのは、2カ所のみです。それほど、地域活性化というものは継続して効果を出していくのが難しいものです。山内研究室では、これまで様々なジャンルの企業と連携してマーケティング活動に関わってきましたが、会社組織とはまた違う難しさが、地域活動にはある。そう言えます。

 鳥取のバーガーフェスタは、NPOが中心になって活動しているのですが、主催者は鳥取の方ではありません。もとは大阪在住の写真家さんです。写真撮影という仕事を通して鳥取の自然に惚れ込み、移住を決意した方で、鳥取の良さをなんとか広めたいと、活動を始められた。そういった中心になる人の熱意こそが、地域活動においては成功の原動力になると思います。

 この船場のプロジェクトも、船場を面白くしたいという地元の方々の思いが原点になっています。自治体主導ではなく、そこに暮らす一般の方々が率いている。そういう意味では、成功への原動力は十分にある。あとは、いかに実行可能なプランを立て、地元の方々を巻き込んで、継続できるかが決めてです。

 学生たちの着想は、最初は奇抜なものも多かったのですが、討議を重ねた結果、より実現性の高いものに絞っていきました。大名行列なども、一見、ハードルが高そうに思えますが、阪南大学は天王寺・真田幸村博などの歴史イベントにも関わっており、その方面への知見もありますし、人脈も持っています。こういうネットワークを活用して、秀吉と家康が握手するといったイベントを開催すれば、メディアを巻き込んだ大きな話題にもなるでしょう。

 これから約半年かけて、実行へと進めていくことになると思いますが、学生レベルの活動に終わらず、プロとしても通用するだけの実績を残したい。そう考えています。